第二章 「無機質な敵意へ」


 朝、夜が明けたばかりの時間帯に、警報が鳴り響いた。
 ユウキはベッドから飛び起きていた。カーテンから差し込む光には目もくれず、着替えていく。
「空襲警報を発令! 国民は近くの家屋、避難場所へ速やかに避難するように!」
 国の各地に取り付けられた非常用のスピーカーから鳴り響く警報の後に、父ヒカルの声が響き渡る。
「第二級以上のアウェイカーは応戦し、被害を極力抑えて速やかに撃破せよ!」
 ヒカルの言葉が終わる頃には、ユウキは普段着に着替えて家から飛び出していた。
 周りには、人の気配はない。みんな、家の中でじっとしているはずだ。
 鋭く目を細めて、遠くの空を見上げる。僅かな点が、数多く迫ってくるのが見える。
 航空部隊だ。
 アウェイカーの存在を良しとしない者は少なくない。国単位で存在を認めないところもある。そんな国たちの連合が、この国に空襲を行うのだ。
 爆撃ではなく、機械の殺戮兵器を用いて。
 人間と同じくらいのサイズの機械兵を、何十、何百と投下し、国にいる人間を無差別に狙う。
 それが、この国で言う空襲だ。
「ユウキ!」
 隣の家からハルカが飛び出してくるのが見えた。
「解ってる。いつも通り、だろ?」
 ユウキの視界が一瞬だけ、蒼と銀に染まる。瞳の色が変わり、保護領域が展開される。
 ハルカも瞳を黄色に変えていた。
 大きく地面を蹴って、ユウキは向かいの家の屋根へと飛んだ。着地して周囲を見回し、軽く助走をつけてもう一度飛ぶ。やや高い場所から周囲を見回し、人の気配を探る。
 家屋の外に人の気配はほとんどない。感じられる気配は力強いものばかりだ。
 みな、ユウキのように応戦することのできるアウェイカーだった。
 アウェイカーには、等級が設定されている。
 第四級から第零級、その上に特級と呼ばれる等級がある。第四級は覚醒したばかりの者で、アウェイカーとしての力をほとんど使うことが許されない不自由な等級だ。この国の政府が行っている試験をクリアして第三級に認定されることで、自分の意思で力の行使が許される。第二級からは、力の大きさや可能なことの範囲によって、様々な場面で政府から協力を求められる場合が出てくる。
 第一級、第零級について違うのは、力の重要度と非常時の立場だ。等級が高いほど、メタアーツは強大、もしくは応用の幅が広い高度なものとなり、空襲などの非常時には応戦のための主戦力となっていく。認定の条件も厳しくなり、人間性や精神力、メタアーツに関する知識に優れた者が選ばれている。
 第零級は飛び抜けて高い力を持った者が認定され、数は極めて少ない。
 また、特級と呼ばれるアウェイカーは特別で、力の使用が極端に制限される。これは、力が強過ぎる、政治的に問題があるといった理由で力を使用することを自粛せねばならない者たちだ。該当するのは、英雄であるヒカル、セルファと、シュウ、そしてかつてレジスタンスで四天王と呼ばれた中核メンバー四人だけだ。
 前の大戦で活躍したアウェイカーが力を振るえば、世界のパワーバランスは簡単に崩される。空襲を防ぐことも簡単だが、無事に済むのは特級に名を連ねる者とその関係者ぐらいだ。
 ヒカルは今や、アウェイカーという存在の代表なのである。ヒカルがアウェイカーとして力を使い、何かと闘うことは、全世界にいるアウェイカーの意思とみなされる。たとえ国を守るためでも、ヒカルたちが戦うことはアウェイカー全てが世界に反逆したと言われることになってしまう。
 だから、彼らは戦えない。
 だから、この国に住まう者たちが戦う。
 轟音と共に、雷が空を突き抜けた。空を駆ける眩い閃光がいくつもの航空機を貫く。別の場所では火柱が立ち上り、航空機がいくつも呑み込まれて消えた。
「始まった……!」
 ユウキは呟いた。
 雷はリョウ、炎はヒサメの持つメタアーツだ。二人とも、第零級のアウェイカーだ。その二人と張り合えるユウキも、第零級に認定されている。
 ユウキのメタアーツは、純粋なエネルギーを操る単純なものだ。だが、扱えるエネルギーは莫大だ。通常、メタアーツは力場の内部にしか能力を発揮できない。しかし、ユウキのメタアーツは力場の周囲にエネルギーが付帯するという特殊な形態をとる。
 通常、力場はアウェイカーの力を操ると同時に、自らの精神力で扱えるように抑え込む働きがある。精神力が鍛えられていれば扱える力の量は増えていくものだが、ユウキのタイプは少し違う。力場の周囲に力が付帯する場合、抑え込む必要はない。
 つまり、扱える力の量に制限はないのだ。
