00.プロローグ


 レプリロイド。
 それはロボット工学の権威、ドクター・ケインによって開発された新時代の自律思考型ロボットである。
 かつて、人間とロボットが共に暮らす時代があったと記録されているが、ドクター・ケインによってレプリロイドが開発されるようになるまで、人間社会から思考力を持つロボットの存在は姿を消していた。
 その理由や原因は未だに不明とされている。
 一説によれば、ロボットによる争いや事件が頻発したからだとも言われている。
 思考力を持たぬメカニロイドの異常動作だけではなく、人間に限りなく近い自律思考力を得たレプリロイドにさえ、思考能力にバグや異常をきたしたイレギュラーが発生することを思えば、有り得る話だ。
 故に、イレギュラーハンターという組織が結成された。
 組織創設にも関わったドクター・ケインは晩年、レプリロイドはとある場所で発見したロボットを参考に開発したと明かした。
 それは、かつてロボット工学の父とも呼ばれた科学者トーマス・ライトのものと思われる隠された研究所跡地で見つかった。
 警告文が並び、ドクター・ライトによるものと思われる侵入者へ向けたメッセージもドクター・ケインが立ち入った時には時間が経ち過ぎて途切れ途切れだったと言う。
 そこで眠っていた青い体を持つロボットを解析し、レプリロイドは生まれた。
 エックス。
 彼は厳密にはレプリロイドではない。
 旧型のロボットと言っていい。
 だが、彼を解析し、参考にし、独自の理論と技術を足してレプリロイドを生み出したドクター・ケインですら、エックスを完全に解析することはできなかったのだと言う。
 底知れぬ戦闘能力と高度な思考力を持ちながら、エックスには躊躇い、悩むという行動が多く見られた。
 監視、観察目的もありイレギュラーハンターに配属された後も、その思想や性格から結果を出せず、侮られることも少なくなかった。
 旧型のロボットと言えばもう一人。
 発見当初、赤いイレギュラーとして凄まじい凶暴性を発揮していたゼロもまた、出自が不明であった。
 鎮圧後に回収し、ドクター・ケインにより解析、調査が行われたが、こちらも完全に解明することはできなかったと言う。
 今になって思えば、それはゼロもまたレプリロイドではなく、エックスと同時期に作られたであろう旧型のロボットだったということだ。しかも、恐らくはエックスと同等の技術力によって造られている。
 だが、不思議なことに、ゼロは目が覚めると自分がイレギュラーであった時のことを一切覚えておらず、それどころか正常な思考力を有していた。戦闘能力は 極めて高く、性格もエックスと違い常に冷静な判断を下すことができ、監視と観察を兼ねて配属されたイレギュラーハンターの中でも頭角を現していった。
 エックスとゼロ、その存在は私の中で次第に大きなものとなっていった。
 エックスがイレギュラーハンターに配属されたのはゼロよりも後だったはずだが、今になって思い返せばエックスのことは初めて見た時からどこか気になって いた。そうして何故、と考えると行き着くのはイレギュラーであったゼロを鎮圧した時のことだ。あの時に何らかのプログラムが私に流れ込んでいたのだろう。
 エックスを超えろ、と囁く声がどこかから聞こえてくるように、得も言われぬ衝動がいつの間にか生まれ、大きくなっていったのだ。
 
 レプリロイドの祖とも言える、旧時代の存在でありながらも未だに超えることの叶わぬ存在、エックス。
 彼を超えることこそが、レプリロイドの、ひいては世界の進化に繋がるのではないか。いつしか私はそう考えるようになっていった。
 何故ならエックスには……――
 
 
 ――シグマのレポートファイルNo.XXXより抜粋。

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