第六章 「選ぶ道」 ライズが踏み込むと同時に、ユウキは真後ろへと飛び退いていた。 だが、ライズの方が早い。重力を無視したような加速で、ユウキに追い付いてくる。 いや、実際に重力を無視している。 ユウキが横へと飛べば、ライズは直角に進行方向を切り替える。方向転換時には床へ足を付けているものの、明らかに慣性を無視した動きをしている。 「防ぐか、避けろよ」 挑戦的な言葉と共に、ライズが胸の前で右掌を上へ向けて構える。 掌の上の空間が歪んだかと思った瞬間、漆黒の球体が生じていた。水平に払う腕の動きで、ユウキの方へと球体が放たれる。 高速で飛来する球体へ、ユウキは右手を伸ばす。銀の輝きが小さな壁を作り出し、黒い球体を掻き消した。 黒い球体を形作っていた力場に触れたことで、ユウキの力がライズの能力を解析する。 薄々感づいてはいたが、ライズの持つ力は重力を司るものだ。周囲や自身にかかる重力を操ることで、慣性を無視した動きができる。また、力場内部の重力を 過剰に集中させることでブラックホールのような重力球を作り出せる。触れればどんなものでも押し潰されて掻き消されるであろう、強力な攻撃だ。 ユウキは後退するのを止め、接近するライズに応戦の構えを見せた。 着地と同時に滑るように身を屈め、ライズが足払いを仕掛ける。ユウキはその足払いにローキックを噛ませて相殺し、腰ほどの高さにあるライズの顔へと至近 距離からのアッパーを放つ。ライズの上体が床に倒れるほど水平に反り、アッパーが空振りする。その直後に、跳ね上がるように身を起こしたライズが下方から 掌底でユウキの顎を狙う。 飛び退こうとした瞬間、ユウキの体がライズの方へと引き寄せられる。 咄嗟にライズの腕を横合いから手で払い、攻撃を凌ぐ。気付けば、ライズの力場は部屋を覆うように展開されていた。 ユウキは銀の光を放ち、部屋を覆う力場に穴を開ける。それと同時に飛び退いて、ライズの連撃をかわした。 ライズが牽制のために放った重力球を銀の盾で打ち消す。重力球を目くらましに、ライズは大きく跳躍していた。空中から飛び蹴りを放つライズを、ユウキは内から外へ回した右手で足首を掴むようにして受け止める。そのままライズの足を掴んで引き寄せ、左手で掌底を放つ。 ライズが受け止めるためにかざした両手の前に、ブラックホールが壁のように作られる。ユウキの左手が銀の輝きを纏い、漆黒の壁を突き破ってライズの両手とぶつかる。 その瞬間、弾かれていたのはユウキの手の方だった。 接触の瞬間にライズの両手から発生した衝撃波が、ユウキの掌底を弾いた。 ライズが強引に足を振り回し、ユウキは右手を放す。ライズはそのまま空中に留まり、まるで宇宙にいるかのように宙を移動する。 自分にかかる重力をゼロにしたライズは、保護領域を起点に発生させる重力で自在に動く方向を操れるようだ。 滑るように空中を移動しながら、衝撃波と重力球の波状攻撃を仕掛けてくる。ユウキは銀の光を放って重力球を掻き消すが、力場に包まれていない衝撃波は打ち消すことができない。 強烈な衝撃波を何度も浴びるわけにはいかない。 ユウキがライズへと踏み込む。床を蹴る瞬間に力を込め、一息でライズの懐へと飛び込んだ。 僅かに驚いたような表情のライズへと、右の拳を振るう。ライズが首を逸らして攻撃をかわし、膝蹴りを繰り出す。ユウキは左手で膝を受け止めた。 瞬間、衝撃と重力がユウキに襲い掛かる。下へと押し付けるような重力と、上へと弾き飛ばそうとする衝撃波が、ユウキの体を挟み撃つ。 「ぐっ」 口の端から呻き声が漏れる。 逃げ場を失ったエネルギーはダメージとなってユウキの肉体に蓄積する。 ライズが至近距離から連続で放つ衝撃波がユウキの体に叩き付けられる。凄まじい衝撃に、身を守るために掲げた腕が軋む。どこまで耐えられるのか計っているかのように、少しずつ衝撃が重くなっていく。 ライズは重力場による対象の操作と、衝撃波による防御の難しい攻撃を巧みに使い分けて戦っていた。自分の力を底上げし、相手の力を引き下げる。相対的に差を付ける戦い方だ。同時に、重力とは無関係な衝撃波による攻撃が相手を追い詰める。 戦い難い相手だ。 力の相性もさることながら、それを使い分けるライズの判断力もかなりのものだ。純粋な身体能力も高い。 