2、あんこ派宮ちゃんの驚愕的な復讐 「なんしておみゃーさんらはこげんいつもいつも……!」 超がつくほど唐突に怒り出した宮ちゃん♪。一体どうしたのかと皆がサバゲを中断して彼の下へと駆け寄ってきた。 「どうしたんだよ。一体……?」 ハルマが宮ちゃんにそう尋ねると、 「どうしたもこうしたもなかばい!」 と、宮ちゃんが怒鳴ってきたので、ノブサンは迷う事無くP90のトリガーを引いた。 バラタタタタタタタタッ 宮ちゃんの、ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!? という凄まじい悲鳴が、お昼下がりの爽やかなヤマゲリ山に木霊した。 「う、うぅぅ……」 ノブサンは嗚咽するボロ雑巾・宮ちゃんの無残な死体に追い討ちの蹴りを入れてやりながらも、 「とりあえず落ち着け。何がどうしたというんだ?」 宮ちゃんは泣き崩れながら、はいっ、と小さく返事をした。 「もういいです……何でも」 意思が挫けてしまったようですね。弱虫な宮ちゃん♪ ドゴス! 「ギゃース!」 ノブサンの股間蹴りに思わず奇声を上げる宮ちゃん。ヒドイ……ひどすぎるわノブサン! 股間を押さえて転がりまわる宮ちゃんを更に蹴た繰り回しながら、ノブサンは言葉を投げかける。 「聞かせろよ。気になるじゃん!」 ただの追い討ちです。 そんなノブサンの態度にプルプルと震え出した宮ちゃん。唐突に股間から手を放して、その後で鈍痛にもう一回だけうずくまり、しかしながら根性で立ち上がった! 「そんぎゃ言い草はなかとばー!」 パワー全開! 怒りのゲージがマックスを迎えました! そのままノブサンのほうへと向き直り―― 「………………………………(汗)」 周囲の五人全員が宮ちゃんに向けて銃口を向けていた。 「踊れ」 ハルマが冷酷に命令する。 「………………………………(焦)」 宮ちゃんは首を高速で前後させると、ただただ必死にヒゲダンスを踊るのみ。 宮ちゃんの懸命さがヒシヒシと伝わってきますね。頭に突きつけられたハルマ・わげのデリンジャーが良い味出してますよ 踊り出して数分の後。 「飽きた」 ハルマは唐突に引き金を引いた。 銃声「バキューン!」 しかし誰も、「ミザリー!」とは叫んでくれなかった。 「嗚呼、無常なりきは銃の音か……(詠み人宮ちゃん辞世の句)」 ドサリ。と宮ちゃんが倒れ込んだその瞬間! 「殺っちまえい!」 ノブサンが宣言すると同時に全員が発砲する! 「ぬぃぃぎゃああぁぁぁぁぁぁ――――――――――――――――!?」 憐れ宮ちゃん、合掌――ていうかノブサン。あんた鬼や……本物の鬼やで!? それから約五分ほど後。 キョンシーの如く飛び起きた宮ちゃんは、疲弊しきった表情で地面を見つめ、その後でゆっくりとノブサンの顔へと視線を上げていく。 「大丈夫か?」 そこには皆の爽やかな笑顔があった! 青春って、良いね! 「っ、じゃあねぇー!」 宮ちゃんの咆哮に誰もが度肝を抜かれたでしょう。ふふ、若いわねぇ。 しかし宮ちゃんは脱力してノブサンの顔を見、 「どうしておまえはいっつもそうなんだよぉ〜。こないだのたいやきの時もよぉ〜」 「いや、あん時はお前が勝手にキレたんじゃねぇか」 「あの御蔭で私の面目丸潰れよ? どうすんのさ一体……」 「どうすんのって……」 ノブサンが言葉に詰まったその瞬間に、 「何の話?」 とカテ菌が割り込む。 そこでノブサンが他4人の顔を見、 「ああ。君たちは知らないんだよね」 納得した表情を見せる。そこへくろひもが、 「オレは知ってるよ。ホームページ見た。宮ちゃんがワイヤーに引っかかってた奴でしょ?」(←詳しくはノブサンのHP「XM−X」のゲリ長緊急特別臨時ページに載ってる「たいやきの為の戦い」を見よう! 以上、露骨な宣伝でした!) 「そうそう。良く覚えてるじゃないか」 「あれすっげ―笑った! いきなり宮ちゃんコケてんだもん!」 