第四章 「決戦の幕開け」


 格納庫では一機のアサルト・アーマーが組み立てられている。薄い灰色を基調とし、各部に黒のアクセントの入ったその機体が純の機体だ。防御力よりも機動力を重視した、パーツ選定で構成された機体だった。アサルト・アーマーは複数あるパーツを組み合わせる事で、搭乗者の要望にあった機体が造れるようになっている。
 今回の戦闘で回避を行わなかった純だが、逆に機動力の重要性を実感していた。確かに、攻撃をし続けて敵を寄せ付けなければ回避をする必要はないが、それは援護してくれる者がいるという条件下で、だ。いくら攻撃を行ったとしても、単体でカバー出来る範囲には限界がある。味方が背後を守ってくれなければ、複数方向から同時攻撃をされた時に対応し切れない。
 単機で戦うとなれば、回避運動は必要になってくる。
 訓練時の成績の高さから、暁彦や亜沙達のように前衛に出る事になっている純には、機動力は必要な要素だった。
 その純は、サポート・スーツを身に着けたまま手近なコンテナに腰を下ろしていた。
 出撃した戦闘部隊は全機帰還し、格納庫は修理や補給で忙しなく動いている。そんな中でも少しずつ純の機体は組み立てられていた。それを、純は眺めていた。
 先の戦闘での被害は、三機のアサルト・アーマーが戦闘不能状態まで破壊され、四機のアサルト・アーマーが半壊している。幸い戦死者は出なかったが、二名が重傷を負い、三名が軽傷を負った。
 単体でリグノイド以上の戦闘力を持てたとしても、数で圧倒的に劣っているイデアでは、ほぼ毎回戦闘で被害が出てしまう。戦死者が出る事も少なくはない。
 完全志願制を取っているイデアにとって、戦闘要員が減ってしまう事は戦力としてもかなりの痛手となる。
「……実戦を感じてみて、どうだ?」
 掛けられた言葉に、純は顔を声の方向へと向けた。
「大和さん?」
 そこにはサポート・スーツに身を包んだ大和がいた。
「ちらっとだが、見させて貰ったよ」
「……やっぱり、悩んでる暇なんて、ないですね」
 純は大和から視線を外し、答える。
「ああ、だからこそ、戦う前に心構えを作る必要がある」
「心構えが決まってなかった訳ではないんです。ただ――」
「――辛いか、人の命を奪うのは」
 大和の言葉に、純は顔を向けた。
 まるで純の心を見透かしたかのような言葉を告げた大和の表情は穏やかだった。
「そう感じたのなら、その感情は忘れるな。我々が守るためには、リグノイドの命を奪って行くしかない」
 大和の言葉に、純は頷く。
 戦場では躊躇えない。それは、先の戦闘で純が実感した事だ。純が攻撃を躊躇っていれば、背後にいた耕太に攻撃が向けられていた事だろう。それは、今現在の地下世界の縮図でもあるのだ。イデアが地下を守るために必死にならねば、地下はリグノイドによって壊滅させられてしまうのだから。
 現状では、地下を守るためにはリグノイドを殺して敵の攻撃を凌ぐしかない。
「……辞めたくなったか?」
「……いや、辞めないよ」
 大和の問いに、純は首を左右に振った。
 志願制のイデアは、申請さえすれば除隊も出来る。それをする者がいるかは知らないが、そういう組織なのだ。
「そうか」
 大和が小さく笑みを浮かべる。
 純は視線を大和から組み立て途中のアサルト・アーマーへと向けた。
「――そうそう、耕太から伝言がある。『援護ありがとう』だそうだ」
「――!」
 言い、大和が純の目の前を通り過ぎる。
 純はその背中を見つめる事しか出来なかった。
(……ありがとう、か……)
 視線をアサルト・アーマーに戻し、純は思う。
 感謝されたのは久しぶりのように思えた。地上にいた時は、平凡な毎日を無難に過ごしているだけだった。人との関わり合いも問題のないよう過ごして来たために、怨まれる事も感謝される事もない。養子という事で家族からも気持ちは一歩退いていた。
(今回は守れたって事かな)
 耕太の背後は守れたのだろう。
「……あ、純? まだここに?」
 亜沙の声に、純は振り返った。
 そこには、着替えを済ませた亜沙と康祐、深玖の三人がいる。
「おいおい、汗掻いてないのか?」
「動き回ったりしなかったから、ほとんど掻いてないよ」
 康祐の言葉に、純は苦笑した。
 見れば、サポート・スーツを着ているのは純だけになっていた。格納庫内に来ている整備員は勿論だが、調整や手伝いに来ている戦闘要員達は皆私服か作業着らしい格好になっている。
「着替えもせずに何してたの?」
「ちょっと考え事してただけだよ。それももう終わったけどね」
 背伸びをするようにしてコンテナから立ち上がり、純は深玖の問いに答えた。
「それで、皆は何でここに? やっぱり手伝い?」
「ええ」
 純の言葉に、亜沙が頷いた。
 普段、戦闘要員は雑用のような事をしている。訓練する者もいるが、操縦システムであるマインド・フォロウ・システムは精神面での負荷は小さいとは呼べず、やり過ぎは精神的に良くない。そのため、戦闘要員は普段、決まった仕事がないのだ。
「まぁ、整備を手伝うにはもっと知識を溜めないといけないから、お前にはまだ無理だろ?」