 とは言え、無制限に力が使えるわけではない。力場の展開には精神力を消費する。精神力は大元を辿れば生命力なのだから、度を超えた力の使い過ぎは寿命を縮める。精神力は生命力から供給されているため、精神力が回復する速度よりも消費の方が上回ってしまった場合、寿命を消費して力を発動することになる。バーストと呼ばれる現象だ。
 莫大な力を発揮できる代わりに、命を大きく削る諸刃の剣でもある。
 もちろん、ユウキはバーストした経験などないが。
「ユウキ、上!」
 ハルカの声に、ユウキははっとして真上を見上げた。
「ステルスか!」
 熱光学迷彩処理が施された輸送機の下部ハッチが開き、中から人型の機械兵士が投下される。
 大きく手を上へ振り上げて、ユウキは上空を見据えた。自分の手から上空へと延びる光を意識して、思いを込める。
 掌から迸った蒼い閃光が空を突き抜け、輸送機を貫いた。一瞬の間を置いて、輸送機の機関部が爆発し、投下途中の人型機械を巻き込んで爆発していく。
 ユウキは屋根を軽く蹴って空中へと身を躍らせた。足元でエネルギーを炸裂させ、その反動で空へと舞い上がる。空気を蹴るようにして宙を舞いながら、ユウキは両手を人型の兵器へと向ける。
 いくつもの閃光を放ち、兵器たちが着地する前に撃破していく。
 兵器の戦闘プログラムが起動するよりも早く、一機でも多くの敵を撃破しなければならない。
 ユウキの戦いは、敵を倒すことではない。人の命を守ることなのだから。
「ハルカ! こっちはもういいから避難所へ!」
 空中から視線を向けることもなく、ユウキは叫ぶように言った。
「解ってる、先に行くわよ!」
 冷静な声が返る。
 ユウキは身体を水平に回転させながら両手から閃光を放った。鞭のようにエネルギーをしならせて周囲に振るい、同じ高度にいる兵器の多くを一度に巻き込んで破壊する。
 ユウキが着地したのは、自宅の前を通る道路だった。付近の機械兵士たちは空中にいる間に全て撃破したが、遠くの地域の敵までは排除し切れていない。
 足に力を込めて、ユウキは駈け出した。
 地域ごとに第二級以上のアウェイカーは必ず一人存在している。この国のアウェイカーの人口の多さの表れだ。
 それでも、殲滅力が同じという訳ではない。だから、自分の地域の防衛に成功したアウェイカーは隣接する地域へ救援に向かう。
 リョウやヒサメは先制攻撃で敵の数を減らしたが、あの二人だからこそできる芸当でもある。自分の地域にユウキがいることを見越して、遊撃しているのだ。
 特に、リョウのメタアーツは攻撃だけでなく移動能力にも優れている。
「ここは降りて来てるのか……!」
 隣の地区に辿り着いたユウキは舌打ちした。
 道路に何機もの人型機械が立っている。銃火器の腕を解放し、生命反応を探して頭部のカメラを回していた。
 ユウキの存在を認めた兵器が銃口を向けてくる。ユウキは射線から逃れるように右へと身を投げ出した。地を蹴ると同時に腕を伸ばし、閃光を放つ。
 道路を蒼い閃光が駆け抜け、いくつもの機械を貫いた。
 機能を停止して動きを止めるもの、爆発するもの、当たり所によって反応は様々だ。受け身を取って起き上がると同時にユウキは駈け出した。
 空中にいる間に全ての兵器を破壊するのは難しい。幼い頃から力の使い方を教わっているユウキやリョウ、ヒサメだからできることだ。アウェイカー全てがユウキやリョウたちのようには行かない。
 ユウキは意識と感覚を研ぎ澄ませて道路を駆け抜けた。
 周囲への警戒は怠らない。
「お兄ちゃん、聞こえる?」
「シーナ?」
 耳元で、シーナの声が聞こえた。ユウキは足を止めずに返事をしていた。
 妹の持つ力がどんなものかは知っている。
 空間そのものに干渉し、任意の現象を引き起こす。それがシーナの持つ力だ。離れた相手に声を飛ばすことも、力が及ぶ範囲であれば彼女ならできる。
「今ので、そこは全部……」
「解った、先を急ぐ!」
 シーナの言葉に、ユウキは足に力を込めた。
 今、シーナはとてつもなく広い範囲に力を向けている。周囲の空間に干渉するということは、その範囲を把握しなければならないのだから。
 周囲の状況を、シーナは自分の持つ力で読み取り、教えてくれたのだ。
 機械の兵器は人間ではない。
 道場でジンと特訓するのとはわけが違う。殺気は、人間などの生物が持つものだ。無機質な機械の存在感はとてつもなく薄い。どれだけ人を殺すようにプログラムされていても、そこに思いが乗ることはない。思いそのものがない存在こそ、機械なのだから。
 だから、シーナの力は頼りになる。
 細心の注意を払って機械兵機を探すという手間が省けるから。
「避難所の方は?」
 ユウキはシーナへ言葉を投げる。