「うっせいこのヒモ! ヒモのくせに!」 「なにー、この野郎!」 「ロープ! ロープ!」 しかしノブサンはこんな二人の幼稚な喧嘩など気にする事無く三人に向き直り、 「え〜っ、とね。確か……」 〜説明中につきしばらく美しい夜桜を眺めてお待ちください〜 「――ってことだよ」 とノブサンが説明し終えると、 「そんなことがあったのか」 「あんこ原理主義ってどういう宗派よ……」 「たいやきをこよなく愛する余なれどもカスタードは容認できると思うが」 「俺あんこダメだからカスタードしか食えないんだよな」 「なるほどねぇ」 「しかしたいやきを愛するが故の偏狭、解からぬでもないぞ……勇者よ」 「ふはは。魔人と呼ぶが良し」 などとそれぞれが話し合っていた。しかしノブサンはそのなかで一人、カテ菌が俯きながら肩をプルプル言わせているのに気付き、どうしたのかと声をかけてみる。 「お〜い、腹でも痛いのか? 塹壕で休んでたほうが……」 その瞬間に顔を上げたカテ菌の目は血走り、瞳は怪しげな眼光をたたえているではないか! ヒッ、とノブサンが一瞬怯んだその隙に、 「ふっざっけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 カテ菌が絶叫した! 「!…………!?」 全員が目を丸くしてカテ菌を凝視する。その直後にカテ菌は宮ちゃんの頬に不意打ちのパンチを喰らわせた。 ドゴス。 「おうっ!?」 ちょっとだけ、か・い・か・ん☆、な感じの声でしたね(笑) しかしながらよろめき膝をつく宮ちゃんをカテ菌は見下ろし、人差し指を思いっきり突きつけ、言う。 「あんこが負けるだと!? 貴様、日本の誇れる伝統和菓子・たいやきに異文化種を植え付けることを容認したというのか!? いつからそんな腑抜けになったのだ! お前はもっと高貴だったはずだ! 自らの主張に絶対的な自信を持ち、まるで某宗教原理主義組織の如く熱い正義感と使命感に燃え、誰もが認めるたいやき文化の番人だったはずだ! わしは悲しい! たった一度の戦闘に破れたくらいでたいやきの夢を潰してしまうというのか!? そんなことではこれからの貴様の人生に重大な欠陥を招くことになるぞ! 宮ちゃん、もう一度、その熱く揺ぎ無い魂を目覚めさせてくれ! そして我々の正当な主義主張を全世界の間違いに浸透させ、全てを正しく直して行こうではないか! たいやきの、いや、あんこの、いや、世界の運命は、我々の手中にあるのだ〜!」 気が付いたときには、宮ちゃんの双肩には、カテ菌の手が添えられていた。 そのとき宮ちゃんはカテ菌の瞳が美しく澄んでいる事に気が付いた。なんと真っ直ぐな輝きか。これは私の見失っていた何かなのではないか。いや、そうに決まっている。私は大事なことを無くしてしまっていたのだ。私がこんなことでどうするのか。カテ菌の言うとおりだ。こんな腑抜けた状態でなにがゲリ長の特攻隊長か。あんな腑抜けはまさに恥ずべきことなのである。彼の言うとおりに、我らが未来は我らが握っているのだ。世界の命運を守るため、私は今こそ立ち上がらねばならない! 誰を敵に回してもいい、私は私と、そして世界のたいやきの為に闘わねばならない、戦わないで如何するのか――!? 「カテ菌……」 宮ちゃんは自らの瞳から大粒の涙が溢れるのを感じた。 「僕が間違ってたっす……!」 二人は溢れ出る涙を抑える事が出来なかった。互いに目尻を拭き、次にはサッパリとした表情で目線を合わせ、勢い良く立ち上がる! 「宮ちゃん!」 「カテ菌!」 二人は力いっぱい抱き合った! 同じ夢を、同じ目標を、そして同じ使命を担った二人は今、自らの立ち位置を確認したのだ! 怠惰な日々の中で忘れ去っていた熱い気持ちがいま目を覚ます! 二人にとって世界は今や遠いものではない! 『ありがとう太陽! ありがとう森林! そしてありがとう父さ〜ん!』 