終章 「理想完遂のサンライズ」


 ――生物とは、生命とは一体何なのか。答えは未だに出せないが、ひとつだけ分かったことがある。

 一際大きな扉が、目の前で開いてゆく。
 中に入ると、そこには見慣れたあの部屋があった。何本ものケーブルが床を駆け巡り、いくつものスクリーンが部屋の中央で各々の光景を映し出しているあのモニタールームだ。ところどころ増設されたりしているが、あの頃から部屋の雰囲気は変わっていない。
 懐かしさを噛みしめていると、中央のコンソール前からこちらに向かってひとりの青年が歩いて来るのが見えた。
「待っていたよ」
 その青年は白髪だった。ヤマアラシのように尖ったクセっ毛。背は伸びていたが、線の細い体に地味な服装は相変わらずだ。
「直に会うのは久しぶりだな。そっちは相変わらずか、レイ」
「ああ。退屈しない毎日を送っているよ」
 俺が顔を綻ばせると、彼も目元を緩めた。
「それで、話というのは?」
 俺は昔を懐かしみながら尋ねた。

 都市ηでの最終決戦。多くの犠牲者と被害を出したあの忌まわしき戦いから、三年の歳月が過ぎていた。
 俺達が都市ηを脱出した後、竜人族達が都市ηに進攻し、『ズィード』の残党を一掃した。『調停者』達だった。シングの救援要請を受けて、十数人の戦士達 が駆け付けたのだ。人間である俺達がヤツらを撃破したことは大層驚かれた。シングも無事に生還し、後に俺がリーダーである〈グラスパー〉を撃破していたた めに、素早く鎮圧出来たと礼を言われた。
 都市内で起きた惨劇は、局所的な地殻変動で引き起こされた自然災害ということになった。本当の元凶たるメルダ市長は連中によって葬られ、忘却の彼方だ。何も知らぬ者達にはそれが真実でなければならないのだ。
 『ズィード』の存在を知り、かつ生き残った者は『狼の爪』の傭兵達を含め、全てレイの地下組織に身を寄せることになった。そして、レイの地下組織は秘密裏に『調停者』と手を結び、再編成された。
 『ジェイドウォーリアズ』と名付けられたこの軍団は、『ズィード』を根絶するべく現在も活動している。真実を知る者は種族を問わず広く人材を募集し、結成された。戦士は実力ごとに称号を与えられ、最高位の称号である『ジェイドナイト』を中心に結束を固めている。
 俺達もこの軍団で活動しているが、所属は『ワイズマンズネスト』と呼ばれる裏方だ。ここで『ズィード』に関して調べるうちに、様々な事実が明らかになっ てきた。中には竜人族ですら知り得なかった有益な情報も含まれており、それは俺達人間族が手を貸さねば見つけられなかったモノだった。
 例えば、竜人族がヤツらの出現を感知できる理由についてだ。『ズィード』は活動時、特に一定以上の知性を持った生命体を殺害しようとする際、ある特定の 粒子を放出する。これは『Z粒子』と名付けられ、竜人族はこれを感知する器官を備えていたのだ。それを知った我々は、竜人族の器官を参考にレーダーを開発 することに成功。アイスターのどこに顕現しても、素早く探知し戦士を送り込むことが可能になったのだ。