ユウキは左手を水平に薙いだ。蒼い光が床から天井までカーテンのように発生し、ユウキとライズを隔てる。 衝撃波が蒼のカーテンにぶつかり、光が波打つ。 相手は目視できていなかったが、ユウキは迷うことなく自分で作り出した蒼のカーテンへと飛び込んだ。相手の力を破壊するユウキの能力は、その力場を探知する特性を備えている。相手が見えていなくても、保護領域や力場が展開されている限り、どこにいるのか認識できる。 蒼のカーテンをユウキは突き抜ける。蒼い輝きをマントのように纏い、ユウキはその先にいるライズへと突撃する。 放たれる衝撃波は蒼い閃光のマントが打ち消し、重力を発生させようと展開する力場へ銀の粒子が穴を穿つ。 手が届く距離まで近付くと同時に、蒼のマントが輝きを増す。爆発したかのようにエネルギーを撒き散らし、蒼のマントが弾け飛ぶ。咄嗟に両腕で身を庇いながら後方へ逃れようとするライズを、ユウキは追撃する。 炸裂させたエネルギーはライズの背後で再び集約し、壁となる。それを察知したライズが空中で急停止したところへ、ユウキの回し蹴りが届いた。 ライズが両腕で受け止める。衝撃波によるカウンターを狙うライズに構わず、ユウキは蹴り足に力を込める。蒼い保護領域が輝きを増す。 接触の瞬間、ライズはユウキの足に衝撃波を叩き付けていた。だが、ユウキはその衝撃を強引にねじ伏せて足を振り抜いた。 蒼い光が周囲に舞い散り、自分の放った以上の衝撃がライズの腕に叩き付けられる。 「う、ぐっ」 ライズが呻き声を上げる。 横合いに押し倒されたライズは、それでも受け身をとってすぐさま起き上がる。 「やっぱり強いな」 真剣な表情だったが、僅かに苦笑いが滲んでいる。 「止めるのか?」 身構えたまま、ユウキは問う。 「いや、少しぐらい本気にはさせたいからな」 ライズの言葉に、ユウキは僅かに目を丸くした。 手加減をしていたつもりはない。ただ、ユウキの攻撃は簡単に致命傷を与えてしまう。純粋なエネルギーであるユウキの力に触れれば、ただでは済まない。 肉弾戦ばかりしているのはそういう理由だった。 「とりあえず、俺の本気は見てもらうぜ」 ライズの表情から笑みが消え、その視線が鋭くなる。 ヒサメやリョウが本気になった時の表情や気配に似ていた。 ライズが床を蹴ったと思った刹那、その姿が視界から消える。ユウキの動きを制限するための力場は展開されていない。ライズが自分の保護領域を起点として 重力を操作しているだけだ。自身にかかる重力はゼロに、移動する際には押し出す引力と引き寄せる重力を進行方向へ一致するよう発生させてトップスピードを 維持する。 肉体にかかる負荷を無視して、重力をフル活用して移動している。ライズの気配は追っているが、その速度はヒサメやリョウのような爆発的な加速力に匹敵していた。 床を蹴り、天井を蹴り、壁を滑る。部屋の中を縦横無尽に動き回りながら、ライズはユウキへと衝撃波を放つ。 そのうちの一発が、ユウキの頬を浅く裂いた。 「っ!」 針のように一点に集約させた衝撃波が、かまいたちのような鋭さを持った一撃となっていた。 「治癒能力者がいるなら、多少の怪我は構わないだろ?」 ナツミとアキナがいるから、後で傷を癒すことはできる。 飛び退いたユウキの右肩が裂けた。傷は浅かったが、それでもいくらか血が飛び散った。 「お兄ちゃん!」 シーナが心配そうな声を上げる。 ライズを見て、ユウキはぞっとした。 ユウキを見るライズの目は、殺気を帯びていた。かつて手合わせしたハクライ・ジンのような気迫がそこにはあった。 鋭い視線に気押されて、ユウキはさらに後退する。足元に突き刺さる衝撃が、床に小さな穴を開けていく。 「……終わりか?」 ハクライ・ジンの静かな声音が、頭の中に小さく響いた気がした。 瞬間、後ろへと跳ぼうとしていた足を踏ん張り、ユウキはライズを見返した。 「あの時と同じじゃダメだ……!」 誰にも聞こえないような小さな声で呟く。 もう、頼るべき大人はいない。ジンや、両親がいた時のように、守ってくれる人はいない。これで終わりでは、ダメだ。その先へ、進むと決めたはずだ。 ライズが放つ衝撃が、鋭い刃となってユウキに向かう。蒼い壁が床から立ち上り、衝撃を遮断する。蒼い壁を突き抜けてライズへとユウキが突撃する。 