素敵な日常よこんにちは! ああ世界が輝いて見える! お日様はこんなに眩しかったんだねぇ! ――青春って、良いね! 肩を組み、高く聳え立つヤマゲリ山の切り立った崖部分に向けて希望を夢見る、そんな二人。訳もわからずキラキラした二人の背中に圧倒されたノブサン達はやや引いた感じで彼らを見ていた。しかしながらノブサンは嫌な予感がバリバリしていて不安感の増大に悩まされるばかり。 とりあえずあの二人を早めに止めねばならないと思った彼を振り向いた。 「なんか凄いこと言って――……えっ?」 ギョッ、とした。 視線の先には、深く感涙したウィリアムスが、静かに頷きながら二人を見つめていたのだ。 「お、おがわさん?」 ノブサンは背筋が粟立っているのを感じた。 「我慢できん……」 静かなウィリアムスの声音に、ハッ、としたように他の二人が振り向く。 「素晴らしかこつ〜!」 ウィリアムスは――いや、薩摩藩主・小川峻厳殿は、肩を組み合って輝く明日を見つめる二人に駆け寄ると、そのまま彼らに抱きついたではないか! 「おいは感動したばい! こげん美しか友情は久しぶりたい! おいどんもその輪に入れて欲しいでごわんど!」 「おがわさん、解ってくれたんだね!」 「そうじゃあ、おいどんが間違ってごわす……。深い感動のなかに自分を見出しもうして、ごぎゃん生き方をおいもいたしておったことを思い出したばい。是非ともあんこの素晴らしさと独創性・普遍性を持って世間の世界観をうぐぅと言わせてやりたいでごわす」 「言わせてやろうぜウィリアムス! その興国の精神で!」 「おいどんも薩摩弁の心意気を思い出しもうした。素晴らしか精神でこの歪みきった世界を矯正していくでごわす」 うほほ〜いうほほ〜いと謎の叫び声を上げつつ歓喜に踊り狂う怪しげな三人衆。この時ノブサンは、「南澤@が居なくて本当に良かった……」と、真面目な気持ちで安堵したとかしないとか。 とにもかくにも、かつてない淀んだグリティングリティンした形容し難い空気がその三人から発散されている状況が出来上がってしまったわけである。 どうしよう、と思う。 「なんだか凄いことになっちゃったなぁ」 ハルマが思わず呟いた。 「奴らの主張、要するにたいやき市場においてはあんこの独占のみによる文化的狭窄政策で自由主義経済を否定するということだろう? 独創性と競争力によって磨かれてきた日本の資本主義社会を真っ向から否定するだけじゃなく、現行日本の資本主義経済と大型の資本力を衰退させかねない、かなり危険な主張だぞ」 「……そんな複雑なことは考えてないんだろうなぁ。あいつら」 ノブサンはとりあえず呆れ返るだけ。 盛り上がる三人を尻目に、さぁてどうしたものか、とノブサンが次の事について思案し始めたときだ。 「しかし、だ……」 宮ちゃんがあのはしゃぎっぷりからは考えられないほどの冷たい声音を出した。 思わず振り返る全員。 「我々には今、まさに越えねばならない壁がある……」 「なにっ!?」 「それは如何なる事もそ?」 宮ちゃんに問い掛ける峻厳殿とカテ菌の二人。ノブサンはとりあえず嫌な予感に冷や汗タラリ。 「それは――」 バッ! 宮ちゃんが大袈裟に振り向いた。 「貴様だ! ノブサン!」 「ああ、やっぱり……」 頭を抱えるノブサン。しかしそんなことは宮ちゃんにとってはお構いなしなのである。 「貴様は一度、この私の野望を打ち砕き、汚らわしきカスタードを容認しくさった! その雪辱、そして今度こそあんここそが至高であるということを貴様に思い知らしめてくれるわ!」 「……なんかすげぇこと言ってやがる」 「我々はここにあんこ原理主義組織『ANCO』の樹立を宣言する――!」 うおおぉぉぉぉ――! あんこ原理主義者たちの気勢の声! ハルマとくろひもとノブサンはしばらく目を点にして黙っていたが…… 「『えーえぬしーおー』?」 