トライ・ウィズ・ユー
裏話


著:白銀

 
 「トライ・ウィズ・ユー」は本来、私自身が執筆しようと思い至るには色々と設定が固まり切っていないネタでした。
 これを書くに至った経緯は、まず「自分以外の人に原案を出してもらって小説を書いてみたい」という企画を思いついたことがきっかけとなっています。
 単なるお題小説よりももう少し踏み込んで、大まかなシナリオなども原案の人にある程度固めてもらって、その大筋を外さないように執筆担当者が書いていく、といったものを考えていました。
 で、この「トライ・ウィズ・ユー」はその企画にて私が相手に提示しようと考えていたネタを基に書いた作品となっています。
 その時点では「人と竜が共存する世界で、ペアで出場するスポーツ競技の話」というざっくりとした内容でした。
 企画自体は持ちかけた相手方が多忙になってしまい、実現はしなかったのですが、それからさほど間を置かずにブログの定期更新を思い立ち、定期更新のコーナーとして小説の連載をしてみたいと考えた時にこの作品のネタを使うことにしたという経緯があります。
 その際のネタの選定基準は、「ちゃんとした構想が練られていないもの=賞への応募用ではないもの」「長編にはならない(もしくはできない、しない)であろうネタであること」といった、要は「普段の感覚では執筆には至らなかった中途半端なネタ」というわけです。
 で、その時宙に浮いてしまっていたこのネタを再利用することを思い立ち、自分で書いてみようかな、と思ったのが始まり。
 
 以下は、『週刊 Write IDEA』の『IDEA Pickup』にて書いたものです。一部内容が重複しているところもありますがそのまま引用しておきます。
 ―――――
 #1
  
 まずはざっくりとコンセプトや構想、着想についての話。
 
 構想自体は割と昔から考えていた世界観で、コンセプトとしても「人と竜が二人一組で何かをする」というタイプのものでした。いわゆるポケモンとかデジモンとかみたいな、人とそうではない存在がタッグを組んで活躍する系統ですね。
 で、単にそれをなぞるだけでは何番煎じか分かりませんし、よくある感じだなーと思っていまして、一捻りを入れたいと思っていました。
 そこで考え付いたのが、「人と竜がコンビで挑むスポーツ」という設定。
 ただ、ここで発生した問題が、通常作品として実際に執筆開始まで至らなかったもので、それが「スポーツのルール」であったり、「スポーツ時の描写や表現」であったり。この辺りは次回以降にも触れるかと思います。
 いわゆる「戦闘」というものがないため、登場キャラたちの個性付けとか、ストーリーとかがいまいち思い付かなかったんですよね。
 とはいえ、逆に「戦闘」という要素がない故に、比較的平和な日常系作品としての方向性が存在しており、上手く調理できれば穏やかな雰囲気の話として構築できそうだなーという考えはありました。
 構想していた世界観の時点では、「戦闘」という要素も存在する余地がないというわけではなく、ボクシングやレスリングのような、直接的に相手を打ち負か すような競技を導入すればできなくはないんですが、私が自分で書くならばあえて戦闘しない競技でやってみたいなという思いがありました。というのも、オー ソドックスなファンタジー的印象としての竜は強さの象徴的なものでもありますし、人と竜が戦う、というポイントは色々とよくあるものでしたから、穏やかで 優しい感じにしてみたいとも思っていたんですよね。
 結果的に、どういうストーリーにするかが中々定まらず、執筆には至っていなかったんですが、今回のブログの定期更新にあわせた連載作品として執筆に踏み 切りました。特にプロットも定めず、開始時点での構想を書き進めながら広げる形で、その場のノリと勢いで肉付けを行うというスタイルで進めていったので計 画的な伏線とかも意識していません。この辺も次回以降でまた詳しく触れていきたいですね。
 
 ちなみに作品タイトルは分かり易く主人公二人の名前にかける形で、かつ二人一組の作品らしくもあったのですんなりというかあっさりと決めてしまいました。タイトルを決めると同時に主人公二人の名前も決まった感じですね。