 康祐の言葉に、純は苦笑を浮かべて頷いた。
「初めての実戦だからやっぱり疲れてるでしょ? 休んだ方がいいわ」
「そうするよ」
 亜沙に頷き、純は格納庫を後にした。


 暗闇の中で目を覚ました純は部屋の電気をつけ、時計を見た。朝の八時と表示されている時計を見て、純は頭を左右に振った。
 手早く着替えを済ませた純は、ナイトテーブルの上に置かれている拳銃を手に取った。それは、純がイデアへ来た時に大和から貰ったものだ。
 アサルト・アーマーの武装としては小さ過ぎて使えないものだが、純はそれを携帯していた。
 戦場への引き金を引いたものだからなのかもしれない。
 それを上着の内側のホルスターに入れ、顔を洗うと純は食堂へと向かった。
「あ、純。今日は早いんだね」
 食堂に入ると直ぐに深玖から声を掛けられた。
 見れば、そこには深玖だけではなく、亜沙や瑠那も食事をとっている。
「……康祐は、まだ寝てるのか?」
 そこに一人だけいない康祐が恐らく寝ているのだろう事は判ったが、その判断が間違いでない事を確かめるように尋ねた。
「よっぽどの事がないとコー兄は九時半過ぎないと起きないよ」
 深玖がさらりと答える。
「食事、一緒にどうかしら?」
 亜沙の言葉に、純は周囲を一度見回してから頷いた。
 丁度、朝食をとる人の多い時間帯なのだろう、食堂の席はほとんどが埋まっている。亜沙達の机には二人分の空きがあり、純はそこで朝食をとる事にした。
「……そういえば、大和さんや暁彦さんは?」
 食事を席まで持ってくるまでに、その二人が食堂内に見当たらない事に気付き、純は尋ねた。
「二人とも三十分以上前に食事は済ませてるの。多分、今は司令といろいろ話し合ったりしてるわ」
 亜沙が答える。
「純の機体も完成したんだよね?」
「ん? そうだけど?」
 唐突な深玖の言葉に、純はパンを齧りながら頷いた。
 純のアサルト・アーマーが完成した事は、昨夜のうちに携帯端末にメールとして通知されている。次に出撃する際には、そちらのアサルト・アーマーに乗り込む事になるはずだ。
「大丈夫だよね?」
「大丈夫だと思うよ」
 深玖に答え、純はまたパンを齧った。
 まだ不安感はあるが、それでも自分で考えて選んだ道である。今更止めるというつもりはないし、隆一と会うためには出撃する必要がある。
 隆一と同じリグノイドを討つ事になったとしても、それも純が選んだ道だ。それに、隆一がリグノイドだからといって、他のリグノイドへの攻撃を躊躇う理由はない。純の親友だったのは隆一だけなのだから。
「でも、昨日襲撃があったわけだから、今日は出撃する事はないかもしれないわね…」
 亜沙が言った。
 敵も、毎日襲撃して来るという訳ではないらしい。連続して襲撃してくる事もあるようだが、それを凌ぎきればしばらくは襲撃がないようだ。無論、だからといって警戒を怠っているという事はない。それで油断を見せてしまえば、そこから敵に付け入られる事にもなりかねないのだ。
(……襲撃、か……)
 食事をとりながら、純は食堂の様子を見ていた。
 それなりに騒がしい食堂内の様子からは、戦争のような事をしているとは思えない。その光景が崩れ去るというのは、純には厭なものに思えた。
 何故、斗雨也は共存の道を選ばなかったのだろうか。様々な理由が考えられても、それは推測に過ぎない。真実は本人しか知らないのだ。
 視線を移した純の視界には、瑠那が映った。
 無言で食事をとっている瑠那からは、何の感情も読み取れない。昨日の、純との会話すらなかったかのように見える。
「わ、食べるの早いね」
 深玖の言葉に、純は深玖の食事を見た。
 まだ少し残っているが、数分とかからずに食べ終える事が出来るだろう量だった。恐らく、後から来た純が深玖よりも早く食べ終わった事を指しているのだろう。
「深玖がゆっくりなのよ」
 亜沙が苦笑して告げた。
 見れば、亜沙は既に食べ終わっている。
 瑠那も食べ終わり、残ったのは深玖だけだった。それでも速度を変えずにマイペースに食事を続け、四人は食事を終え、トレイを片付けて食堂から出た。
「ところで、純はこの後どうするの?」
 食堂を出た直後、深玖が訊いて来た。
「一応格納庫に行って自分の機体を確認しとこうかと思ってる」
 それに答えながら、純は格納庫へ向かう通路を歩き出していた。
 完成したアサルト・アーマーに実際に乗り込んでみて、プログラムのみの仮想訓練をしてどの程度の性能が出るのかを確認しておこうと思っていた。実動訓練と違い、機体自体を動かす訳ではなく、搭乗者の動きをコクピット内のみで処理するシミュレーションプログラムを行う事は、それだけでも参考になる。実際に機体が動いている訳ではないため、あくまでも計算上の性能という事になるが、戦い方の試しには十分なのだ。
「…皆は?」
「私達も格納庫に行くところ」
 純の問いには、亜沙が答えた。
 三人共、朝は大抵アサルト・アーマーの微調整のために格納庫に行っているらしい。
