第四章 「ブルースカイ」


 今まで感じて来たものよりも、澄み渡った風と、青い空。ヴァーテクスとなった今なら、ジオ・フロント内部の風が人工的な、機械的に調整されたものなのだとスラッグには解る。太陽の眩しさに目を細め、鳥の囀りに耳を傾ける。
「疲れただろ、今日はゆっくり休もう」
 アンジェは言い、近くの木陰にテントを張った。
 持って来た荷物の中から携帯用の調理器具と食材を取り出し、食事を作る。
「ヴァーテクスの街って、遠いのか?」
「そうだな、ジオ・フロントの入り口からはだいぶ離れている。一日や二日では辿り着けない距離だ」
 食事を取りながら、アンジェに今後の行動を問う。
 まずはスラッグ達を地上の街に辿り着かせる。それがアンジェの提案だった。元々、スラッグとレイシェはジオ・フロントから外に出る、という事だけを考えていたため、今後の事はあまり考えていなかった。だが、実際に外には出れたのだから、今後どうするかは考えなければならない。
 最も近い街へ辿り着くにも一週間ほどの時間を要するらしい。
「外の世界はどうだい?」
「綺麗ね。それに、広くて……」
 アンジェの問いに、レイシェは笑顔で答える。
 レイシェがいつも抱いていた、際限の無い世界の中にいる。どこかでレイシェはジオ・フロントが地下である事を見抜いていたのかもしれない。スラッグが風を感じられたように、水を扱えるレイシェが、ジオ・フロント内で触れた水に何かを感じていたとしてもおかしくはないのだから。
 やがて、食事を終えて辺りが暗くなって来た頃、アンジェがテントの中へ入った。ここまで案内するために、最も気を使っていたのはアンジェだ。その疲れが外に出て現れたのだろう、真っ先に寝付いていた。
「……私もそろそろ寝るわ」
「ん、解った。俺はもう少し起きてるよ」
 立ち上がって言うレイシェに答え、スラッグは空を見上げた。
 心地良い風だと思う。ゆっくりと、それでいて時折激しい、全てを含み、全てを包み込むような風。
「こうして見ると、ジオ・フロントの中がどれだけ精巧にできてるのか解るな」
「そうね。極限まで自然に近付けないと、人間は違和感を感じるから」
 スラッグの呟きに答えたのはリアだった。
「いいの? アンジェと寝かせて」
「何が言いたいんだよ?」
 リアの言葉に、スラッグは溜め息をついた。
 外に来てからというもの、レイシェはアンジェにしか話し掛けていない。スラッグやリアが話を振れば答えるものの、自主的に会話しようとしたのはアンジェだけだ。外の事を知っていて、ここまで連れてきてくれた存在だから、と説明付ける事はできても、嫉妬感がゼロなわけではない。
「……昔、人類は科学技術で発展してたのよ」
「え?」
 不意にリアが語り出した。
 科学技術によって繁栄していた人類だったが、争いは絶え間無く存在し、人口増加や食糧危機、環境汚染などの問題が山積みであった。その繁栄は大量破壊兵器の大量投入によって幕を閉じる。その戦火により環境は悪化し、生命が存在するには厳しい状況となってしまったのである。その環境から逃れるために人類は地下にジオ・フロントを作り、移住した。
 一部の人類はジオ・フロントへの移住を拒み、荒廃した地上で生活を続ける。当初は交易のあったものの、やがて地上と地下の交流は途絶えた。それから時が流れ、地上には厳しい環境に適応した生物が現れ始めるのと同時に、ヴァーテクスが出現し始めた。地上の人間が環境のためか全てヴァーテクスとなった頃、ジオ・フロント内でも変化が起きた。ヴァーテクスという存在が現れた事で、地下生活をしている人類からヴァーテクスが現れる可能性が出始めたのである。
「ヴァーテクスはね、皆ミドルネームがあるの。これは交流があった最後期の頃、ヴァーテクスが出始めた頃からの風習みたいなものとして地下には伝わってるわね。地上ではアンジェみたいに、ミドルネームがある事、つまりヴァーテクスである事に誇りを持っている人もいるから、憶えておいて」
 リアは言い、そこで話を一度区切った。
「今、地上では、世界中の人間をヴァーテクスだけにしようっていう組織があるの。それに所属する人はエクシキューターって呼ばれてるわ」
「エクシキューター?」
 放っておいても、地下からもヴァーテクスが誕生するのだから、いずれは勝手にヴァーテクスだけになるのではないだろうか。
「騒がないでね。……エクシキューターっていうのは、ジオ・フロントを破壊しようとする人達なのよ」
「――!」