「ああ、『あんこ』か」 「『あんこ』だな」 まんまじゃあん、とハルマが呟くが、宮ちゃんにはそんなことを聞くつもりは無いようで、 「来い、このカスタード野郎ども! 戦い方を教えてやる!」 うるせぇなぁ――自称『ANCO』の調子づいた宣言に、カスタード共和派の三人はキレ気味で答えたのだった。 3、卑怯! 「これがあんこの戦い方さ――」(←ニヒルな笑み) ふと、ノブサンは気が付いた。 すでにゲームの開始は宣言されており、坂側、つまり宮ちゃんたちに対して上に位置していたノブサンたちが、ほぼ完璧な状態で進展を待っていたときのことである。 手前からノブサン、くろひも、ハルマ・わげ。くろひものGスペックだけ色がおかしいのは気のせいでしょう。多分。 「おい、あれ……」 ノブサンは二人に言って、坂を手を上げて登ってくる宮ちゃんに警戒させた。 「俺が行くよ。もしもの時は頼んだ」 「オッケー任せろ。お前のケツは守ってやる」 頼りになるハルマの言葉に笑みを返し、ノブサンは宮ちゃんの前に姿を晒した。 「どうかしたのか?」 銃口を下げてスリングで吊るした状態。しかしこれは警戒を解いているわけではない。背後の二人を充分に信頼しているからこそ出来ることなのだ。 上にいる二人の殺気に気付いているのかいないのか。宮ちゃんは朗らかな笑顔で両手を翳し、言った。 「補給は要らんか?」 ………………。 「はっ?」 「いやだから補給だって。なし崩し的にゲームに突入しちゃったから装備の整備もやってないだろ? こっちが塹壕に近いから補給は簡単だけど、そっちは色々と難しいっしょ。だからガスと弾、持ってきた」 ニコリ、人懐っこい笑みが宮ちゃんの顔に浮かぶ。 ………………。 ノブサンは迷った。自らの主張のためには手段を選ばない宮ちゃんだ。正々堂々と戦おうとしているその姿勢に胡散臭さを感じる。こっちの補給をさせずに長期戦で消耗させるのが、こういう場合の普段の宮ちゃんのスタンスだったはずだからである。 さりげなく視線を眼下へ走らせる。すると、先程まで遊撃的に広がっていたウィリアムスが、カテ菌とともにスタート地点の岩陰に居た。確かに一時休戦の意が向こうにあるのではないかと思えた。油断しきったところを一網打尽に奇襲しよう、というせこい作戦ではない様子なので、ノブサンは表面上はフランクに宮ちゃんに答えていた。 「サンキュー。弾数少なくて困ってたんだ」 来いよ、とノブサンは宮ちゃんに手を振って、彼を自陣に招きいれた。 「宮ちゃんが入っていったぞ!」 カテ菌がそう言った直後に、ウィリアムスは自前の双眼鏡を取り出し、敵陣地を覗き始めた。 双眼鏡を覗いて敵の戦力を確認するウィリアムス。アームズ編集部の小川軍曹と名字は同じだが、ゲリラリラに捧げる悪の心意気は全く違うぞ! 「どうだい?」 カテ菌がそう問い掛けてくる。 「配置はやや真中が陥没気味のスリーバック。坂に逆らわないようにして上からハルマ、ヒモ、ノブサンの順になっておる。陥没しているヒモの部分がブッシュが濃く、また奥まっていることから攻撃が届きにくいようだな。尚且つこちら側は開けた丸見えの場所にいるから、狙撃としては最高のポジションだ。左右にそれぞれタレントを据えることでヒモをスイーパーにする作戦と見た」 ふ〜ん、とカテ菌は唸った。 「何気に総合力が高いからなぁ、向こうは。それぞれの能力にばらつきがあるからバランスが良い」 「ノブサンとハルマが組んで戦略構想能力は格段に向上しておるしな。これを崩すには宮ちゃんの弾幕支援とアタッカーの度胸が必要と見た」 「よし。こちらの戦力比を検討しよう」 こうして二人は静かに作戦会議にのめり込んでゆく。 ANCOの作戦は宮ちゃんを餌に使うことで敵の戦力と戦略を分析し、その対策と傾向を練ろう、と言う物であった。 セコイですね。 4、見るが吉。