 そんな事を話しながら格納庫へ向かっていた時、轟音と共に基地が激しく揺れた。
「――何だ…?」
 直ぐに収まった揺れに、純が呟く。
「……爆発のようだな、格納庫の方からか?」
 即座に瑠那が走り出し、それに全員が続いた。
 純も三人と共に走りながら格納庫へ続く通路を駆け抜けて行った。その途中、警報が基地内に響き渡る。
 厭な予感がした。だが、今の純には格納庫へ急行する事しか出来ない。
 格納庫に飛び込んだ四人は、そこに広がる光景に一瞬言葉を失った。
 アサルト・アーマーが二機、大破して炎を上げている。その周囲には整備員と思しきイデアの隊員が数人、血を流して倒れており、他の者が壁際で部屋の中央を見つめていた。
「――大和さんっ!」
 部屋の中央に倒れている大和を見て、亜沙が駆け出そうとする。
 純の足は、動かなかった。その光景が非現実的過ぎて、頭も身体も機能を麻痺させているかのように、何も考えられない。
「待て、亜沙!」
 その腕を瑠那が掴み、引き止めた。
 直ぐに、純にもその理由が判った。
「……耕太……!」
 そこに立っていた者を見て、純は呟いていた。
 アウターボディで身体を拡張し、一対の大きな翼と剣状にした六つの腕を背中から生やした耕太が立っていた。無表情に、何も感じていないからのように、耕太はそこに立っている。その剣状の腕から血が滴り落ちている事からも、耕太がこの事態を引き起こしたのは間違いないだろう。
「耕太! 何をしているんだ!」
 格納庫内にいた暁彦が呼びかけていた。
「……ふふ、ようやく準備が整ったのでな……」
 その耕太が邪悪な笑みを浮かべ、口を開く。
「――斗雨也か……!」
 瑠那が呻いた。
 耕太を斗雨也が遠隔操作しているという事だろう。今まで見て来た耕太と、今の耕太は明らかに異質だった。声音が同じなだけに、一層不気味に感じられる。
「まさか、耕太をわざと潜り込ませたのか!」
「今更気付いても遅い…怨むなら、リグノイドを迎え入れたこの男を怨むんだな」
 暁彦の言葉に、耕太の身体を操っている斗雨也が言い、足元に倒れている大和を蹴飛ばした。
 苦痛に呻き声を上げながら、大和が純達の方へ転がって来る。その腹部には剣で貫かれた傷跡があり、未だ出血しているようだった。
「大和さん……!」
 亜沙が小さく悲鳴を上げ、駆け寄る。
 駆けつけて来た戦闘要員達がライフルを向けるも、斗雨也は動じた様子もなく、口元に笑みを浮かべたまま立っていた。
「……生身の人間に負けると思うか?」
 その言葉と共に、銃声が続き、同時に耕太が動く。
 銃口の先を見切っているのか、耕太は銃弾の間をすり抜けるように動き、戦闘要員達の手からライフル銃を弾き飛ばす。通常の人間の反射速度を超えた動きで、戦闘要員達を無力化した耕太は元の位置に戻った。そこには余裕さが感じられる。
 直後、基地が揺れた。今度は、上層階の方からだった。
「……襲撃が始まったな。今日で貴様等ともお別れだ」
 イデアの基地、及び地下の空間は地表から分厚い金属層をいくつか重ねて区切られている。
 その層を破壊している音なのだ。このまま放って置けば地下世界がリグノイドに蹂躙されてしまうだろう。
「……亜沙…耕太を……」
 か細く、苦しげな大和の声に、純は視線を向ける。
 手に持った拳銃を亜沙へと渡そうとしている大和がいた。言葉にはならなかったが、その口が『撃て』と動いたのが、純には確かに見えた。思わず、純は自分の手を懐の拳銃へと伸ばしていた。
 亜沙が受け取ろうと手を伸ばした時、大和の拳銃に槍のようなものが突き刺さる。耕太がアウターボディの一部を槍状にして投げ付けたのだ。使い物にならなくなった拳銃が床に落ち、空しく音を立てる。
 瑠那の奥歯が鳴るのを、純は聞いた。
 その場の誰もが動けずにいた。斗雨也すらも、その様子を楽しんでいるかのように、口元に笑みを浮かべている。
 瞬間、純は懐に入れていた腕を引き抜き、その手に握られていた拳銃の銃口を斗雨也へと向けると即座に引き金を引いていた。斗雨也がその純の行動に反応している暇はない。
 銃声が響き渡る。薬莢が地面に落ち、乾いた金属音を立てる。
「――!」
 硝煙の臭いが広がり、部屋の中央にいた耕太の身体が仰け反るようにして傾ぎ、そのまま倒れた。
 銃弾は耕太の眉間を撃ち抜いていた。しかし、それが命中する瞬間、純は見た。その表情から斗雨也が消え、死への恐怖に怯えた子供の表情になるのを。
「純……!」
 一瞬送れて、格納庫内の視線が純へと集中する。
 銃を撃った体勢のまま、純は動けないでいた。耕太が死ぬ直前の表情に、戸惑っていた。
「救護班を呼べ! 急ぐんだ!」
 暁彦の声に、我に返った全員が動き出す。
「……よくやった、純。これでこちらからも抵抗出来る」
 駆け寄ってきた暁彦が純に声を掛けた。
 拳銃を下ろした純は、暁彦に頷き、大和へ視線を向ける。丁度、駆けつけて来た救護班に運ばれて行くところだった。
「――戦闘要員は全員出撃準備にかかれ!」
 暁彦の号令に、アサルト・アーマーに乗り込む戦闘要員がロッカールームへと駆け出して行く。