 声を上げそうになったスラッグの口をリアは素早く塞いだ。
「ジオ・フロントを破壊すれば、地下の人間は全滅。世界中のジオ・フロントを壊せば、必然的に世界に残るのはヴァーテクスだけになる」
 リアの言葉に、スラッグは何も言えなかった。
 ジオ・フロントを破壊する前に、ジオ・フロント内にいるヴァーテクスを外へ連れ出す事もエクシキューターの仕事の一つなのである。ヴァーテクスにとって、同じヴァーテクスは仲間だと言う意識が強いらしい。だが、ヴァーテクスを疎外する可能性の高い人間達は、排斥する方向にあるのだそうだ。
「ここのヴァーテクスはあなた達で最後。だから、アンジェはある程度離れたらこのジオ・フロントを壊そうとするわ」
 何を考えれば良いのか、スラッグは解らなくなっていた。何も考えられない。
 ジオ・フロントを破壊したいと思う側の感情も、それに反対する感情も、スラッグの中にはある。
「私はエクシキューターでも、地下の味方でもないわ。格好良く言うと、行く末を見守る者ってところかしらね」
 アンジェは地下では、普通の人間達に自ら危害を加えようとはしなかった。それは、地下の味方だという事なのではなく、その時点で排除せずとも、最終的にはジオ・フロント共に排除するから眼中に無いだけなのだ。
「だから、仮にあなたとアンジェが戦う時も、私はどちらにも加担しないわ」
「何で、俺にそんな話を……?」
 スラッグに話したところで、何かが変わるわけではない話だ。アンジェがジオ・フロントを破壊しようとしている事は、その時になれば解るはずだ。歴史も同様に、地上で生きていくのならばいずれ知る事になるだろう。
「気まぐれ、かしらね」
 小さく苦笑するリアの表情には、どこか翳りが見えた。
「アンジェが私の事を嫌っているのは、ヴァーテクスである事を誇りに思っているアンジェと違って、私がエクシキューターじゃないから。エクシキューターとして、ジオ・フロントの破壊を行うアンジェが事故で死に掛けた時、私は手を差し伸べなかった」
 ジオ・フロントを破壊しようとする者は少なくはないが、実際にそれを実行できる者は数少ない。元々、広大なジオ・フロントは世界中には数えるほどしかないのだ。それだけではなく、地上と地下の出入り口は極めて発見し難いものとなっている。見つけるだけでも一苦労なのだ。したがって、見つけた者がその場で手を下す事になる。
「私は全てを否定しなければ肯定もしない。それが私の意志」
 言い、リアは薄く笑みを浮かべてみせた。
「……じゃあ、おやすみ」
 テントへ向かって行くリアに、スラッグは言葉を返せなかった。
 ジオ・フロントを守る理由はない。だが、破壊する理由もスラッグにはない。話を聞いたところで、聞かなかった時と何も違わないのではないだろうか。何もしないという事も選択肢の一つではある。
 風は、何も答えてはくれない。


 朝、風の変化がスラッグを起こした。何か、人ではないものが近付いてくると、感覚が告げていた。テントから這い出し、周囲を見渡す。
「どうした?」
「何か、来る……!」
 目を覚ましたらしいアンジェの言葉に、スラッグは告げた。
「野生生物だな。気をつけろ、クリーチャーより手強いぞ」
 スラッグの言葉に素早くテントから外へ出たアンジェが言う。
 二人は背に翼を生やし、周囲の気配を探った。周囲の風がスラッグの感覚となり、接近してくる生物の位置を掴む。距離が近付いてくるにつれ、その生物の体型を把握する。狼や犬に近い、四足歩行の生物が五匹、接近して来るのが解った。
 草むらを掻き分け、飛び出して来た野生生物とやらは見た目は大型の狼にしか見えなかった。ただ、身に纏っている風は危険なものだと告げていた。
 周囲の草木に火を移さぬよう、アンジェは掌に白熱した炎を纏わせて狼に叩き付ける。焼き切られた身体が落ちた。溶断されたために切断面は焼け焦げ、傷痕から出血する事はない。アンジェの左右から飛び掛る野生生物が空中で爪を振るった。爪からかまいたちが放たれるのが解った。それを後ろに跳んで避けたアンジェが反撃の拳を撃ち込む。一撃必殺の炎で焼かれ、二体の生物が絶命する。
 熱気が陽炎となり、アンジェの両腕から立ち上る。
 背後に野生生物がいるのを風で察知し、スラッグは振り向き様に風の刃を放った。狼のような生物は爪からかまいたちを放ち、スラッグの攻撃を相殺する。クリーチャーやガードユニットにはできなかった事を、地上の生物はしている。それがスラッグを驚かせた。