これがデリンジャーの底辺魂! ゲームの再開が宣言された直後に、ノブサンはカーブを乗り越えて前面に立ち、大胆にも下方への弾幕を展開した。これは「慎重な防衛戦に出る」と読んでいるであろう宮ちゃんたちの想定を破壊し、向こうを浮き足立たせるという効果的な戦術を狙ったものだ。 開けた場所に立ってみせるノブサン! その度胸に恐れ入ります……。 「う、うわわわわっ!?」 岩の裏側で、慌てふためいたような宮ちゃんの悲鳴が聞こえたとき、ノブサンは「してやったり!」と心中でガッツポーズを取ったものだ。 予想通りに烏合の衆と化したANCOチームは、亀のように首を引っ込めてノブサンの弾幕を耐え忍んでいる様子であった。解かり易い奴らだなぁ、とノブサンは苦笑しつつ、P90を右腕だけで持って左手の人差し指を突き出した。 ――前へ行け! 「う、うわわわわっ!?」 目の前で弾ける無数の弾丸。思わず叫んで大慌てで首を引っ込めた宮ちゃんは、岩に背を預けるようにして心臓を押さえると、息を切らしながらこう言った。 「うっそ〜ん……」 心底困り果てた感じの声音。困ってますねぇ。 その後でガシガシと頭を掻くと、だーっ、と叫んで俯く。 「どーすりゃ良いのさこんなん!」 「まさかいきなり撃ってくるとは……」 「てっきり篭城戦に入ると思ってたのになぁ」 様子を見るためにカテ菌が道の反対側から頭を出してみた。 ビシッ! 目の前で白色弾がはじけた。 すー、と頭を引っ込めて、 「びっくりしたぁびっくりしたぁびっくりしたぁ!」 暴れる心臓を押さえつけている。 宮ちゃんは頭を抱えた。 (正攻法はノブの弾幕で消されてる……だが裏道から抜けようにもヒモの狙撃で邪魔されてしまう。まさに前門のトラ、後門の狼だなぁ) お手上げだよもう、と天を仰ぐ。 もう一回、宮ちゃんはノブサンの弾幕が降り注ぐ坂道を見た。 この中に飛び込んだら宮ちゃんは格好の標的となろう。出てきたのが宮ちゃんであった場合、あの三人は容赦する事無く思うさま弾丸をぶつけて来るはずだ。まるで何かにとり憑かれたかのように! まるで親の敵を目前にしたかのように! 蜂の巣になった自分の姿を思い浮かべ、それもありだなぁ、と思ってしまう。 いやいや。 ちらっと横を見ると、緊張した面持ちで銃を構える二人が居た。いま私が居なくなったら二人の同志はどうなってしまうのか。サバゲ経験が最も長いこの私が二人を導かねばならぬ。しからばいまこの私がここを去るわけにはいかない――。そんな思いが駆け巡り、宮ちゃんは特攻を思い留まった。 サバゲ実績は無いくせにね。 増長と過信に満ちた宮ちゃんはイングラムを構えつつ低い姿勢で相手を盗み見た。しかしそれで撃つことはしない。自らの位置を知らせることになったらそれこそ心配した通りに蜂の巣になってしまう。かといって「ジョゼフチェンバレーン!」などと十九世紀後半のイギリスの植民地相の名前のような奇声を発しながら突っ込んでいったらノブサンが殺しに掛かってくるだろう。 こんな明白な運命に飛び込んでいいもんか――と、宮ちゃんは呟く。 そっと頭を戻して警戒していると、不意に自分に影が射したのが解った。何事かと見てみるとウィリアムスがそこに立っている。やけにサッパリとした顔に不安を覚えた宮ちゃんは口を開きかけたが、先にウィリアムスが声を発していた。 「宮ちゃん、カテ菌、あとはよろしく頼みもそ……」 光がウィリアムスの顔に影を作り出していた。 精悍な男がそこにいた。 「ま、待て! お前まさか……!?」 「わしも、男じゃけんの」 言うが早いか、ウィリアムスはハイキャパ片手に飛び出した。そのまま猛烈な勢いで坂を駆け上る! 「やあやあやあ我こそは皇帝ウィリアムス・オガワ・シスタード! 汝らの首、私が頂く!」 弾幕を掻い潜りノブサンに決死の覚悟で接近するウィリアムスに、宮ちゃんは半べそをかきながらこう叫んだ。 「『じゃけんのう』は広島弁だよオガワさん――!」 