 純達も同様に走り出していた。
「銃、持ってたんだ…」
「俺が、地下に来る途中で大和さんから貰ったものだよ」
 亜沙の言葉に、純は答えた。瑠那も深玖も無言だった。
 格納庫から外へと出て行く戦闘要員達に混ざって、純達もその数秒後にはロッカールームへと駆け出していた。そのままロッカールームに入ったところで別れ、サポート・スーツに着替える。純専用のサポート・スーツに着替え、再度格納庫へと向かった。
 完成したばかりの自分の機体に乗り込む。
(――あれが、斗雨也)
 操縦システムが起動して行く中、純は耕太の死の瞬間を思い出していた。
 イデアにいる間の耕太には耕太の意思というものがあったはずだと、純は思う。意図的に耕太をイデアに送り込んだのだとしても、常に斗雨也が耕太を動かしているわけではないのだ。その中には必ず耕太の意思があったはずだ。それを自らの目的のために手駒として切り捨てる斗雨也に、純は反感を覚えていた。
 あの、小さな身体に確かな決意を持っていた耕太は、もういない。最初に居場所を追われた斗雨也に、耕太は最後の居場所すら奪われてしまったのだ。意識を乗っ取られるという方法で。
 例え味方だった者でも、斗雨也に制御された状態になってしまえば、殺すしか手はない。
 そこに耕太本人の意思が介入する余地はなかった。その場の全員が生き残るためには、耕太を撃つ意外に方法はない。無抵抗でいれば斗雨也に蹂躙され、今までイデアが維持して来た地下世界までもが斗雨也によって破壊されてしまう。イデアとしては、それだけは避けなければならない事態だった。
 命の取捨選択等、出来るはずがない。それでも、選択しなければ全てを失ってしまう状態にいるのだ。
 気が付いたときには、純は引き金を引いていた。
「出撃準備の完了を確認しました。地上への射出口へと移動して下さい」
「……了解」
 通信係の女性の言葉に、純は機体を歩かせ、格納庫の端にある地上への射出口へと向かった。
 地上へと続く射出口は、イデアの真上からの攻撃を想定して造られたものらしい。格納庫から直接地表へとアサルト・アーマーを射出し、即座に戦闘行動を行い、敵を殲滅する。
 カタパルトで加速した純の機体が射出通路を駆け抜ける。サポート・スーツで軽減されていても相当なものになっている圧力に耐え、純は地上へと飛び出した。
 視界に入ったのは雲の混じった青空と、地上にある建物だった。その地上には至るところにリグノイドが見えていた。レーダーにもかなり大規模な反応がある。
 純とは別の場所からもアサルト・アーマーが飛び出しているのが見えた。射出口は一つだけではなく、四箇所から地上に出られるようになっているのだ。一機で戦わせる事を避けるための配慮と、別の場所からも攻撃出来るという戦略的な考慮からだ。
 打ち出され、空中にいる純へと、リグノイドが複数突撃して来るのが見えた。
 アサルトライフルを下方へと向け、純は引き金を引いた。銃撃の振動が伝わり、視界に映るリグノイドに命中し、小さな爆発を起こす。
 リグノイドにもダメージを与えられるよう、命中すると爆発を起こす炸薬弾を撃ち出すものがほとんどだ。頭部を吹き飛ばされ、絶命したリグノイド達が落下して行くのを尻目に、純は視界を周囲にめぐらせる。
 通常のリグノイドには金属層を貫けるような武器は形成出来ないはずなのだ。それなのに、地下に振動を伝わせるだけの破壊力を持った攻撃が出来るというのは、何か他の要因があるに違いない。
「――あれかっ!」
 落下しながら、純はそれを見つけた。
 黒い、巨大なドリルのような塊が見える。それが金属層を削っているのだと、直ぐに判った。
 空中でスラスタを使い、ドリルへと機体を突撃させた純へ、地上からリグノイドが攻撃を仕掛ける。
「くそっ、邪魔をするな!」
 呻き、地上へとアサルトライフルを乱射し、いくつかのリグノイドを撃破しながら、純はドリルの付近にある建物に着地した。
 着地の衝撃で建物の床に罅が入るが、無視し、純は左手で腰の後ろに設置されているウェポンラックからショットライフルを掴んだ。それをドリルへと向け、トリガーを引く。放たれた散弾がドリルに命中し、爆発を起こす。
「――何っ!」
 だが、ドリルを破壊する事は出来なかった。
 威力が足りなかったのではなく、ドリルの表面が事故修復したのだ。それは、ドリル自体がアウターボディで造られたものなのか、リグノイドの集合体であるという事を指す。自身の形状を変える事の出来るリグノイドならば、他者と交じり合って巨大な何かを形成させる事も可能なのだ。
 レーダーからの警告に、横合いから突撃して来たリグノイドを回し蹴りで弾き飛ばし、そこへアサルトライフルの銃弾を撃ち込んで仕留める。
 と、後方から多数のミサイルが飛来し、ドリルへと命中した。更に撃ち込まれるグレネードに、ドリルが傾き、倒れた。
 地響きと振動が周囲に伝わり、建物が倒壊して行く。
「――やったか…?」
 通信回線が開き、後方から追いついて来たのは康祐だった。