 別方向から放った風の刃をかわし切れず、生物が切り裂かれて絶命する。流れ出した血は赤く、それが自然の生き物なのだと再認識した。
 ヴァーテクスならば、野生生物が少数であれば十分に対処できるだろう。しかし、野生生物すらもヴァーテクスに近い特異な力を使えていた。数が多ければ、ヴァーテクスとはいえ、必ず勝てるわけではないという事だ。
「他に何か感知できるか?」
「いや、これだけだ」
 アンジェの問いにスラッグは答えた。
 感知できる範囲内には敵性生物はいないようだった。風上の方にも何もなさそうだ。
 地上に出てから二日が経っていた。スラッグ達は東の方へと移動を続けている。移動用の車両はなく、手段は徒歩だ。リアは、スラッグに話した事をレイシェには語らなかった。それは、レイシェがアンジェと行動を共にする事が多かったためである。アンジェがリアを嫌っているためか、二手に分かれての行動をする時、アンジェはレイシェもしくはスラッグとしか行動を共にしない。
「今日はこの辺で休むか」
 前日よりも早い時間帯に、アンジェはそう提案して来た。
 テントを張り、夕食を取る。そして皆が眠りに着いて行く。ただ、スラッグだけは眠る事ができなかった。いや、眠っていないのはスラッグだけではなかった。
 アンジェが起きている。呼吸などの起こす微細な風が、スラッグにそれを教えてくれた。眠っている時の呼吸ではない、と。
 暫く時間が過ぎた頃、アンジェが身を起こし、テントを出た。十分に距離を取ってから、スラッグもテントを抜け出す。周囲を包む風が、アンジェの位置を教えている。ヴァーテクスとしての力を解放していない状態の風の感覚でも尾行には十分だった。
 来た道を少し引き返すアンジェに、スラッグは確信した。
「……ジオ・フロントを壊すのか?」
 問いかける。
「ああ」
 アンジェは頷いた。最初の一瞬は驚いたようだったが、すぐにその態度は元に戻った。スラッグならば尾行もでき、眠っていない事も気付けるという事が解ったからだろう。
「リアから話を聞いたんだな?」
「ああ、聞いた」
 アンジェの言葉を、スラッグは肯定した。
 この場で地上の事を知っているのはアンジェとリアしかいない。アンジェが話していなければ、リアしか地上の事を話せる者はいないのだ。
「……それで?」
「ジオ・フロントなんて破壊できるものなのか?」
「俺の力なら、比較的容易くできる」
 スラッグの問いに、アンジェは言った。
 ヴァーテクスの中には力を二つ持つ者も少なくない。アンジェも奥の手を持っている。二つともリアの言葉だ。
「……ジオ・フロントを破壊する意味はあるのか?」
「自然淘汰だ」
 アンジェは言い切った。
 地上の人類は皆、ヴァーテクスとなっている。地下の人類は、地上で生きて行くのは極めて困難だ。地上での生活が困難だとして、地下に閉鎖空間を造って逃げ込んだ人間達は淘汰される運命にある。アンジェはそう言った。
「いずれ、地下の人達も皆ヴァーテクスになるんじゃないのか?」
 スラッグは問う。
 地下からも、スラッグやレイシェのようにヴァーテクスは誕生するようになってきたのだ。わざわざ淘汰せずとも、いずれ地下の人類もヴァーテクスになるのではないだろうか。
「それはない。地下では、ヴァーテクスはイレギュラーと判断されている」
 アンジェの言葉に、スラッグは地下での経緯を思い出した。
 都市から離れるまで、クリーチャーに追われ続けたのは、ジオ・フロントの生態系調整機能の存在故だ。生態系と人口調整のための排気機構クリーチャーを、ヴァーテクスはいとも簡単に倒す事ができる。それは地下の生態系と人口のバランスを崩しかねない。そう判断したジオ・フロントの機構は、ヴァーテクスの存在を消すためにクリーチャーを大量に投入した。
「ジオ・フロントの判断だけじゃなく、人間としてもイレギュラーにされる」
 更にアンジェは言った。
 そうして、自分の身を守るために力を使えば、いずれは周囲の人間にヴァーテクスである事が知れ渡るだろう。地下の人間達からしてみれば、クリーチャーは恐怖の対象だ。それを簡単に葬る事のできるヴァーテクスは更なる恐怖の対象となるだろう。そうなれば、ジオ・フロントの住民からも良い目では見られないだろうし、迫害もされる可能性があるのだ。
「理解できないわけではないんだろう?」
「……」
 スラッグは言葉を返せなかった。
 十分過ぎるほどにアンジェの言葉は理解できる。それでも、どこか腑に落ちない何かがある。