 能力自体は強力だが、シーナは第三級のアウェイカーだ。これは、第二級アウェイカーと認定される条件の中に年齢制限があるためだ。十五歳以上の者でなければ、第二級アウェイカーとは認められない。
 緊急事態に応戦を依頼される第二級アウェイカーには、責任も付きまとう。住民の命を守るという責任を負うために年齢制限を設けているのだ。精神的にもある程度、成長している者でなければならない。
 だから、シーナは、家の中から周りを把握し、ユウキに言葉を送っているのだ。
「ハルカさんが守ってる……まだ、大丈夫みたいだけど……」
 シーナの声を聞いて、ユウキは少し安心した。
 この地区には機械兵が投下され終わっていた。迎撃できなかったところを見ると、この地区にいるアウェイカーは別の場所で戦っているということだろう。もしくは、この付近に機械兵が落下していたことに気付かなかったか。
 ユウキは上体を前に深く倒して、強く地面を蹴った。道路が砕けない程度に加減しつつ、一気に加速する。
 寝起きでぼさぼさの髪と、服の裾がはためく。
 風を切り裂くように駆け抜け、避難所となっている学校へとまっすぐ向かった。
 校舎が見えた瞬間、ユウキは地面を蹴る角度を僅かに変えた。大きく跳躍して、柵を飛び越えて校庭へ。
 銃声が絶え間なく響いていた。
 外出していた者たちが校庭の中心に集まり、何人かのアウェイカーが数歩分だけ前に出て、彼らを守るように身構えている。守られている者たちは、学校の部活で朝練をしていた生徒がほとんどだ。中には、ランニングシャツ姿の男性もいる。丁度、この付近をジョギングしていたのかもしれない。
 機械兵に包囲されている中で、戦っている者は一人もいなかった。
 一人、ハルカだけが突出して前に立っている。彼女は右手を前に突き出して、まるで機械兵の攻撃をすべて受け止めているかのようだった。それでいて、周り全てに気を配っている。
 周囲から飛んでくるあらゆる攻撃が、方向を逸らされていた。
 機械兵の腕と一体化したマシンガンの連射や、グレネードランチャーの弾が、ハルカの目の前で向きを変える。真上に打ち上げられたグレネード弾が、向きを逸らされたマシンガンの弾に貫かれて爆発する。
 ハルカには、物理的に相手を破壊するような強い力は無い。敵を素早く殲滅することで住民たちを守るという力を、彼女は持ち合わせてはいなかった。
 しかし、ハルカの能力は強力な盾にも成りうる力だ。
 彼女のメタアーツは空間を歪曲させる。対象に物理干渉こそできないものの、ハルカはあらゆる物理的な接触を逸らすことができる。物理的な攻撃しかできない機械兵に対する盾としては、完璧な力だ。
 危険な爆発物は上空へ打ち上げ、他の弾丸を逸らして命中させ、処理している。爆発の影響も、全てハルカが遮断しているため、背後の住人たちに被害はない。
 戦っているアウェイカーがいないのも、ハルカの空間歪曲による盾を邪魔しないようにしているのだ。もしかしたら、ハルカが指示したことかもしれないが。
「ユウキ先輩だ!」
 誰かが、柵を飛び越えて乗り込んできたユウキを見て口にした。
 視線が集まる。思わず顔を顰めそうになったが、堪えて無視した。
 ユウキは右手を大きく上空へと掲げ、蒼い光を帯びたエネルギーの塊を空へばら撒いた。落下している間に、機械兵の真上へとエネルギー体を移動させ、着地と同時に、全てを一気に地面へ叩き付ける。
 蒼い光が機械兵を飲み込んで、爆発すらさせずに消し去った。
「怪我人は……いないか……」
 周りを見回して、ユウキは確認するかのように呟いた。
 歓声に近い周りの人たちの反応から顔を背けつつ、ため息をつく。
「お兄ちゃん、隣の避難所が危ないかもしれない……」
「隣? 押されてるのか?」
 耳元で聞こえた妹の声に、ユウキは辺りを見回しながら問いを投げた。
「解った、すぐ行く。ハルカ!」
 顔を上げて、次に向かうべき場所へと顔を向ける。
「隣、ね?」
 声はハルカにも聞こえていたらしい。ユウキの言葉にハルカはすぐ反応してくれた。
 その場の者たちの会話に耳を傾ける暇はない。
 ハルカは自分の目の前の空間を歪めると、その中へと飛び込んだ。ユウキも一瞬遅れて足を踏み入れる。たった一歩の距離で数百メートルの距離を移動し、避難所にもなっている公園へと辿り着いていた。
 隣の避難所までの距離を、ハルカが圧縮したのだ。
 聞こえてくる銃声に、ユウキは駈け出していた。
 公園の中へ飛び込んで、周囲へ視線を走らせる。
 中央に見える噴水の前に人が集まっていた。追い詰められているのだと、すぐに判った。アウェイカーが応戦してはいるが、避難している者たちを攻撃から守るので精一杯の様子だった。攻撃を防ぐことしかできていない。