「康祐か?」
「ああ、寝ている間に何か大変な事になってたみたいだな」
 純の確認に康祐が答える。
 射撃戦を重視し、多数の火器を搭載した康祐の攻撃力がなければドリルを止める事は出来なかっただろう。
「安心するのはまだ早いよ!」
 通信に割り込んで来た深玖の言葉に、純はドリルが変化するのを見た。
 複数のアサルト・アーマーに近い形状と質感のものに変化したドリルが純達へと突撃して来るのが見えた。
「周囲のリグノイドは他の人達に任せて、私達はまずこれを止めましょう!」
 亜沙の青灰色のアサルト・アーマーが深玖の機体と共に純の前方に着地する。
「隊長と瑠那が周囲の敵を攻撃する方に回ってるから、早く片付けて合流しよう!」
 深玖が言い、駆け出した。
 隊長というのは暁彦の事だろう。その暁彦と瑠那が周囲の攻撃に加わっているというのはそれだけ戦況が厳しいという事になる。
 純達と同時に黒い戦闘鎧が動き出す。リグノイドの身体能力を超え、アサルト・アーマーと同程度にまで引き上げられた運動能力でそれは動いた。流石に射撃武器はないようだが、それでもその身体能力から予測出来る戦闘力はかなりのものになっているだろう。
「――!」
 目の前に迫った敵戦闘鎧が突き出した拳を、横に跳ぶようにして純はかわした。
 その拳が途中から剣状に変形したのが見えた。突き出したその手を、回避した純へと振るった敵が、その剣の形状を引き伸ばす。そうする事で純へ攻撃を届かせようというのだ。
 空中でスラスタを用い、純は急に角度を変えて回避する。跳躍して追撃を仕掛ける敵を、空中で敵を中心に旋回するようにして背後に回り込んだ。
 流石に敵はスラスタ機動までは出来ないようで、回り込んだ純に対する反応は振り向いただけだった。その敵が反撃のために腕を純へと向けるよりも早く、純はショットライフルの銃口を向けていた。
 トリガーが引かれ、銃口から炸薬入りの散弾が吐き出される。至近距離からの散弾はそのほとんどが敵の前面に命中し、爆発を起こした。体勢を崩した敵が落下し、地面に叩き付けられる。それでも尚動こうとする敵機に、急降下した純はアサルトライフルをその敵に向けて連射した。
 爆発が連続して起こり、黒い戦闘鎧の装甲が剥がれるように、表面が吹き飛ばされて行く。
「……」
 そこから見えたのは、リグノイドだった。
 アウターボディで形成させた黒い戦闘鎧を、リグノイドが身に纏う事でアサルト・アーマーと同等の戦闘力を得ていたのだ。アウターボディで造られた戦闘鎧は、リグノイドならば誰でも自分の手足のように操る事が出来るだろう。スラスタ機動は不可能だが、純達のように適性がなければ使えないという訳ではない。
 数を揃え、編成を考えれば、イデアを圧倒する事が可能だ。
 それに、アウターボディで造られていれば、かなりの応用が利く。火薬を用いるような射撃武器は使えずとも、その運動能力と、改変させられる外見を組み合わせれば戦略は広がるはずだ。腕を剣状にするだけではなく、翼を造り出しての空中移動や、先のドリルのように複数のアウターボディを組み合わせて一つの兵器を造り出す事も出来る。
 アサルトライフルの弾丸が内部のリグノイドに命中し、その頭部を吹き飛ばした。
 動かなくなったのを確認し、視界の端に映るレーダーへと視線を向けた。表示されている敵と、アサルト・アーマーに乗っている味方が色分けされたマーカーで表示されている。純のいる場所から離れた場所で味方の数機がレーダー上でも判る程に素早く動き回っているのがあった。恐らくは暁彦と瑠那だ。
「純、そっちはどうだ?」
「一機破壊した。戦況は?」
 康祐の通信に純は訊き返した。
「とりあえずドリルは何とかなったみたいだ。俺達も周囲の援護に向かおう。亜沙達も向かってるはずだ」
 その返答に、通信画面に映る康祐へ頷く事で応じ、純は駆け出した。
 リグノイドとアサルト・アーマーが交戦している場所に辿り着くのに、そう時間はかからなかなった。建物や通路には戦闘の跡が残り、リグノイドの死体も半壊したアサルト・アーマーも見受けられる。
 三体のリグノイドが前方から襲い掛かって来るのを、後方に一歩退いて距離を取り、アサルトライフルで弾丸をばらまくようにして反撃した。爆発して体勢を崩したリグノイドに追い討ちの弾丸を撃ち込み、確実に仕留めて行く。
「――あれは……!」
 少し離れた前方に見えた二体のリグノイドは、アウターボディを使っていた。
 先程のように戦闘鎧型にはしていないが、身体を拡張して翼を生やし、周囲のアサルト・アーマーに攻撃を仕掛けている。イデアに入って知ったが、アウターボディを使うのは小隊長と呼ぶべき立場以上にいるリグノイドらしい。つまり、その二体が指揮系統の一部だという事だ。
 だが、純が驚いたのはそれだけではなかった。
「まさか、俺の両親…?」
 その二人の顔には見覚えがあった。間違いなく純の育ての親だった。
 二人が一機のアサルト・アーマーに連携攻撃を仕掛け、その右手を破壊している。
(……そんな事言ってる場合じゃないっ!)