「手伝え、とは言わないがな。邪魔をするなら、同じヴァーテクスだろうと容赦はしない」
 アンジェが言い放つ。
「でも、地下の人達は地上の人達に何もしていないじゃないか……」
「ヴァーテクスでない人類など、もうこの世には必要ないんだ」
「同じ人間だろ……?」
「……ヴァーテクスの恥だな、お前は」
「何だって?」
 アンジェの言葉に、スラッグは耳を疑った。
「お前の思想は危険だ」
 瞬間、スラッグは辺りに殺気が満ちるのが解った。アンジェの纏う風が、スラッグへの敵意で満たされて行く。
「本気か……?」
「ヴァーテクスこそが人類だ」
 スラッグの問いに答えず、アンジェは背に翼を作り出した。同時に周囲に熱気が満ちる。渦を巻くように周囲に拡散する熱気を浴び、スラッグは背筋に寒気を覚える。
「……そんなの、傲慢過ぎる」
 本意ではないが、アンジェのしようとしている事はただの大量虐殺だ。地下で幸せに暮らしている人だって少なくはないだろう。その命を奪う権利などあるはずがない。
 スラッグも、背に漆黒の翼を生やした。元から、アンジェを説得する事はできなかったのだ。だから、リアはアンジェから離れ、アンジェはリアを嫌うようになったのだろう。
 周囲の風を把握し、アンジェの動きの予測に感覚を向ける。
 アンジェが動く。右腕を自然体から左斜め上へ振り上げると同時に火柱をスラッグへと放ち、続いて左腕も同様にしてもう一本の火柱を放った。熱気が周囲に風を巻き起こし、地面に生えた草を燃やす。野生生物と違い、ヴァーテクス同士で戦う場合は余計な手加減などできないという事だ。
 蠢く火柱に手をかざし、突風を柱の半ばに突き刺すように放つ。そうして炎に穴を開けて分断し、周囲の大気を動かして炎を上空へと吹き飛ばした。交差させた両腕を左右に開くように振るい、アンジェは炎を前面に撒き散らす。
 熱気が髪を揺らす。炎に風の障壁をぶつけ、押し返すと共に掻き消した。
 その風を突き抜けて突撃してきたアンジェの突きを、寸前で身体を横にずらして避ける。風の流れでアンジェの動きを先読みし、肘打ちと掌底をかわした。身を退いたところへアンジェは踏み込み、上段回し蹴りから下段回し蹴り、中段回し蹴りと流れるように繰り出される蹴り技を、屈み、跳躍し、腕で受け止め、スラッグは防いだ。受け止めた足を掴み、纏った風で加速させた掌底を放つが、アンジェは熱気を纏った腕でそれを弾いた。
 瞬間的にアンジェは、身体を水平にするように軽く地面を蹴って跳躍し、その足でスラッグの腹に蹴りを放つ。掴んでいた足を放し、スラッグはアンジェが放った蹴りを外側に弾くようにして防ぐ。
「ジャベリン!」
 倒れた体勢から、アンジェが炎の槍を放つ。
「――っ!」
 咄嗟に右腕を左から外側へと払うように振るい、風を巻き起こした。
 強烈な炎は風を起こす。その風を捻じ曲げる事で、炎の進路自体をもずらす。スラッグは炎の槍を防ぎ、後方に跳んで距離を取った。
「……甘いな」
 アンジェが呟いた。
 その言葉が指す内容は、直ぐに解る。スラッグからアンジェへの攻撃はなく、全てが反撃のみだ。つまり、スラッグはアンジェすらも殺さぬようにしようとしているのであった。その思いが、スラッグにアンジェへの攻撃を踏み止まらせている。
「――二人とも何やってるのよ!」
 不意に、二人の間にレイシェが飛び込んだ。
「レイシェ……!」
「何してるの……? 二人が戦う理由なんてないじゃない……!」
 離れた場所から、リアが見ているのが、解った。スラッグの感覚の認知内にリアがいる。ただ、リアはレイシェに何も言っていないのだろう。
「……アンジェは、ジオ・フロントを破壊しようとしているんだぞ」
「知ってるわ!」
「なっ……!」
「地上に出た日の夜、アンジェから直接聞いたの」
 そのレイシェの言葉に、スラッグは絶句した。
 レイシェは、地上の事全てを聞いている。スラッグの知っている事は全て、レイシェも知っているのだ。しかも、その上でレイシェは二人が戦う理由がないと言った。
「……本気で言ってるのか、レイシェ?」
 常に周りの人達の事を考えていたはずのレイシェの言葉が、信じられない。
「だって、ジオ・フロントを壊すのにはアンジェなりの理由があるのよ?」
「地下の人達はどうなるんだよ……!」
 ジオ・フロントの子供を守るために力に覚醒したレイシェが、ジオ・フロントの破壊に肯定的だというのが、理解できない。全てはスラッグの思い違いだったとでも言うのだろうか。長い間、共に過ごして来たというのに。