ノブサンが前面で弾幕を展開しているうちに、ハルマ・わげは道の奥から裏に下がって前線へと上がってきた。 あんたゴーグル似合いすぎです! 相棒のデリンジャーを油断無く構えてノブサンの横につき、一瞬だけ目を合わせて頷き合うと、ハルマは姿勢を低くし叢に身を潜めるようにして少しずつ前進していった。曲がり角で素早く駆け出して下の叢に身を潜ませて、また前進しようとしたその時! 「やあやあやあ我こそは皇帝ウィリアムス・オガワ・シス……(以下略)!」 との宣言と同時にウィリアムスが飛び出してきた。 「なにぃ!?」 突然のことにノブサンは驚愕の声を上げ、ヒモの狙撃も一瞬、緩んだ。全員が、ここは宮ちゃんから無謀な特攻を繰り出してくると思っていたのだ。そうなれば順々に各個撃破すればいいのだが、ウィリアムスがあまりにも勢い良く出てきたので、彼らは驚愕して攻撃を忘れたのである。流石と言うべきか立ち直りの早かったノブサンが弾幕を展開するが、ウィリアムスは驚愕的な運動能力とボディ・バランスでトップスピードでの蛇行と急旋回を繰り返し、P90の弾道を読んでいるかのように効果的な回避行動を取る。その不規則な動作にヒモの狙撃も功を成すことは無かった。 (ヒモの狙撃が正確だからだ……。だから出来る奴からすると読みやすい物になってしまう――) 冷静に分析する。ヒモは精神的なムラが強い。誰よりも努力して技術を身に付けたのは解るが、その自信から、初動を失敗すると崩れる危険性があるのだ。ウィリアムスをこのまま放っておくと危険だと、ハルマは判断した。 だから彼は頭を出し、叢から飛び出して前に駆けたのだ。 『ハルマ・わげ!?』 後ろの二人の驚愕と不安が読み取れる。ここに来て始めて、ウィリアムスの後方で宮ちゃん達が援護射撃していることに気付き、イングラムの連射性能を目の当たりにしたからだ。驚異的な弾幕に不安がるのも無理は無い。しかしハルマは、絶対に大丈夫だ、と信じていた。だからこそ親指を立ててみせる。 俺を信じろ――! そうメッセージを込めて。 後方支援がいっそう激しくなった。ヒモの狙撃に驚いた宮ちゃんが頭を引っ込めたのを見て、50メートルを6秒台で走り抜けるハルマの俊足にキーが入る。全力の踏み込みと蹴り放し。鳥居を挟んでウィリアムスの正面に来た。 「貴様ぁ、朕の、朕の行く手を遮るかぁっ!?」 今までヒモやノブサンへの牽制に打たれていたハイ・キャパシティ5.1。その銃口が自分に向いたのを自覚した。 「世界の妹を司る――だがそんな独善的なお前には負けない……!」 ハルマは瞬時に鳥居を通り過ぎ、ウィリアムスの目前に来た。パンパンパンッ、一瞬のうちにトリガーを三回引いていたウィリアムスだが、その弾丸は全てハルマの横を空しく通り過ぎるだけ。その隙にデリンジャーの銃口を向けたハルマ。一瞬の交錯。チャンス! そう確信して、ハルマは引き金を引く。 ウィリアムスはその瞬間に右肩を回転させるようにして体を倒していた。いつも使っている重量のある槍ではなく、いま彼の手の中にあるのはちっぽけなガスガンでしかなかった。重さの違いが重心移動に思わぬ違いをかけはするが、ウィリアムスはそれでも強引に至近弾を躱し、AMBAC動作で傾く身体を鳥居の柱で固定すると、ハイキャパの引き金を引いて見せた。 ハルマはハンマーを起こしていた。 パン、とパン、は連続していた。 ブワッ、ハルマの身が翻り、足が地を離れて宙を舞う。呻き声すら発する暇なく、彼の身体は石で出来た小さな柱に激突し、「く」の字で倒れ、そのまま動くことすら出来ずにいた。 「くくっ……!」 ウィリアムスが呻き声にも似た笑いを発す。 オガワさん、と宮ちゃんの歓びに満ちた声が響いた。 しかしウィリアムスは、銃を握ったままの右拳を左肩に当てると、そのままズルズルと崩れ落ちる。 「天晴れなものよ……! 誇りを感じて良い――」 ウィリアムスの腕が力なく落ちた。 