 ただ、少し離れた場所に二つ、別の人影が見えた。
 一人は、マーガレットだった。もう一人は、マーガレットに庇われるように抱き締められている女の子だ。
 ユウキが危ないと思った瞬間、彼女たちの背後に、一機の機械兵が着地していた。周りに展開している機械兵のいくつかが反応し、二人に腕の銃口を向ける。
 背筋を、ひんやりした何かが滑る。
 ユウキが足に力を込めた瞬間、すぐ目の前の空間が歪んだ。
「早く助けてきなさい!」
 ハルカの声に後押しされるように、ユウキは捻じ曲げられた空間を跳び越えていた。
 マーガレットの背後に一瞬で移動し、右腕を内から外へと薙ぎ払う。
 蒼い光が、ユウキの向いている百八十度の範囲を閃いた。マーガレットを囲んでいた機械兵の全てを薙ぎ払い、破壊する。
「シーナちゃんのお兄さん……!」
 マーガレットの背中越しに、こちらを見ていた女の子が目を丸くして呟いた。
 振り返ってみれば、その女の子はシーナの友達だった。昨日も食事中に名前が出た、ウルナ・クラニアムだ。
「……ユウキ君?」
 女の子の言葉に、マーガレットははっとしたように振り返った。
「二人とも、怪我は……!」
「私は大丈夫だけど……」
 ユウキの言葉に、マーガレットは僅かに視線を伏せた。
「わ、私も足を挫いただけだから……」
 慌てたようにウルナが呟く。
「捻挫ね、これ」
 いつの間に移動したのか、マーガレットの隣にハルカがいた。身を屈めて、ウルナの足に触れている。確かに、少し離れたユウキの位置からも腫れているのが判別できた。
「ユウキ、とりあえず周りの敵を頼むわ」
「解った」
 ハルカはユウキの方へ目を向けることもせずに言った。
 まずは、この場の安全を確保しなければならない。攻撃能力のないハルカには、機械兵の殲滅はできない。だから、今、ここにいる敵を排除するのはユウキの役目だ。
 ユウキは二人をハルカに任せて、噴水の前で抵抗をしているアウェイカーの方へと駈け出した。
 自分の周囲に光弾を作り出し、前方へと解き放つ。蒼い光が宙を突き抜け、噴水を包囲している機械兵のいくつかを貫いた。
 遅れて噴水の前に飛び出したユウキは左手を水平に振るい、蒼い光の壁を作り出す。放たれた銃弾の全てが高エネルギーの蒼い壁で阻まれ、掻き消される。
「ユウキ……!」
 戦っていたアウェイカー、トーカスが驚いたように呟いた。
 ユウキはトーカスを一瞥して、直ぐに、噴水の反対側から回り込んでくる機械兵たちへ振りかえった。左右から回り込んでくる機械兵へと両手を伸ばす。左右に開くように向けた両手から、蒼い閃光を放った。
 光は、途中で分裂し、幾筋もの細い光線となって、それぞれが別の機械兵へと向かっていく。中枢部分を蒼い閃光が貫いて、全ての機械兵たちが沈黙する。
 噴水の前に避難していた人々が安堵の息を漏らす。
 ユウキは背後で立ち尽くすトーカスに目を向けた。どこか悔しそうに目を伏せているトーカスに何も言わず、ユウキはマーガレットたちの方へと走り出した。
 ユウキやリョウ、ヒサメたちはいとも簡単に機械兵を倒しているが、アウェイカー全てが同じように戦えるわけではない。個々の能力差もあれば、戦い方も、できる応用範囲も違う。今まで住民を守っていたのは確かにトーカスだが、ユウキはそのトーカス自身をも守るほどの力を見せた。
 人を守って戦っていたアウェイカーとしては、悔しいのだろう。
 だが、ユウキには彼にかけてやれる言葉はない。全てのアウェイカーが機械兵を簡単に倒せるわけではないのだから、比較的容易に倒せる者が出来る限りの機械兵を倒さねばならない。そうしなければ、死傷者が出る。
「終わったみたいね」
 ユウキを見て、ハルカが呟いた。
 ハルカの足元では、ナツミとアキナがウルナの足を診ている。恐らく、ハルカが呼んだのだろう。空間を捻じ曲げて、ここまでの距離を縮めたに違いない。
「すぐ治せそうか?」
「そこまで重症ってわけでもないみたい」
「私たちなら簡単だよ」
 ユウキの問いに、双子が顔を上げて明るく答えた。
「じゃあ」
「やろっか」
 お互いの顔を見て、ナツミの右手とアキナの左手が絡み合う。その瞳の色が変わり、ナツミが赤、アキナが青の淡い光が身体を包む。
 二人は空いている方の手を、ウルナが捻挫した患部へとかざした。
 ナツミも、アキナも、アウェイカーだ。ただ、普通のアウェイカーとは少しだけ違う部分がある。