「閉鎖空間から解き放たれるんだよ……?」
 レイシェの言葉に、スラッグは気付く。恐らく、アンジェとリアでは話の仕方が違ったのだ。同じ内容の部分は共通であっても、アンジェはレイシェを味方に引き込むような脚色をしたに違いない。恐らく、アンジェはジオ・フロントを壊す、と言っただけで、地下の人間を全滅させるとは言っていないのだ。確かに、閉鎖空間から解き放たれるとしても、死んでしまうのだ。
「ジオ・フロントが破壊されたら、皆死んじまうだろ!」
「そりゃあ、被害がゼロだとは思わないけど……」
 地下にクリーチャーがいるのは、地下が閉鎖空間だから。閉鎖空間でない場所には、クリーチャーはいない。クリーチャーのいない世界に行けるなら、ジオ・フロントの人達にとってはプラスになる事なのではないか。それがレイシェの理屈だった。
 クリーチャーのいない世界が死後の世界とイコールであると考えていないレイシェに、スラッグはただ当惑するしかない。
 安易に、アンジェに騙されているなどと口走れば、逆効果だ。アンジェを信じ切っているレイシェを、スラッグが説得する事は不可能に近い。外の世界、本当の世界へと連れ出してくれたアンジェは、レイシェにとっては信頼に足る人物になっているのだから。
 立ち位置も、スラッグからアンジェを守るように、レイシェはスラッグを真正面に見て立っている。
「……どうする? 続けるか?」
 アンジェが言う。何も感情的な部分は込められていない、ただの問い掛けなのに、スラッグには挑発のようにしか聞こえなかった。
「スラッグらしくないよ」
「――!」
 レイシェの言葉はショックだった。
 もはや、この場にスラッグの味方と呼べる人間はいない。リアは完全に中立だと宣言し、スラッグもその部分は了承している。アンジェとレイシェが組んでしまえば、スラッグはたった一人の抵抗者になってしまう。
「俺にとっては、今のレイシェの方がらしくないように見えるんだよ」
 レイシェから視線を逸らし、スラッグは言った。
 周りが見えなくなるほどにアンジェ寄りになってしまったというのだろうか。
「退く気はないんだな……?」
 アンジェが問う。
 退いた方がいいのかもしれない。そんな考えが頭を過ぎる。所詮は皆、自分と友人知人が生きてさえいれば良いのだという考えが頭に浮かんだ。無論、それも間違った考えではない。直接関わる事のない他者など放っておけば良い。直接関わる事ができないのだから、どうにかしようと思う方がおかしい。
 ――違う!
 地下の生活を捨てて旅立つ時、竜型クリーチャーにスラッグ達の街が襲われた時、レイシェは勝ち目がない相手であっても、放っておくという考えを選ぶのが厭だったのだ。スラッグは、そんなレイシェに惹かれていたはずだ。
「どいてくれ、レイシェ……!」
「スラッグっ!」
「俺はレイシェが好きなんだ、巻き込みたくないし、大量虐殺の手助けなんかさせたくない」
「私が好きなら、退いてよ!」
「余計退けない……! 俺が好きなレイシェは、どんな状況でも周りの人を助けようとしていた!」
 この状況でアンジェはレイシェを敵に回すほど馬鹿な事は言わないだろう。どの道、アンジェを倒すしか手がない。
「……無駄な事を……」
 アンジェが呟いた。ゆっくりと歩み出て、レイシェの傍まで近付いてくる。その言葉はスラッグにかけられたものだったのか、レイシェにかけられたものだったのかは解らない。
「少し、寝ていてくれ」
 そう言い、アンジェはレイシェの肩に手を置いた。
「あ……――」
 瞬間、レイシェが静かに気を失った。目を閉じ、倒れるレイシェを受け止め、アンジェは離れた場所まで連れて行く。
「何をした……!」
「問題ない。気絶させただけだ」
 戦闘に邪魔になるであろうレイシェを、遠ざけた。つまり、アンジェはスラッグのみを敵と認識しているという事だ。
「俺は……お前だって殺したくない」
 歯噛みし、スラッグは言った。
「だが、お前はジオ・フロントの破壊を望んでいないんだろう?」
 殺気の篭った視線がスラッグに向けられる。自然体で立つアンジェに、身構えている時と同じだけの威圧感を感じた。
「……なら、言ってやろう。俺は地下の人間を皆殺しにしたいんだ」
「……!」
 アンジェが言い放つ。その目に偽りなどは無く、はっきりと本心から出したものであると理解できる。スラッグを挑発しているわけでもなければ、スラッグが攻撃しやすいような言葉を選んだわけでもない。