突き刺さったハルマが非常に辛そうですね。 5、動く歩道の上のカテ菌 「マスタァァァァァァァッ!」 うんたらケノービことカテ菌はくず折れるウィリアムスを見て、思わずそう叫んでいた。ちぃっ、と隣で宮ちゃんが舌打つ。同時に宮ちゃんはイングラムの銃口を上げると、瞬時に弾幕を張ることで、呆然として身体を曝け出しているカテ菌を守るのだ。直後にカテ菌は岩の後ろに引きずられると、頬を二、三回と張られた。 「しっかりしろ!」 ノブサンの弾幕が止んだ瞬間を見て、イングラムを斉射する宮ちゃん。 「ウィリアムスは最後まで信念を持って散っていった。ならば私たちがそれに報いねばいけないはずだろう!?」 カテ菌は、ハッ、とした。 その横で、くそっ、と宮ちゃんが毒づき、マガジンの交換を始めた。スピード・リロードはしかし、離れた場所にあるマガジンを取るのに手間取り、一瞬の間を空けてしまう。 カテ菌は飛び出した。 「ここは死守する! アンコ党の名にかけてでも!」 ――だから後は頼む……。 「なっ……待てよカテ菌!」 宮ちゃんの制止を振り切ると、カテ菌は決死の覚悟で飛び出した。 タランティーノくらいレンタルしとかなきゃいけない勢いです! (ウィリアムスに報いるために……宮ちゃんに賭けるよ) カテ菌はその想いでMPLを乱射していたが、タクティカル・マスターをすっかり置いて来ていることには全く気付かなかった。 6、驚愕の想定外!? 新生くろひもの真実の力! ハルマがウィリアムスを食い止めた一瞬にくろひもが動き出す。曲がり道の手前まで移動してVSRを構え、敵のほか二人を牽制し、自分は次の作戦に全神経をかけるのだ。ウィリアムスはハルマが仕留める。信頼しきった存在であるからこそ、くろひもはそれができる。 さりげなく格好良いですね。でもサバゲのヤマゲリ山に半そで短パンは間抜けですよ。 銃声が交錯した。ハルマが吹き飛び、そしてウィリアムスが崩れた瞬間、ヒモは前に駆け出した。それを見てノブサンが牽制のための弾幕を張ってくれる。宮ちゃんの射撃が来る頃にはヒモは前線の叢に潜んでいたのだ。 体制を立て直して敵方向にVSRの銃口を向ける。スコープを覗いて照準を照合させると、直後にカテ菌が飛び出してきた! 「殴られた記憶もろくに無いくせにー!」 叫び、エアコキとは思えないほどの速度で、カテ菌はMPLを乱射する。その剣幕にびびりながらも、ヒモは急いでカテ菌に照準をあわせ、トリガーを引こうとした。 その焦った心境ではカテ菌を討ち果たせはしなかったろう。 ヒモは今は亡きハルマの言葉を思い出したのだ。 『狙撃屋は待つのが仕事だよ。それが出来ないようならウィリアムスに代わったほうが良い――』 人差し指の力を緩めた。 その時にはノブサンが、弾丸の節約を考えたのだろう、いったん後退し、体勢を整えているようだ。 ありがとう、と思った。自分を信頼してくれているのだ。だからノブサンは、残る宮ちゃんとの戦いに残弾をきる覚悟で、カテ菌をヒモに預けたのだ。そう感じられた。 「ならば――仕留める!」 小さく、覚悟を呟いた。 カテ菌は真っ直ぐ突っ込んでくるようなことはせず、鳥居の柱に背を預けるようにして身を隠し、直後には道側ではなく反対側の左肩から回り込んできた。 流石だな、と感心した。同時に、残念だ、とも。 こちらを向いたカテ菌と視線があった。彼は目前にいた。 ヒモはゆっくりと唇の端を吊り上げると、ここだ、と確信し、言った。 「開かないドアの事を壁と呼んじゃいけないかい?」 カテ菌が小さく何かを呟く。ヒモは静かにその唇を読んだ。 『Goin‘――?』 ヒモはプルを極力押さえ込んだトリガーを引き絞り―― カテ菌は静かに倒れた。 見えにくいですが赤丸で囲まれているのがくろひもです。念のため。 7、ANCO最期の日 馬鹿な―― 宮ちゃんはただ呻くのみ。 信じられなかったのだ。 