 中でも、とりわけ皆を驚愕させたのは『ズィード』がどうやって、殺した者の記憶を他の者から抹消しているかだった。恐るべきことに、連中はこの惑星全体 を『書き換え可能な支配下』に置いていたのだ。支配空間の中にいる者の記憶を、特定条件を満たした時に隠蔽されるという機能。これは、人間族が造った『エ レメントアブソーバー』の基本システムとほとんど同じ設計思想のプログラムを用いていたということになる。ヤツらの存在を知らずに記憶の忘却から逃れるに は、この惑星から離れるしかないのだ。
 だが、何よりも重大な発見は、物理的な攻撃が全く通用しないということだった。レイの調査報告では、『ズィード』とはこの世界に外部から書き込まれた情 報のような存在であるかららしい。この世界という空間に、自分が『そうである』と認識させることで存在するヤツらのことを、彼は『情報構造体』と呼称する ことにした。
 とはいえ、皆知っての通り、エレメントによる攻撃だけは通用する。エレメントはこの世界本来のルールを自分に都合がいいように変えることで様々な現象を 引き起こす。だから、空間に自身を書き込んで存在している『ズィード』にとって、エレメントは克服不可能な唯一無二の致命的な弱点なのだ。
 注意点は、ヤツらは個体ごとに能力が大きく異なっていることだ。
 俺が初めて見た目玉だけの個体〈レギオン〉、シングが『カオスモード』で蹴散らしたやや大型の個体〈ヒュージ〉は『端末クラス』であり、上位の個体からの指示に従って行動する、いわゆる雑魚だ。
 おやっさんの力を借りて倒した個体〈グラスパー〉は『制御クラス』。ヤツ自身も宣言していた通り、『端末クラス』を統率するリーダー格だ。
 そして、『制御クラス』に指示を与え、全ての『ズィード』の中枢たる『基幹クラス』の存在が明らかになった。『ジェイドウォーリア』を組織してからはま だ一度も顕現していないが、かつて竜人族でさえ敗れた別格の個体がいたという話が伝わっていた。存在を証明出来たのはレイの努力によるものだ。彼は、ヤツ らが出現した際の支配領域に対して、粘り強くハッキングを続けた。やがて試みは報われ、全てのズィードに指示を送っている送信元は常に八つしかないことを 突き止めたのだ。
 つまり、この『基幹クラス』である八体を全て倒すことが最終的な勝利条件となる。
 現状、最大の問題となるのは、敵がどこから送り込まれているかが分からない点だ。特徴的な空間転移方法で指定した座標に顕現出来るヤツらとて、必ず本拠地があるハズだ。ワープホールの向こう側に映り込む、サイバー空間のような景色を俺達は確かに見ている。
 判明した事実から対策を立てられるようになったとはいえ、全体像が掴めていない我々は未だに有利とは言い難い。何世代も後まで、この戦いを持ち込むことになるかも知れない。
 だが、だとしても。いや、だからこそ。
 今生きている俺達が動かなければならない。
 この世界を定められた脅威から解放し、生命の存在価値を証明するためにも。