 ヴァーテクスである事を誇りに思っている者もいると、リアは言った。それは、突き詰めて行けばヴァーテクスでない者は人間ではないと言う事にも発展する。アンジェがその最たるものなのだろうか。
「これから俺はお前を全力で排除する。阻止したければ、お前も全力で来い」
 同じヴァーテクスであるスラッグへの騎士道精神なのか、アンジェはそう告げた。
「アンジェ……!」
 もう戦いは避けられない。そう判断したスラッグは身構えた。
 瞬間、空気がブレた。
「――!」
 スラッグの右腕が、上腕部から弾ける。
 空気の破裂するような音が響き渡り、スラッグの右腕が身体から離れた。腕が床に落ちた事を、脳が理解していない。身体も認識していない。血が溢れ、滴り落ちた。
 間を置いて激痛が襲う。咄嗟に左手で肩を強く抑え、血流を押し留めようとする。痛みに声が出ず、全身が硬直していた。
「終わりだ……!」
 アンジェの言葉が微かに聞こえた。
 風の動きが、反射的にスラッグの身体を動かしている。後方へ退くように身体を引いた瞬間、衝撃。
「が――!」
 左目が弾けた。
 身を退いていなければ、頭が吹き飛んでいる位置だった。左目が吹き飛び、瞼も巻き込んだのか、夥しく出血する。
 左側の視界が失せ、激痛だけが残る。足を踏み外し、仰向けに倒れた。その衝撃が腕に響き、激痛が全身に響き渡った。
 アンジェのもう一つの能力。それは振動波を操る事だ。複数の箇所から放った振動の波長を一点で合わせる事で、振動の幅を極限まで膨らませる。その莫大なエネルギーは全てを破壊する衝撃となる。波長は組み合わせる程に強大になり、そのエネルギー量は比例ではなく、加速度的に上昇していく。風の揺れが、それを教えてくれた。
 複数の箇所から微細な空気の振動を感じ取り、スラッグはその場から風の力も借りて飛び退いた。直後、地面が大きく抉れる。
「くそっ……!」
 片膝を着いた体勢からアンジェに風の刃を放ち、スラッグは立ち上がった。
 激痛が走るが、ヴァーテクスのトランス状態であるためか、痛みは感じても動けないほどではない。本来ならば、痛みでのた打ち回っていてもおかしくはないだろうに。
 立ち上がり、ふらついた。片目が無いだけで、遠近感が掴み辛くなっている。
 アンジェは風の刃を、身に纏った陽炎の揺れを見て回避して見せた。
「黒い翼と言えど、力に慣れていなければこの程度か……」
 言い放ち、炎の槍を放つアンジェに、スラッグは風の防壁で攻撃を防いだ。直後、空気が揺れた。飛び退いた瞬間、足元が破裂し、吹き飛んだ。土と草が爆ぜ、周囲に飛び散る。
 空中から風の刃を周囲に放ち、それら全てを軌道修正してアンジェへと向かわせる。同時にアンジェの周囲に竜巻を起こし、行動を制限させた。アンジェは全身に炎を帯び、その炎を竜巻へと流し込んでいった。渦を巻いて立ち上る火柱と化した竜巻に、放った風の刃が全て掻き消された。その上で、竜巻を飲み込んで巨大な火柱となった炎を上空へ立ち上らせ、スラッグの真上に落下させた。
 周囲の大気の流れを練り込み、空間が歪んで見えるほどの密度の風を身に纏い、スラッグは炎の柱の中央に風を打ち込み、内部へ周囲に発散させて火柱を破裂させた。飛び散る火の粉を風で吹き消し、濃密な大気を鋭利な刃物と化し、アンジェへと打ち込んだ。
 その風が、弾けた。振動波の衝撃を、風、大気分子の運動へ影響を与えるように放ち、爆発的な風の流れを起こして打ち消したのだ。
 風を乗り越えて突撃してきたアンジェが繰り出す上段回し蹴りを屈んでかわし、突き出された拳を横に跳んでかわし、スラッグは左腕を薙いで風の刃を叩き付ける。腕の延長線上の刃を、アンジェは屈んでかわし、掌から拡散する炎を撒き散らした。凄まじいまでの熱気が陽炎となり、空気を歪ませる。
 風を纏い、炎を掻き分けてアンジェに跳び蹴りを繰り出す。その足を受け止め、掴むアンジェに腕を薙ぎ、風の刃を放つと共に腕を振るった慣性を利用して身体を捻り、もう一方の足で蹴りを放った。風の刃を身体を身体を半身にしてかわしたアンジェの顔面にスラッグの蹴りが入った。
 吹き飛び、背中から地面に倒れたアンジェに、スラッグは更に風の刃を打ち込む。地面を転がってかわし、跳ね起きたアンジェが口の端から垂れた血を腕で拭う。蹴った際に切ったらしい。
「バーニング・サークル!」
 アンジェが手をかざす。