自分の積み上げてきたものが崩れていく。 それが信じられず、また怖かった。 「まだだ! まだ終わらんよ!」 イングラムを掴む。汗ばんだ掌にABS素材のグリップが濡れた。しかしそれに気付く事無く、宮ちゃんは岩陰から一気に飛び出し、駆け出す。 狙うは一人。 「ノブっ!」 トリガー前の僅かなハンド・ガードに左手を添えて腰の高さに固定し、畳んだままストックを引き出して肘に合わせると、フル・オートでトリガーを引いて宮ちゃんは弾丸をばら撒きながら走った。それはヒモを牽制する意味での行動であり、同時に死んでいった(←?)仲間たち、何よりも自らの顔に装着したお髭さま付き鼻ゴーグルにかけて、宮ちゃんは勝ちを諦める訳には行かないのだ。 狙い通りにヒモが、焦ったように身を屈めて叢に隠れる。その隙に全力疾走の宮ちゃんは倒れるウィリアムスとハルマの横を通り過ぎ、カテ菌の屍を踏み越えて、叢の真横にまで到達した。 ヒモがVSRの銃口を向けていた。 「通り抜け、もってのほか……!」 圧搾空気が解放される。 瞬時に宮ちゃんは驚異的な速度でボディのバランスを入れ替えた。体を後ろに反らすことで首を投げ出し、発砲された弾丸を避けると、唇の端を吊り上げる。 イングラムを向けた。 「どうか受け止めて――」 くろひもの、ちいっ! という毒づきを耳にする。宮ちゃんはプラスチック弾を速攻で出そうとして、直後に殺気を感じて飛び退った。 ばばばっ、地に跳ねる弾丸。弾痕が生々しく刻まれたのは、宮ちゃんが先程まで居た場所の真後ろであり、その削られた土には、紛れも無く電動ガンの強力なEG700ハイトルクモーターで射出された弾丸が残っていたのだ。正確な射撃。その斜線上には、ドット越しに標的を見つめるノブサンがいる。 「これ以上はさせないよ」 静かに笑んだノブサン。その迫力に飲まれていることに、宮ちゃんは気付きたくは無かった。しかし認めざるをえないだろう。彼の全身を包む緊張がノブサンから来るプレッシャーを物語っているのだ。 だから宮ちゃんは、ゆっくりと立ち上がり、言う。 「ようやくご登場か? 良い御身分だな、大将殿よ」 皮肉な笑いが気を持たせてくれる。宮ちゃんにはそれしかできることはなかった。 高揚を静めなければならないのだ。 なぜならば宮ちゃんは、この男に勝ったことが無いからであり、過去の戦闘においてはノブサンの冷静さに破れたと言っても過言ではなかったからである。 熱に茹でられた脳が静かに冷めるのを感じて、宮ちゃんは安心してノブサンを見つめることが出来る。 対するノブサンもゆっくりと口を開いた。 「一騎打ちだ。それで終わりにする」 「笑わせてくれるわ!」 スリングで吊っていたイングラムを、宮ちゃんは掴み、そして持ち上げた。 (勝てる――!) 確信が興奮を呼び覚ます。 そして、汗ばんだ掌がABSプラスチック素材のグリップを滑り、宮ちゃんはバランスを崩していた。 しまっ――! ノブサンが銃を向けていた。 一拍。 ババババババババッ! 無常な銃声と共に身体中にインパクトが走る。それに押されて傾ぐ身体と暗転する視界。一瞬のうちに宮ちゃんは空を見ていた。 ザリッ、と耳元で砂の擦れる音が響いた時、宮ちゃんは自分が負けたことを知った。 左手でイングラムM11の銃身を掴んだままの宮ちゃんが倒れ込む。ザアアッ、と坂道を滑った宮ちゃんの身体が完全に地についたとき、ノブサンはP90を下ろした。 彼は特別に喜びを浮かべることも無く、また驚きを表すことも無く、静かに敗者を見つめるのみ。 悲しみと哀れに満ちた瞳が宮ちゃんを映していた。 「こんなのはただ――、っ惨めなだけだよ……!」 慟哭の中でカスタードの完全勝利 傾いだ鼻が哀愁を漂わせております。 エピローグへ 戻る トップに戻る |
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