 二人は、一般的な力しか持っていなかった。単純なエネルギーを操るというだけの、一番ポピュラーな能力だ。ユウキのような、力場の周囲に力が付帯するわけでもない。個人の能力としては、特殊性の全くない力だった。
 しかし、ナツミとアキナが二人揃った時、特殊なメタアーツが使えたのだ。互いの力場を混ぜ合わせることで、二人が持っていた力とは全く異なるメタアーツとなった。
 精神力を生命力に還元し、他者へと流し込む、即ち、治癒能力に。
 力場で生じさせたエネルギーで、破損した肉体組織や血液を補うことができる。同時に、エネルギーを付帯させることで生命維持に最高の環境を作り出し、自然回復力を極限まで高める。
 傷を癒すという、稀有な能力を、二人は亡き母親から受け継いでいた。
「目、閉じてた方がいいかもしれないぞ……」
 ユウキは、ウルナに向けて囁いた。
 赤と青の光が混ざり合い、紫を通り越して目に痛いきつい色合いに変化する。その光が患部に纏わりつく光景は、見ていてもあまり気持ちが良いとは言い難い。治癒能力自体は心地良いものなのだが、視覚的には少々不気味なものだ。
 あまりに不気味な色合いに、ウルナは目を閉じていた。
「はいっ!」
「おしまーい!」
 さほど時間はかからずに治療は終わった。
 ナツミとアキナは絡ませていた手を離して力を解除した。
「どう? 大丈夫?」
 心配そうなマーガレットの問いに、ウルナは捻挫していた足に目を向ける。
「あ……うん、痛くないよ」
 腫れは完全に引いていた。足を軽く動かしてみて、全く痛みがないことに目を丸くしている。
「お兄ちゃん、聞こえる?」
「ああ、聞いてるよ」
 シーナの声に、ユウキは答えた。
「終わったみたい」
 妹の言葉が聞こえるのと同時に、各地の非常用スピーカーから警報解除を知らせる音が流れた。
「現時刻をもって、空襲警報を解除します。対処に協力頂いたアウェイカーの皆さんに感謝致します」
 朝のような慌ただしさや緊迫感の抜けた、落ち着いたヒカルの声が聞こえてくる。
 避難していた人々が安堵に胸を撫で下ろす。
 ユウキも小さく息を吐いた。
「朝ごはん、できてるよ」
「解った、すぐ帰るよ」
 妹の声に空へと微笑んで、ユウキは言った。

 空襲があった日は大抵の場合、一日の予定に変更がある。空襲の対処にかかった時間の分だけ、日程がずれると言うべきだろうか。
 朝に空襲があったのなら、出社時刻や、登校時間などがずれる場合が多い。
 この日も、学校の始業時間が三十分ほど遅れることになった。
「じゃあ、行ってきます」
 靴を履いて、ユウキはシーナと共に玄関のドアを開けて家の中へと振り返る。
「行ってらっしゃい」
 優しく微笑む母の声を聞きながら、ユウキは外へ出た。
 朝食に父の姿は無かった。空襲の事後処理関係をしなければならないのだろう、家に戻るとしてももう少し経ってから、というところか。
「あ、ユー君たちも今から行くんだ?」
 ナツミの声に振り返ると、ハルカたち姉妹も揃って家を出たところだった。
 特に何を言わないでも、五人で道路を歩く形になっていた。
「今朝は、ありがとうございました」
「え? 何が?」
 シーナの言葉に、アキナは首を傾げる。
「ウルナちゃんの怪我、治して貰ったから……」
「いいのいいの、気にしない気にしない」
 今度はナツミが明るく笑って答えた。
 その場にシーナがいれば、彼女自身の手で治療することもできた。シーナの持つ、空間に干渉するというメタアーツは他のアウェイカーが持つ力の再現が可能だ。しかし、シーナは第三級のアウェイカーだ。空襲時は原則的に、避難していなければならない。
 負傷者の手当てが可能なナツミとアキナの双子も、第二級アウェイカーに認定されている。力の特性から、普段はハルカの援護や避難者の護衛をすることが多い。しかし、負傷者が出た場合は、治療を優先する。その場で怪我を治療できる力を持ったアウェイカーはそう多くはない。
 だから、ナツミとアキナが怪我人の手当てを行うのは当然の流れとも言える。
「いつものことだし、私たちができることだから」
 双子の姉妹がお互いに顔を見合わせてからシーナに微笑む。
 シーナも小さく笑みを返していた。
 ただ、シーナの表情はどこか申し訳なさそうでもある。何となく、ユウキにはそう見えた。
 恐らく、シーナはもどかしいのだろう。彼女には、十分に人の命を守れるだけの力がある。空間に干渉する力で、敵への攻撃も、防御もできる。きっと、十五歳になれば第二級ではなく、第一級か、もしくは第零級のアウェイカーとして認定されるだろう。ユウキの目から見ても、シーナの力は強大なものだ。