 そんな新たな戦いに邁進してきた。互いに多忙な日々だ。単なる連絡ならばこの部屋のモニターを介して話すことも出来たハズ。その合間をぬって直接会いたい理由は何なのだろう。
「これを見てもらえるか」
 レイが手渡したのは、透明なケースだった。中を見れば、黒ずんだ細く小さい繊維のようなモノがある。
「これは?」
 俺が尋ねると、レイはモニターを見つめたまま答えた。
「順を追って説明するよ」
 聞いたところ、このケースの中身はあの『生体活性反応装置』から出てきたという。実験に必要な植物を培養していた際、調子が悪くなったため、パイルに頼んでメンテナンスさせた結果、出てきた代物だと言うのだ。
 余談だが、パイルは相変わらずシメオンに尻を蹴られる日々だという。つかず離れずの距離を保っているのは、これはこれでいい関係と言えなくもない。
「それで、それの正体なんだが……」
 レイは少し言葉を詰まらせたが、やがて意を決した。
「人間の神経細胞だったんだ」
 なんと、『生体活性反応装置』の回路に人間の神経が組み込まれていたというのだ。
 誰のモノかはすぐに見当がついた。
「……じいさんの、か」
「その通りだ」
 だが、一体何のためにそんなことをしたのか。
「どうしてユコバック博士がそんなことをしたのか、ひとつ仮説が浮かんだんだ。聞いてくれるか?」
 俺が頷くと、レイが静かに話し始めた。
「彼が生前、エレメントに関する研究をしていた気配があったというのは伝えたね。それを裏付ける証拠が見つかったんだ」
 レイがある時、秘密裏に取引をしていた業者の取引リストを見た時、じいさんの名前があったそうだ。じいさんは中身の入ったエナジークレストを大量に仕入れていたらしい。
「そこで聞きたいんだが、君はユコバック博士が興奮剤とか鎮静剤を使っているところを見なかったか?」
 意図が読めなかったが、俺は少し思案した。直接そんなものを服用しているところは見たことが無かったが。
 ちょっと待てよ。
「……シュルトケスナーなら、研究に使うと言っていたことがあった」
 あれには精神を高揚させる作用がある。
「やはりそうか。この仮説、信憑性が増したよ」
「どういうことなんだ」
 いぶかしげに聞くと、彼はあくまで仮説なんだが、と改めて断ってから続きを語った。
「ユコバック博士は、恐らく自分をエレメント能力者に改造しようとしていた可能性が高い」
 俺は言葉を失った。
 周知の通り、エレメントは生まれつき持っている才能のようなもので、後天的に獲得するケースは稀だ。人工的な方法で能力者になろうとしていたというのは、予想だにしない仮説だった。
「エギル、君はユコバック博士の死因は原因不明だと言っていたな。どう不明なのか、改めて知っている情報を詳しく教えてくれないか?」
「……カシュオーン研究所内で爆発事故があったらしいんだ。じいさんのいた研究室でそれは起きた。立ちあった親父から聞いた話だが、爆発の後だけが残っていて、じいさんの身体は肉片ひとつ見つからなかった……」
 そこまで言って、俺の脳裏に電流が走った。
「レイ、まさか……!」
「ああ、君も同じ結論に至ったか。そう、ユコバック博士は『ズィード』の存在を知っていた可能性が極めて高い」
 むしろ、他に考えられるケースが無い。じいさんが知っていたとすれば、全てつじつまが合う。
 俺のじいさんは『ズィード』の存在を知り、たった独りで戦う決心を固めた。だが、ただの人間がヤツらに対抗することは不可能だ。アブソーバーに頼ったと しても、市販されている物ではとても十分とは言えない。だから、自分自身の身体を実験台に、能力者を生み出そうとしたのだ。シュルトケスナーを用いたの は、エレメントの使用は使用者の精神状態が強い影響を与えるからだろう。
 しかし、外部から他人のエレメントを自分の肉体に取り込もうとしても、うまくいかなかった。度重なる実験の末、暴発してじいさんは死亡した。そして、その死体を『ズィード』が消去してしまったのだ。
「だが、彼は自分が死んだ時のために保険をかけていたんだ」
 自分の神経細胞を培養し、『生体活性反応装置』に回路として組み込んだ。たとえ、ズィードによって肉体を消されたとしても、自分の遺伝子を持った生体組織自体は別の場所に存在している。これならば、自分に関する記憶は関わり合った人からは消えない。
 無言のまま、彼は俺達に未来を託していたのだ。
「そうか……じいさん、そういうことだったのか……」
 俺は掌を握りしめた。
「エギル、君は意図しなかっただろうが、ユコバック博士の実験は成功したんだ。彼の意志は君に引き継がれた」
 レイの導き出した結論を噛みしめる。
 俺はあの三年前の戦いから、エレメント能力者となっていた。エレメントの塊も言えるフェルンが溶け込んだこの肉体は、後天的に能力を獲得していた。俺に心の底から共感してくれていたおやっさんが、全ての力を託してくれたからこその成功だった。
「ありがとう。レイ、わざわざそれを伝えるために呼んでくれたのか」
「……これは、君の心にだけ残ればいいことだ。通信回線なんか挟んで、余計な記録には残したくなかっただけさ」
 俺は彼の隣に並んで、共にモニターを見上げた。
 基地内の様子やどこかの監視映像、テレビのニュースなど、様々な景色が次々と映し出されている。
「……本当にありがとう。今日はいい日だ。いいことが二つもある」
 レイが弾かれたように俺を見た。
「! では、今日だったのか!」
「ああ」
「だったら、早く戻るんだ! こんなところで油を売ってる場合じゃないだろ!」
「大丈夫さ。今からなら、朝日が昇る前には帰れる」
 まるで自分のことのように慌てる彼がおかしくて笑いながら言った。
「チューブトレインはすぐに使えるようにしておく。僕のことなんか後回しでいいからさっさと帰るんだ!」
 俺は彼に背中を押され、締め出されるようにしてモニタールームを後にした。