 背部スラスタを用いて加速し、純は二人に向けてアサルトライフルを撃った。
 それを回避して距離を取った二人と、攻撃されていたアサルト・アーマーの間に割って入るように滑り込む。それと同時にアサルトライフルを二人へ向けた。
(もう、あれは俺の両親じゃないんだ……)
 奥歯を噛み締め、純は引き金を引いた。
 放たれた弾丸を避けた二体のリグノイドがその背中から生やした、先端が槍のように尖った触手を純へと打ち込んで来た。
「……!」
 背後には体勢を崩して倒れ込んだままのアサルト・アーマーがあった。純が避ければ、そのアサルト・アーマーが触手に貫かれてしまう。
 純は右足を蹴り上げるようにして一本の触手の向きを逸らし、別の一本を左手のショットライフルの銃身で打ち払う。右手のアサルトライフルを三本目に叩きつけるようにして逸らし、そのまま銃口を四発目へと向けて発砲。放たれた弾丸が触手の先端を潰し、爆発を起こした。
 直ぐに地を蹴って跳躍し、空中にいる二体のリグノイドへとアサルト・ライフルを向けた。
 左右から純を挟み込むように散開した二体に対し、純は両手を広げるようにして左右それぞれの手に握っている武器の銃口を合わせる。リグノイドの反撃が来る前にトリガーを引いた。
 左右別の武器を用いた事によるアンバランスな反動を、背部スラスタで受け流す。左手のショットライフルが純の義母の上半身を吹き飛ばし、右手のアサルトライフルが義父の首に命中し、爆破させていた。
 着地した純は、背後にいたアサルト・アーマーに向き直った。
「――あ、ありがとうございます!」
 掛けられた声は女性のものだった。
 被弾した影響か、通信画面にはノイズが多かったが、搭乗者自身は無傷だったようだ。
「……無事、みたいだね。無理はしない方が良い」
 言い、純はレーダーに視線を向けた。
 まだ周囲にはリグノイドの反応が多数ある。のんびりと会話をしていられる状況ではない。
 他にリグノイドの密集している場所へと向かうため、純は跳躍した。背部スラスタで建物を跳び越えるようにして戦場を駆け抜ける。
(……あれは、瑠那…?)
 見下ろした戦場の中で、一機だけ他のアサルト・アーマーとは運動量が全く違うものがあった。その機体色がダークグレーである事から、搭乗者が瑠那である事が判る。
 瑠那はショットライフルとグレネードライフルを乱射しながら、リグノイドが密集している場所へ突撃して行く。だが、乱射しているように見えてもそれらは全て的確な位置に打ち込まれており、効率的にリグノイドを減らしていた。
 複数のリグノイドによる、様々な方向からの触手を全てすり抜けるようにして避け、反撃を打ち込んで行く。その凄まじさは見るものを圧倒させる程のものだ。
 別の場所では康祐が全身に搭載した火器を、康祐を取り囲んだリグノイドに向けて広範囲に撒き散らしながら移動している。紅茶色の深玖の機体も別の場所でガトリングガンを乱射しながら敵を殲滅していた。青灰色の亜沙の機体も、安定して優位に戦っており、その傍に戦っている暁彦との連携が取れていた。
 センサーの反応に、純は視線を周囲に向ける。空中へと上がって来た、アウターボディを使う上位のリグノイドが純を取り囲んでいた。
 周囲にアサルトライフルを連射し、そのうちの数体を吹き飛ばし、撃ち漏らしたリグノイドには左手のショットライフルで撃破した。純の反撃に気付くのが遅れたリグノイド達の身体が落下して行くのを見ながら、純は建物の屋上に着地する。
「……ふぅ」
 多少乱れた呼吸を整え、純は建物の上から見えるリグノイドにアサルトライフルを撃った。
 マインド・フォロウ・システムにより、肉体的な疲労はほとんどない。それでも、激しく運動をしたかのような精神的な疲労感はある。もっとも身体自体は機体の動きに引っ張られる形になるために、慣性による圧力は肉体的な負担となるため、完全に肉体疲労がない訳ではないが。
「……ん?」
 レーダーに視線を向けた純は違和感を覚えた。
 リグノイドの反応は明らかに減っていた。しかし、問題はそこではなかった。始めに純達が戦ったドリルのあった場所に一つの反応が生じていたのだ。
 視線を向けた純は、そこに黒い塊が蠢いているのを見た。
「――瑠那、亜沙、康祐、深玖、純、気付いているか?」
 不意に、暁彦から通信が入った。
 戦闘要員の上位メンバーに対する呼び掛けに、全員が応じる。やはり、皆がその中央に生じた反応に気付いていたらしい。
「各自その場にいる敵を殲滅した後、中心部で合流しろ」
「了解」
 暁彦の指示に全員が告げた。
 純も建物から飛び降り、周囲にいるリグノイドへとアサルトライフルを連射する。接近して来た敵は回し蹴りから銃身で打ち払い、その上で銃弾を叩き込んで仕留めた。
 そうして、周囲にリグノイドがいなくなった事を確認した上で、純は指示された場所へと向かった。その途中で使い切ったアサルトライフルのマガジンを交換し、ショットライフルも弾丸を装填して消費した分を補充しておく。