 しかし、今はその力で戦場に干渉することは許されていない。シーナには、周りを見ることしか許されてはいない。いや、周りの様子を知ることができるからこそ、シーナにはもどかしく思えるのだろう。周りの様子を知っていて、戦いたくても手を出せない。
 助けたい人がいても、救うための手を差し伸べることが許されない。
「ユウキ、どうかしたの?」
 シーナを見るユウキの視線に気付いたのか、ハルカが小さく囁いた。
「いや、何だろうな……口では何て言えばいいか解らないや」
 ユウキは苦笑した。
 恐らく、シーナも戦いたいわけではないだろう。ただ、自分の持っている力で何かできるはずなのに、手出しできないことに不満感を抱いているのは確かだ。
 年齢による制限は、あっても良いと思う。まだ色んな面で精神的に未発達な低年齢の子供が強大な力を振るうのは危険だ。
 メタアーツは精神と密接に結び付いた力だ。故に、アウェイカーとして覚醒するのは精神的な成長期でもある十代が多い。それでも例外はある。
 ユウキはナツミたちと言葉を交わすシーナに視線を向けた。
 空襲の後は、いつもシーナはどこか寂しげな表情を覗かせる。あまり表には見せないように、気付かせないようにと、抑え込んでいるのが一緒に暮らしているユウキには何となく解る。
「それじゃあ、私はここで……」
 小学校(エレメンタリー・スクール)に通うシーナは、途中で別れることになる。
「うん、またねー」
 ナツミとアキナが笑顔で手を振り、シーナはそれに応えて手を振りながら脇道へと逸れて行った。
 別れ道を過ぎると、そう時間もかからないうちにユウキたちも学校に辿り着く。
「ユウキ先輩とハルカ先輩だ……」
 校庭で朝の部活をしている者たちの声が微かに聞こえてくる。
 空襲があった朝は、どうしても注目されてしまう。ユウキが戦う姿を見る者が多いからだが、同時に、ユウキたちが戦うことで守られた者もいるからだ。
 それでも、ユウキにはあまり居心地の良い状態とは言えない。
「いい加減、慣れなさいよ」
「無茶言うなよ、解ってるクセに……」
 ハルカの軽口に、ユウキは溜め息をついた。
 胸を張ればいいのだろうか。しかし、そんな気分にはなれない。
 自分が強大な力を持っていることは自覚している。それで誰かの命を救い、守れていることも事実だ。
 ハルカは苦笑に近い溜め息をついて、ユウキを見ていた。ハルカもユウキとは幼い頃からの付き合いだ。ユウキのことは良く知っている。
「それじゃあね」
「ああ」
 生徒昇降口でユウキはハルカたちと別れた。
 教室に入ると、微かに視線を感じる。そこまで露骨ではないが、注目されていた。
 できるだけ気にしないよう心がけてユウキは自分の席に着いた。
 レェンはまだ来ていないらしく、話し相手がいないユウキは頬杖をついて窓から空を眺めていた。
「あ、あの……」
 不意に、声がかけられた。首を捻って相手を確認すると、マーガレットが立っていた。
「朝は、助けてくれて、ありがとう……」
 マーガレットが言った。
 そういえば、ユウキはマーガレットたちがいた公園の敵を殲滅したら直ぐに帰ったのだ。二人を助けて、ウルナの怪我が治療されたところで引き上げていた。
「ああ、気にしないで。いつものことだから」
 ユウキは苦笑した。
 空襲があれば、ユウキは応戦する。戦うことで注目を浴びるのは嫌だが、人が死ぬのはもっと嫌だった。自分の力で助けられるかもしれない命を、ただ目立ちたくないからという理由で見殺しにはできない。
 何より、今の生活を壊したくない。直接の繋がりがなくとも、身近な場所で誰かが命を落とせば、それだけでも今の生活は崩れてしまうかもしれない。
 ユウキが戦うのはいつものことだ。父の創った国を守りたいだとか、英雄の息子だからとか、そんなたいそうな思いがある訳でもない。
「それでも、ありがとう」
 マーガレットが柔らかく微笑む。
 赤みがかった栗色の髪がそよ風に揺れた。
「ん……」
 ユウキはまた苦笑を返す。
 律儀だな、と思いながら、彼女の表情に微かな寂しさのようなものを見たような気がした。自然な素振りで自分の席の方へと戻っていくマーガレットを途中まで目で追って、ユウキは小さく溜め息をついた。
 視線を空に戻す。
「聞いたよ、メグ。今朝ユウキ君に助けらて貰ったんだって?」
「いいなぁー、私も助けて貰いたかったなぁ」
 マーガレットの方から、小さな話し声が聞こえてくる。
 メグ、というのはマーガレットの愛称だ。仲の良い女子たちはマーガレットをメグと呼んでいた。
「あんただって助けて貰ったことあるでしょ?」
「でも、個別に守って貰ったことはないもん」