 チューブトレインを利用したお陰でかなり早く戻ることが出来た。
 現在、俺はかつてレイが爆破した都市θの地下施設のリーダーを任されている。再建され、前よりも充実した設備が導入されている。
「リーダー、最終確認も終わりました。彼女は地上で待っています。行ってあげてください」
 戻るなり、出迎えてくれた部下がそう言ってくれた。
 礼を言って、俺は走り出した。やはり、心が躍った。
 どうやら、予定より少し早かったらしい。うちのスタッフは優秀だ。後でねぎらわねばなるまい。
 階段を駆け上がり、エレベーターの中ではデジタル表示が変わるのを心待ちにした。
 やがて、俺は秘密の通用口から都市θの地上へと飛び出した。
 都市の外れにある裏山のような場所だ。ここからなら、朝日が良く見える。
 俺は走った。全力疾走だ。息切れも気にならない。疲労など、微塵も感じない。
 やがて、山頂が見えてきた。
 俺はそこにたたずむ人影に向かって叫んだ。
「ベレン!」
 人影が振り向いた。
「……エギル!」
 まだ薄暗い中だったが俺には見える。
 腰までかかる美しい黒髪。透き通るような白い肌。とがった耳に、口元に覗く牙、どこか幼さを残した顔立ち。ボンテージで包んだ線の細い体に整った胸。
 俺が生命を賭して護り抜いた女性。自由を得た妖魔の姫。共に夢を育んだ半身。
 今、その夢が叶う時が訪れようとしている。
「早かったんだな」
「ええ。皆さん、夜明けまでには絶対に間に合わせるって、一生懸命にやってくれて……」
 俺とベレンは並んで草の上に腰を下ろし、共に夜明けを待った。
「そうだ、葉書が届いていたんです。コレ!」
 手渡された手紙を見ると、差出人には『ウェイン・ランナー』とある。
「……いいことは三つになったか」
 俺は裏面の写真を見てほほえましく思った。
 写真にはウェインの他に、ミロットさんとリコが映っていた。
 静かな微笑みをたたえるウェイン。
 大きくなったお腹をなでながら、満面の笑みを見せるミロットさん。
 二人の間ではにかんだような笑顔をしているリコ。
 皆、笑っている。
 あの後、ウェインは都市η再建のため、市長となった。真っ先に救助活動を行った隊員として民衆からはウケが良かったので、トップに据えるには最適の人物だったのだ。表では都市ηの新市長として、裏では『ワイズマンズネスト』の一員として、共に戦っている。
 ミロットさんはそんな彼と結婚した。どうも、俺の話をきっかけに仲良くなったらしい。俺のために自分の幸福を削ってまで手を貸してくれた女性だ。ずっと報われて欲しいと思っていたから、本当に良かった。
 リコは二人の養子となった。写真でも確認出来るが、弟か妹が生まれるのを待っているという。
 葉書には、最後の一文に『次は君達の番だ』と記され、締めくくられていた。
 ベレンと彼女らについて話していると、次第に山際が明るくなり始めた。
 時が、来た。
「……ベレン」
「はい」
 俺達はすっと立ち上がり、朝日が昇るのを待った。
 じりじりと闇を裂き、光が現れる。
 光が彼女の肌を包む。
「……燃えない」
 ベレンがわななきながら言った。
「燃えない! 私、燃えてない!」
 喜びを爆発させ、彼女は俺に飛びついて来た。がっちりと受け止め、抱きしめる。
「成功だ……!」
 俺もこれまでのことが心を駆け巡り、言いようの無い感動に打ち震えていた。
 俺は研究を続けた結果、薬などの化学物質で妖魔族の弱点を克服することは不可能だと言う結論に達した。
 そこで、俺は妖魔族という種そのものを変えることにした。
 都市ηのカシュオーン研究所は都市の外縁部にあったため、無事だった。そこに残されていたもうひとつの『生体活性反応装置』を俺は運び出し、ある改造を施した。