 レーダーを見れば、丁度皆も向かっているところだった。
「こいつは……どういう事だ……?」
 康祐が呻くように呟く。
 そこには、アウターボディの塊が蠢き、巨大な戦闘鎧の形へと変貌して行くものがった。
「……精鋭が集まったようだな」
「――斗雨也!」
 巨大な戦闘鎧の内部から発された声に、暁彦が反応した。
「貴様等を殺せば、全てに決着がつく」
 斗雨也の言葉に、全員が銃を構えた。
 そのまま全員が発砲し、凄まじいまでの攻撃が斗雨也に集中する。巨大な戦闘鎧の表面が爆ぜ、反撃としてか周囲に触手が放たれた。純はそれを掻い潜り、アサルトライフルの弾丸を撃ち込み続けた。
「俺をその辺の奴等と同じとは思わない事だ」
 言い、斗雨也が動いた。
 水滴が地面にぶつかって弾けるかのように、周囲に凄まじい数の触手が放たれた。その触手から細い触手が枝のように伸ばされ、動きを封じると共に攻撃がなされる。
 純だけでなく、全員がその触手へと攻撃を行い、自身が回避出来る空間を造り出して避けた。その上で反撃を行うが、巨大なまでの容量のアウターボディの中心にいるであろう斗雨也に攻撃を到達させる事が出来ない。
「――やぁあああああっ!」
 深玖が気合と共に斗雨也に突撃して行く。
 そのアサルト・アーマーの両手には単分子振動式の高熱量の剣が握られていた。それを巧みに振り回して触手を切り払い、アウターボディへと到達した深玖が剣を振るう。
 深玖がアウターボディを切り裂いているところへ、背後から触手が打ち込まれるのを、康祐が攻撃を撃ち込んで援護する。それでいて自身の防御にも攻撃を用いているのは、康祐の機体がそれだけ武装を積んでいるからだ。
 瑠那がグレネードライフルのマガジンをアウターボディへと放り投げ、表面に接したであろう瞬間にショットライフルでマガジンを破壊した。凄まじいまでの爆発がアウターボディを削り取る。
「ふん、何をそんなに躍起になっている?」
 斗雨也の声が、別の場所から聞こえた。
「何だと! 馬鹿な!」
「俺がカルマを操れる事を、忘れた訳ではあるまい?」
 暁彦に対して斗雨也が告げる。
 巨大なまでに集められたアウターボディは囮だったというのだ。見れば、ドリルとなっていた戦闘鎧達を倒した時のアウターボディが見当たらない。それを集約して、今純達を攻撃しているのだ。
 だが、それでも純達がアウターボディを無視するわ訳にはいかない。それだけでも脅威になりうるのだから、処理しなければならないのだ。斗雨也を倒せば戦闘そのものを終わらせる事が出来るとしても、斗雨也と戦う前に邪魔になるものを排除しなければまともに戦う事すら出来ない。
「――喰らいやがれぇっ!」
 康祐が咆え、全身の火器を全てアウターボディに叩き込んだ。
 いくつか触手で防がれはしたものの、そのほとんどが命中し、大きく削り取った。そこを深玖が斬り付け、反対側から瑠那がグレネードで爆破し、アウターボディの足場を崩す事に成功した。
「そうこなくては面白くない……」
 崩れ落ち、砂山のようになったアウターボディの上に斗雨也が降り立つ。
 間髪入れず康祐が攻撃を連続して撃ち込むが、斗雨也は足元のアウターボディを引き上げるようにして一時的な壁を造り出し、防いだ。深玖の剣による攻撃を横に跳んでかわし、亜沙のライフルを空中で身体を捻るようにして寸前でかわす。瑠那の放った散弾をアウターボディから壁を迫り上げるように造り出して防ぎ、暁彦と純の射撃攻撃もかわした。
 その身体能力は他のリグノイドの比ではなかった。そして、その能力も。
 着地した斗雨也が足元のアウターボディを蹴飛ばし、それを空中で刃のように形状を変更させる。回避行動を取った康祐だったが、その刃が康祐の真横で爆発するように拡散し、その装甲に傷を負った。更に、それで体勢を崩した康祐に斗雨也が触手を伸ばした。途中でその触手を深玖が切断したが、切断された場所から横に伸びた触手が深玖の機体の左肩を貫く。
「きゃあっ!」
 深玖の悲鳴が響いた。
 その斗雨也の背後に接近した亜沙と暁彦がライフルを連射するが、斗雨也は跳躍するとアウターボディから触手を造り出して暁彦と亜沙の機体の足を破壊した。空中にいる斗雨也へ向けて康祐が全身の火器を放つが、そのほとんどがアウターボディの壁で防がれ、唯一斗雨也まで到達した弾丸も、斗雨也自身がその命中箇所に穴を開けて銃弾を透過させてかわす。
「このぉーっ!」
 深玖が右手に持っていた剣を投げ付けるが、斗雨也はそれを避けると同時に柄を握った。
 そうして自らの武器にした剣で亜沙の機体を斜めに斬り付ける。
「くうぅっ…!」
 辛うじて両腕を剣と身体の間に挟み、コクピットに致命傷は負わなかったが、両腕が切断された亜沙は戦闘不能となった。その斗雨也に暁彦が両手のライフルを向けるが、斗雨也はそのライフルを剣の腹で打ち払う。瑠那と康祐、純がそこに集中攻撃を仕掛けるが、斗雨也は空中へと逃れ、アウターボディから生じさせた触手で暁彦の機体の両腕と首を貫いて戦闘不能へと追い込んだ。