 マーガレットの周りで女子同士が喋っている。マーガレットは話を振られた時だけ返事をして、後は会話をただ聞いているだけだった。
 以前は、ユウキに助けて貰ったと言って近付いてくる女子が多かった。民衆の中に紛れて、ユウキ自身、その女子がいたことにすら気付いていないような状況を接点にして。ユウキに近付くために嘘をついていた者もいたかもしれないが。
「うーす、ユーキぃ」
 ユウキが溜め息をついたところで、寝起きのような表情のレェンが目の前の席に座った。
「遅かったな? 時間ギリギリじゃん」
 レェンが椅子に腰を下ろした直後、予鈴が鳴った。
「ほら、空襲あったじゃん?」
「そっか、レェンも戦ったんだ?」
 大きく溜め息をつくレェンを見て、ユウキは納得した。
 レェンも第二級アウェイカーに認定されている。状況によっては第一級並の力を発揮できるが、多くのアウェイカーと違ってレェンのメタアーツは特殊なものだった。彼のメタアーツは、振るう力の大きさが安定していないのだ。場合によっては、全く戦えない時もある。
「いや、今日はただ寝過ごした」
「何だよ、疲れたんじゃなくてただ眠いだけかよ」
 真顔で否定したレェンに、ユウキは苦笑した。
「登校時間がズレた分寝てたらさ、起きるの辛くて」
「解らんでもないけど……」
 今度はレェンが苦笑する。
 ユウキは溜め息混じりに小さく笑った。
「それより、また随分と噂されてるな」
 小声で、レェンが囁いた。
「そうだな……」
 ユウキは呆れたように、視線を外へ逸らした。
「メグ、助けたんだって?」
 ここに来るまでにも女子の会話が聞こえていたのだろう、レェンはマーガレットにほんの一瞬だけ視線を向けてから、ユウキを見る。
「少し危なかったけど、成り行きだよ」
 死者は出さないと、父ヒカルに約束した。傍にはハルカもいた。シーナも空間干渉で見ていた。
 助けられない理由も、守らない理由もない。たとえどれだけ疎ましく思える相手でも、目の前で死なれるのは見たくない。もし、その相手が自分の力で救えたとしたら、寝覚めが悪い。
「あいつも、ユーキに惚れたりとかしたりして」
「どうだかなー……」
 レェンの何気ない一言に、ユウキは自分の席で授業の準備を進めるマーガレットに視線を向けていた。
 マーガレットが、他の大勢の女子たちと違う態度で接してくれるのはユウキにとってはありがたいことだ。ごく普通に接してくれる数少ない人物だから。
 もちろん、レェンの言葉は冗談だろう。余りにも非現実的で突飛な発言に聞こえた。
「お前、ユウキに助けられたらしいじゃん?」
 押さえていながら、それでも周りにも聞こえるように、ディーンがトーカスに話しかけていた。
「うるせぇ……」
 挑発してくるディーンへと、トーカスが苛立ちを隠さずに吐き捨てる。
 二人はいつも張り合っていた。良く喧嘩をしてはいるが、それなりに相手を認めてもいるようだ。ただ、何か相手の弱みや揚げ足を取ることができた時は必ずと言っていいほど突っ掛かっている。
 聞いた話では、かなり長い付き合いらしい。
「なぁ、ユウキ、こいつどうだったよ?」
 ディーンはにやにやしながら、ユウキへと声を投げた。
「そこで俺に振るのかよ……」
 ユウキは小声で不満を漏らし、溜め息をついた。
 多くのクラスメイトが密かに聞き耳を立てているのが解る。
「チッ……」
 トーカスの舌打ちが聞こえた。
 比較的、ユウキは孤立した立場にあると言える。女子だけでなく、男子も一目置いているのだ。もっとも、その視線には嫉妬の色が強い。女子や下級生にちやほやされているとか、英雄の息子だとか、あまり良い目で見られることは少ない。
 だからこそ、レェンのように付き合ってくれる友人はユウキにとっては貴重なのだ。
「ま、話が聞こえる限りだとトーカスの落ち度が大きいよな」
 レェンが欠伸をしながら言った。
「なっ……!」
 トーカスの苛立ちは更に増したようだった。
「知っての通り、ユーキはサラブレッドだから置いとくとして、守り損ねそうになったのはそっちの落ち度じゃないんか?」
 レェンは、ただ事実を述べただけ、と言いたげだった。相手を挑発するでもなく、蔑むでもなく、ただそう思ったから口にしたとしか思えない態度だ。
 実際、レェンの言葉は事実以外の何ものでもない。
 ユウキのアウェイカーとしての能力の高さは誰もが認めるところだ。あまり自分で認めたくはないが、ユウキ自身、自分の力がアウェイカーとしての常識を逸脱するほどのポテンシャルを持っていることは自覚している。
 だから、ユウキが戦って数多くの機械兵を破壊するのは当然のことだ。むしろ、ユウキにはできるだけ短時間で、可能な限りの数の敵を排除する責任がある。全てのアウェイカーが、ユウキと同じではないのだから。