ライズの前方に広範囲な力場が生じたと思った直後、ユウキの視界が歪んだ。いや、その力場のある空間が歪んで見えた。重力操作による、可視光の屈折だ。重力によって歪められた時空を進む光が曲げられる、重力レンズと呼ばれる現象だ。 ユウキは細く、鋭く息を吐き出し、銀の光を周囲へと放った。空間の歪みが打ち消され、天井に逆さまに立つライズの姿が目に映る。まるで床を駆けるのと同じように天井を蹴り、ライズが衝撃波を放ちながらユウキへと突撃する。 ユウキはそれを避けることもせず、真正面から見に受けた。 避けようとしないユウキに、ライズが驚いた表情を見せる。弾丸のような衝撃が狙っていたのはユウキの胸だった。 ユウキの保護領域が輝きを増し、蒼い光の粒子が周囲に舞い散る。衝撃波は蒼い光に打ち消されて消滅し、後から突撃してきたライズの掌が間髪入れずにユウキを狙う。掌底を、ユウキは左の掌で受け止めた。接触の瞬間、ユウキの掌を通して体の中に直接衝撃が撃ち込まれる。 電車か何かと真正面から衝突したかのような、重く激しい衝撃がユウキの左腕の中を跳ね回る。骨や筋肉が粉砕骨折してもおかしくない一撃を、保護領域で強引に抑え込んだ。歯を食いしばり、腕を包む蒼い輝きが爆発したかのように強烈な閃光を放つ。 受け止め、掴んだライズの手に、今度はユウキが力を流し込んだ。 銀の輝きが視界を満たし、ライズを包む保護領域が破られる。目を丸くするライズの体が、正常な重力の影響下に引き戻されて床へと落ちる。 足が床に落ちるよりも早く、ライズは再び力を発揮し、保護領域を展開していた。重力を制御し、倒れる寸前で持ち直す。 その一瞬の隙を、ユウキは見逃さなかった。右手の拳がライズの鳩尾を捉え、下方から思い切り振り上げられる。 「が、は……!」 肺から空気が押し出され、声にならない呻きを上げてライズの体が大きく吹き飛ばされ、背中から天井に激突する。無重力状態の体はそのままの勢いで跳ね返り、ライズは床に叩き付けられる。もう一度天井にぶつかるかというところで、ライズが重力を制御して持ち直す。 その時には既に、ユウキはライズを自分の間合いに捉えていた。 両手に作り出した蒼い光の剣が美しい軌跡を描いてライズへと振るわれる。ライズもそれに応じるかのようにブラックホールを剣状にして斬り返す。 蒼い剣が銀の粒子を振り撒き、漆黒の剣が溶けるように消えた。かわそうと後方へ飛び退こうと重力を発生させるライズの背後に銀の壁が立ち塞がっていた。銀の壁が保護領域を打ち消し、飛び退いたライズは地球の重力に引き戻されて背中から床に倒れ込んだ。 そして振るわれた蒼い剣は、ライズに触れる瞬間に消滅した。蒼く美しい粒子が周囲に舞い散り、ユウキは剣を振り抜いた体勢のままライズを見つめていた。 「まだ、続けるか?」 そう問い掛けたユウキの目を見て、ライズは苦笑と共に息をついた。 「いや、もう十分だ」 ユウキを見上げて、ライズはそう言った。 その言葉を聞いて、ユウキも小さく息をついた。構えを解いて、力も閉ざす。浅く切り裂かれた頬と右肩が痛み、思わず顔をしかめる。 駆け寄ってきたナツミとアキナが力を使い、ユウキの傷を癒す。 目を閉じて、ユウキは治療を受けた。 「中々やるな」 立ち上がったライズに歩み寄りながら、リョウが言った。 「まぁ、互いに全力だったらまた違っただろうけどな」 ライズは肩を竦める。 ユウキもライズも、メタアーツは強力だ。互いに、全力で戦っていたらまず五体満足ではいられないだろう。どちらかが命を落としかねない。 本来なら、ユウキはもっと自分の力を遠距離攻撃に回して戦える。ライズもそうだ。衝撃だけでなく、重力球を全面に押し出した戦い方ができたはずだ。 特に、空襲時のユウキは蒼い閃光のエネルギーをもっと振り回して戦っていた。それをしないのは、相手が殺す必要のない人物だからだ。対象を消滅、戦闘不能にするだけの戦いではないのだ。 「ああ、それは分かるな」 ヒサメも苦笑いを浮かべる。 ユニオンにいた時、ヒサメもリョウも、空襲以外では全力を発揮できなかったと言っても過言ではない。 ユウキを含めた三人のローテーションで行われる道場の模擬試合ではあまり強烈な攻撃はできなかった。