 純の目の前に着地した斗雨也の蹴りを避け切れず、純の機体が吹き飛ばされる。近くにあった建物に埋まるような形で止まったが、その衝撃に純は咳き込んだ。
「…う……く……」
 視界の中では斗雨也が深玖の機体の右腕をアウターボディから作り出した触手で貫いていた。
「うおおおおおっ!」
 康祐が全武装を斗雨也へと放つ。
「――!」
 そのほとんどが回避されたものの、弾丸の一つが斗雨也の脇腹に命中し、爆発した。脇腹を抉り取られた斗雨也が背中からアウターボディの山に叩き付けられる。
「――今だ!」
 瑠那がグレネードを打ち込み、爆発が生じた。
「……まだ甘いな」
 斗雨也の声に、瑠那が振り返った時、そこには斗雨也が立っていた。
 少し離れた場所にいた純には、何が起きたのかがはっきりと見えていた。
 斗雨也は、グレネードが命中する直前に自らをアウターボディの中に取り込み、瑠那の背後に立った状態で吐き出したのだ。その際、脇腹に受けた傷も修復している。
「確か、貴様が最強だったか?」
 瑠那がショットライフルを向けるよりも早く、その足場が盛り上がるようにして瑠那の機体のバランスを崩した。
「……なっ…!」
 背部スラスタで何とか体勢を保とうとするが、そこに飛び掛った斗雨也の回し蹴りが瑠那の機体の頭部を吹き飛ばし、続いて足場から形成された触手が瑠那の機体の両腕を引き千切った。そうして、斗雨也が更に回し蹴りを瑠那機の胸部へ叩き込む。
「ぐぁっ!」
 弾き飛ばされた瑠那の機体が建物に減り込んだ。
 そのままアウターボディから触手を康祐へと伸ばし、斗雨也自身も康祐へと突撃する。
 純は康祐の機体の両腕が破壊されるのを見ながら、何とか機体を起き上がらせていた。背部スラスタが激突の衝撃で変形し、アラートが表示されている。
「最強が貴様では、俺を倒せる者はもういないな……」
 斗雨也が勝ち誇ったかのように言い、暁彦の機体をアウターボディの山から蹴落とした。
「……私よりも強い奴は、まだ残ってる」
 瑠那が放った言葉に、斗雨也の動きが一瞬止まった。
「まだ残っている、だと……?」
 斗雨也が周囲を見回し、純に向き直る。
「……まさか、貴様か?」
「斗雨也……あんたは何で俺達を殺そうとするんだ?」
 その問いには答えず、純は訊き返した。
「進化出来ずにいるものは淘汰されるのが自然界の掟だ」
「……進化したっていうお前等の仲間を捨て駒にしてもか?」
「……ふん、戯言だな。前言撤回だ。俺は貴様等全てが憎いからだ!」
 純の言葉に斗雨也は言い、駆け出した。
「戯言だと……?」
「理屈付け等、所詮はこじつけにしか過ぎん」
 斗雨也が突き出した剣を避け、純は背後に回り込む。
 背後から打ち出されたであろうアウターボディの触手を、跳躍する事で回避し、下方の斗雨也へとアサルトライフルを放った。
「自分の欲望のためなら何でも犠牲にして良いと思っているのか?」
「それが人間だ!」
 跳躍した斗雨也がその左手を触手にして突き出す。
 右腕でその触手を打ち払い、左手のショットライフルを向けるが斗雨也がアウターボディから触手を生じさせて足場にし、より高く跳躍して回避した。その上で足場にした触手を純へと向ける。身体を捻って回避するが、アサルトライフルが破壊され、純はそれを投げ捨てた。
「っ!」
 着地したアウターボディが純の体勢を崩すかのように蠢き、バランスを崩したところへ斗雨也が上空から斬りかかった。
「はぁっ!」
 呼気と共に純は歪んだ足場を蹴飛ばし、斗雨也の真下を滑り抜けて攻撃を回避するとその背後からショットライフルを放った。
 左肩を吹き飛ばされた斗雨也がアウターボディに倒れ込み、その腕が復元される。同時に、斗雨也が純へと弾き飛ばされ、空中で身を捻って純を正面に捉えた斗雨也が剣を振り上げた。
 後方に飛び退いた純に、アウターボディから触手が無数に打ち出される。
「アラートなんか知るか!」
 警告音を発している背部スラスタを稼動させ、急加速した純が触手の間をすり抜けた。
 途中で背部が爆発して体勢が崩れ、機体の左足を触手が掠り、右肩と左脇腹、右脚に触手が突き刺さり、振動が純を襲う。更には破損し、変形したパーツが純の身体を挟み込んで激痛を与えた。
「うがぁああああっ!」
 咆え、正面から斬りかかって来る斗雨也に、純は左腕のショットライフルを突きつけた。
 瞬間、斗雨也の表情に驚愕が見えた。被弾した状態の純が反撃に転じられるとは思わなかったのだろう。振り下ろされた剣が純の機体の頭部に減り込んだ瞬間、ショットライフルが火を噴いた。
 至近距離で炸薬弾を全身に浴びた斗雨也が爆発し、身体が消滅する。腕と足が左右に千切れ飛び、首が大きく吹き飛ばされ、その場から遠くへと落下して行った。
 純の機体が着地した直後、残っていた左足がその負荷に耐え切れずに拉げた。そして倒れた衝撃が純の全身に大きく圧し掛かり、負った傷による生身への負傷で、純は気を失った。
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