 しかし、今回、トーカスには応戦するアウェイカーとしては落ち度があった。守らねばならないはずの住民を、守れなかったのだ。もしもあのままトーカス一人だったなら、マーガレットとウルナは命を落としていたかもしれない。
「調子に乗んなよ、ユウキ……!」
 敵意剥き出しでトーカスが呟く。
 ユウキは少しだけ寂しげに溜め息をついた。憎まれ口や陰口はもう聞き飽きている。どうせ、トーカスにユウキの悩みは理解して貰えないだろう。親の七光りだと思っている者は決して少なくないだろうから。
「逆ギレかよ、みっともねぇ」
 ディーンが笑いながら火に油を注ぐ。
「俺一人でだって十分やれたんだよ!」
 トーカスが机を両手で叩いてディーンを睨む。
「……俺、戦わない方が良かったんかな……」
 ぽつりと、僅かな声でユウキは呟いた。視線を窓の外に向け、頬杖をついて。せいぜい目の前のレェンぐらいにしか届いていないような声だった。
 その直後だ。
 パァン、と良く通る乾いた音が教室に響き渡った。
 反射的に教室内を振り返ったユウキの目に飛び込んできたのは、トーカスの頬を張り飛ばしたマーガレットの姿だった。
「あなたたち、最低っ……!」
 マーガレットは、どこか悲しそうにディーンとトーカスを睨みつけた。いや、睨んだというよりは何かを訴えているような目だった。悔しそうな、辛そうな、それでいて寂しそうな顔で二人を見る。涙が、マーガレットの目に浮かんでいた。
 普段、大人しくて穏やかな彼女の意外な行動に誰もが驚いていた。
「あ……! ご、ごめんなさい……」
 一瞬の間を置いて、マーガレットははっとしたように謝った。
 申し訳なさそうな表情で俯くマーガレットを、ユウキはただ呆然と見つめていた。
「謝る必要なんてないわよ、こいつらはそれぐらいやんなきゃ解りやしないんだからさー」
 近くにいた女子がマーガレットに言う。
 それをきっかけに、周りが普段の騒がしさを取り戻した。ディーンとトーカスは気まずそうに席へ戻り、落ち込んだマーガレットに近くの女子たちが話しかける。
 ユウキは、暫くマーガレットから目を離すことができなかった。
「あー、なんか、帰りたいなー」
 レェンが外を見て呟いた。
「そうだな……」
 ようやく、ユウキはいつも通りに戻れた。
 空襲の朝に、クラスメイトに絡まれることは少なくない。ディーンとトーカスたちに絡まれたのも、これが初めてではなかった。だが、マーガレットが割り込んで来たのは今日が初めてだ。
「あー、曇ってきたよー……」
 心の底から不満そうに、レェンが溜め息をついた。
 見れば、空には雲が増えていた。雨が降る、とまではいかないだろうが、晴れの天気とは呼べない状態になることを予測させる空模様だ。
 日光浴が大好きなレェンは、晴れ以外の天候を嫌う。あからさまにやる気を無くしたり、不機嫌になったりする。
「空襲、かぁ……」
 ユウキは空を見上げて小さく呟いた。
 戦わない方が良いんだろうか。先ほど、呟いた言葉を頭の中で繰り返す。トーカスに任せていれば、絡まれることも無かったかもしれない。できれば、絡んで来ないで欲しい。
 それでも、戦わないという選択肢は選ばないだろう。良く見られようと、悪く見られようと、問題ではないのだから。何か見返りを求めて戦っているわけではない。
 アウェイカーが応戦するのは、この国がこの国であるためだ。
 どれだけ他の国から疎まれていても、アウェイカーにとってここは間違いなく楽園だった。アウェイカーであると胸を張って言えるのはこの国ぐらいだろう。だから、この国が無くなるのはアウェイカーにとっても一大事なのだ。自分の住む場所を守るのは、自然なことだ。
 ユウキだって同じだ。この国には家族と一緒に住んでいる。両親が英雄だろうと、関係ない。ユウキは力のあるアウェイカーとして、これからもここで生きて行くために、国を守る。
 それは、この国に生きる全ての人を守るということでもある。国とは、そこに生きる人々のことなのだから。
「覇気があれば、何か違うんかな……?」
 ジンに言われた言葉を思い出して、ユウキは小さく息を吐いた。
 ユウキに何か明確な意志があったのなら、絡まれた時にも力強く対処できるのだろうか。絡まれるということ自体を無くすことができるのだろうか。
 覇気があれば、この目に映る景色も違って見えるのだろうか。
 ぼんやりと、ユウキはそんなことを考えていた。
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