 彼女にはこの装置の中に入ってもらった。拒絶反応などの問題が起こらないよう、細心の注意を払い、280日もの時間をかけて、少しずつ経過を見守った。 そう、日光に弱い原因である『ヴァンピアシン』を産出する細胞の遺伝子を書き換えていったのである。『ヴァンピアシン』が無ければ、妖魔族は素早く栄養素 を供給することが出来ない。だから、より正確に言えば、日光によって過剰反応を起こし、炭化するほどの熱を発生させる『ヴァンピアシン』の特性自体を変え たのだ。
 つまり、ベレンには『太陽光に強い妖魔族』として生まれ直してもらった、ということになる。
 この日光に対して反応しない『ヴァンピアシン』は区別するため『ノスフェラシン』と呼ぶことにした。これからは彼女の身体では『ノスフェラシン』が作ら れることになる。しかも、薬などで一時的に抑えているような状態と違って、遺伝子そのものが変化しているため、彼女の子孫にもこの特性が遺伝する。
 陽光に苦しむ妖魔族全てを助けられる画期的な技術が確立されたのだ。
 なるほど、俺のしたことは神をも恐れぬ行為であろう。本来の生命に手を加える禁忌。そんなことは百も承知だ。もし、創造主が俺を裁くと言うなら、潔くそ れを受け入れよう。だが、この世界に生きる者を無意味と決めつけ、無実の罪を押し付けるような真似をするのであれば俺は断固として戦う。その覚悟はある。
 今、二人はようやくスタートラインに立ったのだから。
「エギル、そう言えば私、貴方に返さなきゃならないモノがたくさんありましたね」
 腕の中のベレンが俺を見上げて言った。
 はて、何かあったっけ。
 俺がとぼけた顔をしていると、彼女が目を細めて笑った。
「忘れちゃダメですよ。助けてくれたら『続き』をするって、約束。それに、血をもらった前借だってまだ返しきれてないんですから」
 とろけそうな笑みだった。
 俺はドキリ、として彼女の肩に手を置いて引き離した。
「な、何、そう急くことはない。そう、今は朝だ! 一日の始まりだ! 夜になってからでもいいだろ?」
 とっさに口をついて出たが、今俺は何を言っているのか。
 なんかおかしいぞ。
「……そうですね。じゃあ、そうします」
 そう言ってベレンは俺から離れると、両手を広げて全身に太陽を浴び始めた。
 うーん、これは今までとは全く異質の覚悟を決めねばならないようだ。
 『次は君達の番だ』という、ウェインから送られた一文が頭をよぎる。
 不意に、左腕が痺れたような気がした。妬くんじゃねえよ、おやっさん。
 右手で押さえつつ、深呼吸をする。
「はーッ……今までで一番厄介な戦いになりそうだ。きちんと下調べはしておかないとな……!」
 そう呟いた俺の表情はきっと今までで最もたるんだ表情をしていたに違いない。
 今、降り注ぐ光は間違いなく俺達を祝福している。そんな勝手な解釈が出来るほど、俺は舞い上がっていたのだろう。
 でも、それでもいいではないか。
 俺は夢を叶えた。
 そして、これからは叶え続ける日々が始まっていくのだ。

 俺は彼女のぬくもりを感じながら、告げる。
「生涯をかけて君を研究したい。どうか、俺のそばに居てくれ」
 彼女は俺にそっと口づけをして答える。
「私の身体を調べていいのはエギルだけです」
 二人の運命がひとつに重なった。

 生物とは、生命とは一体何なのか。ひとつだけ分かったことがある。
 俺達は生きている意味を知らない。何の為に生まれて来るのか、答えを持たない。
 だが、俺達は生きて行く意味を自ら見出すことが出来る。自分が何者であるのか、自分の意志で決めることが出来る。

 俺達は、きっとそれをつないでいくのだ。
 今までも。
 そして、これからも。

 ――完
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