序章 「続く者たちの影」


 暗闇の中、彼らは集っていた。
「アンスール・ライグナーが死んだ……?」
 衝撃的な事実を突き付けられ、言葉を失った。
「間違いないじゃろう」
 初老の男の声に、返事は無かった。
 アンスール・ライグナー。ラグニードという名の龍を引き連れて、世界そのものに反旗を翻した最初の男の名前だ。彼は政府の追っ手を掻い潜り、目的を達成し、命を落とした。
 世界の基盤の一つを揺るがしながら、生き延びることはできなかったのだ。
「我らは、どうすべきかのぉ……?」
 初老の男は溜め息と悔しさの入り混じった声で呟く。
「決まっている」
 まだ歳若い青年の迷いの無い声が響き渡った。
「あの人の意志を継ぐ」
 当然だとでも言わんばかりの力強さを持った言葉に、沈黙が返る。
「厭なら、それでいい。俺は一人でもあの人の意志を継ぐ」
 今までも、そのために力を求めてきたのだ。彼の背中に追いついて、共に世界と戦えるように。
 彼が死んでしまったのなら、後ろにいる自分が継ぐしかない。いや、継ぎたいのだ。彼を尊敬しているからこそ、その背中に追いついて、果たせなかった目的を完遂させてやりたい。
「異を唱える者などおりゃせんよ」
 初老の男は小さく笑みを含んだ声を返した。
 この場にいる者は皆、何らかの形で彼に恩がある。それを抜きにしても、一人ひとりがこの世界の存在に対して疑問を抱いている。形は違えど、求めるものは一致している。
「次に情報密度が高いのは、アクライル地方だったか」
 新たに男性の声が聞こえた。
「私たちが、行く」
 静かな声が響いた。女性のものだ。感情の起伏の無い、平坦な声音だった。
「ならば、我らは他の地方の情報収集を続けるとしよう」
 初老の男性の声に皆が無言で肯定の意を表した。
「俺たちの手で、世界を解放するんだ」
 青年は呟く。
 アンスールが成し得なかった世界の解放を、彼の意志を継いで実行する。本来はアンスールが一人で行うつもりでいた計画は、この瞬間、彼らに引き継がれた。
「この世界は、異常過ぎる……!」
 解放者(リベレーター)と、自らを呼ぶ者たちによって。
目次     NEXT
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送