道場を破壊してしまうような攻撃さえ繰り出せる三人にとっては、ほぼ肉弾戦のみに限定される試合になっていた。 「実力は全盛期のヒカルにも引けを取らないようだな」 治療を終えたユウキに、ダスクが声をかけた。 「そうかな……?」 ユウキはその評価を素直に受け取ることができなかった。 蒼光という物語で戦っていたヒカルは、もっと必死だった。文章とはいえ、その凄まじいまでの懸命さは伝わってくる。今のユウキにはそれがない。 事実、ライズの気迫にユウキは気圧されていた。 「どうだった、ライズは?」 自分の息子の評価を問うダスクに、ユウキは先ほどまでの戦いを思い返す。 「強かったです。きっと、ユニオンにいれば第零級になると思います」 ライズの強さはヒサメやリョウと同格だとユウキは判断した。 お互いに強力な攻撃は使えない状態だったのは分かる。ライズの力なら部屋中にブラックホールを作り出せたはずだ。同時に、ユウキも部屋中にエネルギーを振り撒くことができた。 殺すつもりであれば、もっと苛烈な戦いになっていただろう。決着も一瞬だったかもしれない。 「嬉しい言葉だな」 ライズが笑う。 「少しは本気を引き出せたみたいだしな」 そう言うライズの目は、どこか挑戦的だった。 「手を抜いていたわけじゃあないけど……」 最初から手加減していたわけではない。確かに、全力だったとは言えないが、それは致命傷を与えるような攻撃を繰り出さなかったというだけの話だ。 むしろ、ユウキの方がライズに聞きたいぐらいだった。 何故、そこまでの気迫を纏えるのだろう。 「次は俺とやろうぜ」 ヒサメはライズと戦いたくて仕方がないようだった。 「まぁ、それも悪くないな」 ライズも満更ではないようで、あっさりと応じていた。 「あ、部屋の傷は……」 戦いの痕を見て、ユウキは思い出したようにダスクを見た。 「気にする必要はないよ、うちの者が直せるから」 部屋を修理することのできるアウェイカーが財団の中にはいるらしい。ダスクの言葉に、ユウキは安心した。元々、ユウキは部屋に傷を付けるつもりはなかった。もっとも、部屋に傷を付けたのはライズが主だが。 「じゃあ、心おきなくやれるってわけだな」 「だからって部屋を破壊していいわけじゃあないぞ」 嬉しそうに告げるヒサメに、リョウが冷やかに返す。 こっちに移住してから、アウェイカーであることは隠しておかなければならない。ヒサメもリョウも日々の鍛錬は続けているようだが、道場にいた頃と違って対人試合ができないのが悩みの種だったようだ。 体を鍛え、生身で組手をすることはできても、二人はアウェイカーだ。自分の力を活かした試合ができないことがフラストレーションになっていたのは間違い ない。ユニオンという、アウェイカーであることを隠さずにいられる場所が出身地なせいだろう。メタアーツを用いての組手が二人にとっては当たり前だったの だから。 久々にメタアーツを使って試合ができる。そして、今まで戦ったことのないライズというアウェイカーが相手であるということもヒサメを喜ばせているのは間違いない。 嬉々として身構えるヒサメと、それに応じるライズを見つめながら、ユウキは部屋の端に腰を下ろした。 「楽しそうね、あの二人」 近くに立っていたマーガレットが、ぽつりと呟いた。 二人、というのはヒサメとリョウのことだ。 戦うことが苦手なマーガレットには、不思議なのかもしれない。彼女の力も戦闘には不向きだ。 「……少し、羨ましいけどね」 己を鍛えるということに懸命になれる二人が、ユウキには羨ましかった。 炎と冷気、重力と衝撃波が部屋の中を駆け巡る。 ほぼ互角の戦いを繰り広げるヒサメは、終始笑みを浮かべていた。 「そろそろ代わってくれないか?」 暫く戦いを見つめていたリョウが、耐え切れずに口を挟んだ。 「ああ、悪い悪い」 その言葉に、ヒサメが構えを解く。 「んじゃ次は君か」 ヒサメと場所を交代するリョウを見て、ライズは構え直す。 「連戦になってすまないな」 両手に短い木刀を構え、リョウが謝る。 休みなしで試合をしているライズは疲労が溜まっているはずだ。 「でも、やりたいんだろ?」 リョウの心境を見透かして、ライズが笑う。 「ああ」 一つ頷いて、リョウが駆け出した。 ライズはそれに応じて、再び試合が始まる。 