 スラッグを取り囲むように熱気が集約し、陽炎がスラッグを包み込む。逃れようとした瞬間、スラッグを中心に円を描くように炎が燃え上がり、それが上へと柱のように立ち上っていく。炎の壁で周囲を囲まれ、熱気と陽炎に包まれた。息苦しい空間の中、空気が揺れる。振動が放たれ、スラッグは空中へと逃れる。足場が吹き飛び、空中へ向けられた振動に、風で身を包んで軌道を変えてかわした。
 風の密度を高め、炎を貫こうとした瞬間、上空の大気が動くのを感じた。炎の柱は上空の変化をスラッグに隠すためのものだったのだろう。だが、気付いた時には遅かった。
「ブレイク・ダウン!」
 凄まじいまでの衝撃が地面に叩き付けられる。
 スラッグの叫びが掻き消され、地面に弾き倒されても尚、衝撃は地面を叩き続けた。全身が押し潰されそうな衝撃に、身に纏った風が振動を和らげているのを感じる。
 炎は消えても、アンジェは両手を下へ押し付けるように構えたまま、力を放ち続けている。地面に亀裂が入り、地響きが周囲に広がって行く。亀裂も広がり、やがてはスラッグは背中が地面に減り込んだのを感じた。
「崩れ落ちろ、ジオ・フロント!」
 アンジェが叫んだ瞬間、波長は地面へ浸透し、内壁や通路を構成する全ての素材の分子が揺さぶられ、崩壊し始める。
 凄まじいまでの音を周囲に響き渡らせ、地面が崩れた。周囲の土や草をも巻き込み、地面が陥没する。その裏の内壁も崩壊し、スラッグはジオ・フロントの内部へと叩き落された。
「――ぁぁぁぁぁああああああああああ!」
 絶叫するスラッグに、尚も衝撃は叩き付けられていた。
 内壁に映し出された空が見えた。ジオ・フロント内部の気圧制御によって創られた雲を突き抜ける。
 凄まじいまでの衝撃に意識だけでなく、身体までもがばらばらに吹き飛ばされそうになる。だが、共に叩き落された土や草、背面で圧縮された空気がクッションとなり、本能的に身体が放った力が落下のコンマ数秒で速度を激減させた。傍から見れば、共に落とされたものが吹き飛ぶ様から、地面に激突して見えただろう。
 周りのざわめきが聞こえた。どうやら、都市内に落ちたらしい。
 数回咳き込み、血を吐きながら、スラッグは天井を見上げていた。背中の翼は消えている。身体から力が抜けているのが解った。生きている事が信じられないと感じると共に、安堵もしていた。その安堵感がスラッグの気を抜かせたのだろう。
 天井には、穴が開いたとは感じられない。それほどまでに、小さな箇所に穴が開いたという事だ。だが、今の力を見た限りでは、アンジェはジオ・フロントを崩壊させる事ができる。
 物珍しさか、奇怪さか、周囲の人達は近寄って来ない。当然だろう、いきなり人と地面、それに得体の知れない材質の金属が落ちてくれば驚きと共に恐怖も覚えるはずだ。
 軍か、警察機構かが到着したのだろう、複数の人間が近付いて来る。
「何がどうなってるんだ……?」
「おい、酷い怪我だぞ」
「事情の知っていそうな奴がこれだと、困るな」
「意識はあるのか? 命に別状はないみたいに見えるぞ」
 騒ぎ始める人達に、咄嗟に声が出ない
「……!」
 直後の事だった。
 天井が大きく崩壊するのが見えた。穴が開いたと解るくらいの大きさで、天井が崩落する。その中央、頭上に赤い光が見えた。
「――アンジェっ!」
 瞬間、スラッグは飛び起きていた。
 急速に落下してくる炎の塊は、真っ直ぐに落下してくる。都市上空、スラッグがアンジェだと認識できる距離まで辿り着いた火球は周囲に炎を放つと共に背中の翼を大きく左右に開いた。
「まさか、生きていられるとは思わなかったな、ドラグ」
 アンジェが言った。
「な、何だお前は……!」
 周りの人達がざわめき、アンジェに注目する。中には天使だなどと言う者もいる。警察たちは銃を向けているが、明らかに動揺していた。
「ヴァーテクス。真の人類だ!」
 言い、アンジェは周囲に炎を撒き散らした。赤い炎は熱気を放ち、街を焼き尽くし始める。
「アンジェ……っ!」
 逃げ出そうとする人々に向かって、アンジェは躊躇う事なく炎を放った。
 赤く燃え盛る炎に、人々が絶叫しながら逃げ惑う。
 乱れた息のまま、スラッグは背に漆黒の翼を生やした。それに周りにいた人がざわめき、注目する。その人々へ向けられた炎を、スラッグは左手をかざして風を起こし、掻き消した。
「レイシェはどうした……?」
「安全な場所まで運んでから来た」
 スラッグの言葉に、アンジェは答え、炎を連発する。
 その尽くを風で吹き払い続ける。一瞬、大気の流れを感じ、スラッグはその場を飛び退いた。風で周りの人達も吹き飛ばす。直後、スラッグの立っていた地面が弾けとんだ。
