Infinity 「言葉に変えて伝えていこう」


 ―――人間は新たな進化を迎えようとしている。それでも、言葉が絶える事はない。

 ギルトは目の前に現れた男に笑いかけた。
「久しぶりですね。」
 その男も同じく笑みを返してくれた。
 肩の辺りで整えられている銀の髪、金と空色のオッドアイが実によく映える。
「ああ。早いものだね。もう、あれから五年も経ったのか。このレヴォルードも随分変わった…。」
「貴方はあまり変わってるようには見えませんよ、レイジさん。」
 そう、ここは都市レヴォルードの市庁舎。その談話室の椅子で、ギルトとレイジは五年ぶりの再会を果たしていた。
 世界中に散ってしまった変異奇獣達はその頭目が倒れても、活動を続けていた。最終決戦時は奇獣と変異奇獣を相殺する事で対抗していたが、やはり全体的な数は変異奇獣の方が多かった。そのため、通常の奇獣はほとんど死滅したのにも関わらず、変異奇獣の半数は残ってしまっていたのだ。
 神々は人間を信じて神の領域へと戻っていった。なので、ギルトはクオンの元で変異奇獣を狩り続けていたのだ。
「まあ、人間としては大きく変わってはいないが…生活には革命が起きたよ。」
 レイジがあごで部屋の入り口を示した。目をやれば、扉の開いた入り口には見慣れた仲間がいた。相変わらずのタンクトップに、あちこちが破れたジーンズを加えたラフな格好。間違いない、ミクシーだ。
 燃えるような真紅の髪とつりあがった目つきの彼女に、ギルトはかつて萎縮したものだ。
「あれ…?」
 ギルトは彼女の他に、その足にしがみつくようにしてこちらを見ている二人の人間を確認した。始めて見るが、よく知っている者の特徴がはっきり現れている。一人はミクシーと同じ真紅の髪の男の子。もう一人は銀髪の女の子。まだ、二つか三つくらいの幼子だ。
「もしかして…その子達は…。」
「そ、アタシ達の子供。」
 ミクシーはそれぞれ両の腕で二人をひょいと抱え上げると、こちらへと歩いてきた。
「正真正銘、俺の嫁だよ。…っと。」
 レイジが腕を伸ばし、女の子の方を受け取った。
「やっぱり、結婚してたんだね。」
 ギルトが笑うと、ミクシーは顔をしかめた。
「何だよ、その初めから予想してた、って感じの顔は。」
「だって、レイジさんもミクシーも会った時からお互いを思い切り意識してたじゃないか。二人とも正直に表面に出るタイプだったから、気付かない方が変だよ。いや、レイジさんの場合は自ら出すタイプで、君は抑えてても出てるタイプか?」
 からかわれた彼女はため息をついて言う。
「まーね、こういう性格だからね。」
 おや、母親になってすぐに手が出るのは完全になりを潜めたか。
「ところで、名前はなんて?」
「こっちの男の子がトーマ。女の子がニーナ。」
 いい名前だね、と月並みな言葉を言ってから、なんだかんだで仲はいいんだな、と思った。
「何か、お祝いが必要かな?」
「いや、今はいいよ。次来た時にまとめてくれれば。…それに子供、もう一人増やす予定だから。」
「…頑張りますね。」
 レイジの方を向いて言うと、彼は照れて頭をかいた。
「…アタシさ、バアちゃんに拾われるまでは独りだったからさ。この子達は出来るだけ寂しくないようにしてあげたいんだ。」
 性格は変わらずとも、彼女は母であるのだな。ミクシーの言葉で、それだけは確信出来た。全ての人はこうして望まれて生まれてきて欲しいものだ。
「途中でココに寄って良かった。二人とも、元気そうで。幸せになりなよ。…さて、僕もそろそろ行かないと。」
 ギルトは椅子から立ち上がった。二人の子供らは不思議なものを見るかのようにギルトを視線で追っていた。次に来たらどういう反応をするか楽しみだ。
「どこへ、だい?」
 レイジの問いにギルトは決まってるじゃないですか、と言い答えた。
「幸せのある場所ですよ。」

 やっと、変異奇獣の討伐もひと段落したのだ。はやる気持ちを抑えつつ、ギルトは空を駆けた。目指しているのは都市メーウェン。エアの住むところだ。
 随分会っていない。会ったらまず何て言おうか。
 彼女は僕が自分の道を見つけるまで待つと言ってくれた。
 これで、会いに行って二人がどうなるかは別の話だ。だが、彼女は僕を信じてくれた。だから、僕も信じよう。
 ならば、言うべき言葉はあった瞬間に、心に浮かんだものをそのまま言えばいい。それが、自分の想いを伝える唯一にして絶対の手段となるハズだ。
 やたらと詩的な感じである。キザミが言いそうな事だ。彼もどうしているだろうか。恐らく、かつての戦いを記しながら、刺激を求めて各地を旅しているだろう。ならば、会う機会はいくらでもある。
 流れる空気を切り裂いて、速度を更に加速する。

 強く想う今だからこそ、言葉に変えて伝えたい。
 君の心へ。
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