「よくやるねぇ」 ユウキの隣に腰を下ろして、レェンが感心したように呟いた。 その言葉は誰に向けたものだったのだろう。リョウか、ヒサメか、ライズか、あるいは三人ともなのか。 部屋の中を風が吹き荒れ、雷が駆け巡る。重力と衝撃波がそれに応じる。 ライズと戦って、彼の気迫を肌で感じて、思い出した。 「……少しは、前に進めたのかな」 小さく、ユウキは呟いた。 今、ジンと戦うことができたら、少しは認めてくれるだろうか。 踊るような戦いを続けるライズとリョウを見つめながら、ユウキは溜め息をついた。 自分の意思で歩き出せているだろうか。少なくとも、ユウキが選んだ答えは自分一人で出したものだ。ダスクの要請があれば協力する。 それが戦力として、であろうことは明白だ。いくらダスクが元特殊部隊長で、財団の者たちがその時の部下だったとしても、ユウキたちの力は絶大なものだ。特に、アウェイカーという存在に対してユウキの力は圧倒的な優位性を誇る。 力場を破壊する力を駆使すれば倒せないアウェイカーは理論上、存在しない。それがユウキの持つ力であり、父から受け継いだ力でもある。 ファントムがアウェイカーであるなら、ユウキは切り札になり得る。 「さすがに、連戦は疲れるな」 試合を終え、執務室に戻ったところでライズが苦笑した。 結局、三人の決着はつかなかった。見たところ互角というところか。 「またやろうぜ」 「都合が合えばな」 ヒサメにそう答え、ライズはソファに座り込んだ。 「ユウキの他にこれほど張り合いのある相手がいるとはな」 リョウはライズを高く評価しているようだった。 実際にライズの戦闘能力はかなりのものだ。ユニオンでも屈指の実力者であるヒサメとリョウに引けを取らないライズの実力は相当なものだ。ユニオンにいれば間違いなく第零級に認定されていただろう。 「どうにか互角って程度だけどな」 ライズ自身はヒサメとリョウの方が上だと認識しているようだ。 「けど、いい勉強になったよ。俺は財団の人か、両親からしか手解きを受けてなかったからな」 ユニオンの外では、アウェイカーであることを公にはし辛い。ダスクやリゼが偽名を使っているぐらいだ。ライズも自分がアウェイカーであることを知られるわけにはいかない。 となれば、彼をアウェイカーだと知る者の前でしか力を使えないのは当然だ。必然的に、ダスクとリゼ、あるいは二人の部下であるアウェイカーがライズの面倒を見ることになる。アウェイカーとしての知識や力の使い方といったものはすべて彼らに教わったのだろう。 財団のメンバーとして暮らしているところを見ると、実戦経験もいくらかあるのかもしれないが。 「ともあれ、君たちの実力はこの目で見ることができた。礼を言わせてもらうよ」 ダスクが感謝の意を表す。 「君たちに頼みたいことがあれば、こちらから連絡しよう。協力を申し出てくれた者たちには……」 ダスクが言いかけた時だった。 何の前触れもなく。 突然、大地が、揺れた。 世界が揺らぐかのような、強烈な揺れだった。 そして、窓の外で。 蒼い光が、遠くで立ち上るのが見えた。 静まり返った部屋の中、ドアが開き、財団に所属しているであろう男が血相を変えて飛び込んできた。 「大変です!」 「何が起きた!」 ダスクの声に、青ざめた表情で男が告げる。 「たった今、首都が、消滅しました……!」 その場の空気が凍り付いた。 アメリカ合衆国の首都、ワシントンD.C.が蒼い光に飲み込まれて消滅した、と。 信じられない言葉だった。だが、誰もが嘘だとは思えなかった。 「あなた!」 沈黙する部屋の中へ、リゼが携帯端末を手に駆け込んできた。 「これを!」 携帯端末が映し出していたのは、ニュース映像のようだった。 いや、ニュース映像だったもの、だ。 そこに映し出されていたのは、綺麗に抉り取られてクレーターのようになった大地だった。何者かの声だけが、回線に割り込むように聞こえてくる。 「……もう一度言う」 静かな、沈んだ声音だった。 「俺は、世界を、滅ぼす」 男の声だ。 ユウキには、聞き覚えがあった。 忘れるはずもない。 「父、さん……!」 ユウキの言葉に、誰もが絶句していた。 |
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