「ば、化け物だぁーっ!」
 誰かが叫び、逃げ出す。その男に、眉根を寄せたアンジェが炎を放つ。スラッグは男を風で吹き飛ばし、炎を避けさせた。
「貴様も俺と同類だと言うのに、何故助ける!」
「拒絶が敵意になるって解らないのか!」
「先に拒絶したのはそいつらだ!」
「だから滅ぼすなんて、終わりがないじゃないか!」
「旧人類が滅びれば終わる!」
「なら、ヴァーテクスを越えた存在が現れたら、お前は自分が死ねばいいと思うのかっ!」
 炎と風をぶつけ合い、力の限り叫び合う。
「淘汰される存在になるのなら、滅びるはずだ!」
 言い、アンジェが衝撃を放った。
 寸前で直撃をかわしたが、衝撃波を浴び、スラッグは吹き飛ばされた。建物の壁に背中を打ちつけ、地面に倒れる。左手を着き、顔を上げた先で、アンジェが地面に足を着けていた。
 周りで銃を構える警察隊を炎で薙ぎ払い、歩いて来る。
 不意に、スラッグはアンジェの歩いて来る直線の脇に、小さな女の子が震えているのに気が付いた。足が竦んで動けないのだろう、がたがたと身体を震わせてアンジェを見上げている。瞬間、アンジェがその女の子に気付いた。目を向け、腕を振るおうとする瞬間、スラッグは地を蹴り、女の子を左手に抱くようにしてアンジェの前から遠ざけさせていた。離れた場所に女の子を下ろし、振り返った直後に放たれたアンジェの拳を、左手で受け止める。
 熱量で赤い光を帯びたアンジェの拳を、濃密な風を帯びた手で受け止める。熱を感じるが、風でだいぶ冷却できていた。火傷を負う寸前の熱を左手で受け止めていた。
「これ以上は、やらせねぇ……!」
 スラッグは声を絞り出した。アンジェが眉根を寄せる。
 背後にいる女の子はアンジェだけでなく、スラッグにも恐怖している事だろう。だが、そんな事は関係ない。スラッグは地下の敵ではない。ただ、それだけを自分の意志としてさえすればいい。
 ――負けない。
 心の奥底に何かが響く。
 力が脈動する。
 身体の中央から全身へと力が溢れ出すのを感じた。
 瞬間、スラッグの背に、もう一つの翼が生えた。左側一方だった漆黒の翼が、右側に対になるように伸びるのが解る。
「アンジェェェエエエエエッ!」
 スラッグの足元から風が巻き起こる。渦を巻くように立ち上り、周囲に凄まじいまでの突風を巻き起こす。掴んだ腕を引き寄せ、膝蹴りをアンジェの鳩尾に叩き込む。同時に、膝に纏った風を解き放ち、アンジェをその力の延長線上へ吹き飛ばした。
「――がぁっ!」
 吹き飛ばされたアンジェに、スラッグが飛び掛かる。
 アンジェが腕を薙いで放った炎が、スラッグの身に纏った風で弾かれて消えた。左腕をアンジェの腹に下方から減り込ませ、纏った風がその力の方向へアンジェを跳ね上げる。
 アンジェが衝撃波を起こすが、腕でそれを打ち消した。風を纏った腕が、振動を打ち消したのである。大気分子の運動として起こした衝撃ならば、風で干渉できるとは言え、それは明らかに風の力だけではなかった。
 ――破壊の力。
 そう呼ぶべきものなのだろう。スラッグのもう一つの力。全てを打ち壊す、力。
「――ぁぁぁぁぁあああああああっ!」
 ジオ・フロントを破壊するほどの威力の衝撃を全身に浴びながらも、スラッグは上空へ打ち上げたアンジェへと突撃して行く。衝撃を全て全身に纏った風と、新たな力で打ち消して。
 白熱した炎の槍を身に纏った風が裂く。身体中に打ち込まれる炎が、全て身に纏った風で弾かれ、後方へ流れて行く。それでも、アンジェは諦めずに攻撃を続けていた。
 空気を歪めるほどの密度の風の刃を放つ。打ち消す事ができず、刃はアンジェに命中した。右脇腹と左肩を深く切り裂き、血飛沫が飛び散る。そのアンジェの首を掴み、スラッグは上空へと凄まじい速度で上昇して行く。
 雲を突き抜け、アンジェが破壊した穴から、地上へと飛び出た。
 加速を止め、停止すると同時にアンジェに蹴りを放ち、更に上空に打ち上げる。左手を後方へ引き、突き出すと同時に、手の延長上に風の槍を放つ。濃密な風は空気を歪め、アンジェを貫いた。
「……なら、お前の望む未来、見せてもらおうか……」
 口から血を吐きながら、アンジェが呟いた。
 突き刺さった風が、その圧縮された空気を周囲に撒き散らして消える。その風の破裂はアンジェをも吹き飛ばしていた。
 血の雨を浴びながら、スラッグはただ、青空に向かって叫んでいた。
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