 #2

 世界観について。
 作中では常識と化しているためほとんど触れられていません。これはそれを説明するために割く文章量を減らして作品自体のテンポを良くする意図もあったりするわけですが、ぶっちゃけた話そこまで細かく設定が構築されているかといえばそうでもなかったりします。
 決めてあったのは、まず「人と竜」の二つの生物種が存在し、共存しているという世界観。いわゆる幻想生物でもある竜を人と同格に扱う世界観なわけです。人を基準に考えると、人と同等以上の知性を持ち、コミュニケーションが取れ、共存ができる知的生命体といった感じ。
 この作品世界においても、人と竜の対立自体はありましたが、作中でもちょろっと触れている通り、古代の話で、神話や歴史的な時代のこととされています。対立が解消されてからはざっと千年ぐらい経っている想定でいたりします。
 人に比べて竜は体躯が大きく、平均寿命なども異なるわけですが、それも平然と受け入れられるぐらいには共存し始めてから年月が経過しているという想定。
 体躯の差を考慮した建築様式や生活風景なども当初は盛り込もうと思っていたのですが、その場その場で書き進めていった結果、見事にタイミングを逃し、書くのを忘れてしまいました。
 また、この世界には魔法の概念があります。
 作中においては演舞の公式競技の際、舞台となる土台に落下事故防止や天候変化のために魔法を展開したりしています。
 文明的には科学と魔法が共に発達しており、映像を投影する機械、要するにテレビ的なものとか、生活を便利にする道具が普及しています。魔法技術もふんだ んに使われているので技術水準的には近未来寄りを想定して話を進めています。これらの魔法体系や科学技術的な設定は詳細まで詰めてはおらず、現代以上の生 活水準で暮らしているぐらいのふわっとした感じです。
 登場する竜については大まかに3つの種族があり、地竜、翼竜、水竜に分類されます。翼やヒレの数、鱗の色や強度、体の大きさなどは個体差が大きいもの の、「翼があり飛行可能な翼竜」「ヒレがあり水中呼吸が可能が水竜」「ヒレも翼もない地竜」という3つの特徴で分類されている形です。
 翼竜は比較的スマートな外見をしており、中には人型に近いものもいたりします。水竜は体格の個体差は大きく、水中では自在に動けるものの地上での活動は不得意です。地竜は飛ぶことができず、水中で呼吸ができない代わりに筋力や肉体の強靭性に優れています。
 イメージとしては翼竜がワイバーンやドラゴン、水竜がプレシオサウルスのような首長竜やモササウルス、イクチオサウルスのような魚に近いタイプで、地竜がティラノサウルスやラプトル、トリケラトプスといった2〜4足歩行の恐竜に近いものをイメージしています。
 そのため、個体による体の大きさや特徴にかなりバラつきがあるわけですが、これは竜という存在のイメージの多様性をそのままにしようとした結果です。や ろうと思えば、各種族毎に共通というか均一的な外見的特長にする(人間でいうところの個人差程度に留める)こともできたわけですが、それだと竜という言葉 のイメージとしては微妙な気がして、ぱっと思いつく竜のイメージは存在できるような世界観となりました。結果的に、竜の個人差がかなり激しくなってしまっ たため生活様式や建築様式、生活風景や人生観といった部分を描写しようと思うと頭を悩ませることになってしまったわけですが。下手をするとこの辺りを書く だけで短い作品なら一本できそうです。

 #3

 種族的には人と竜は区別されていますが、数える場合の単位は区別されておらず、1人、2人、と数えています。これも作中では常識となっている設定なのであえて細かく触れていません。
 作中世界においてもスポーツは色々と存在しますが、基本的には人と竜で分けられています。体の大きさや能力差が大きいので、単純に人対竜では成立しえないというのが一番の理由です。
 そんな中、人と竜が二人一組のペアとなって参加するタイプのスポーツが考案され、人と竜の和睦を深める、信頼、親愛を示すなど色々な思惑や意図があった ものの、作中の時代では一般的にも受け入れられるものとなりました。作中世界でプレーヤーと呼称されるのは、人と竜がペアで参加する競技に出場する選手た ちのみで、人のみ、竜のみでのスポーツに参加する選手をプレーヤーとは呼びません。
 ちなみに選手としての平均寿命はだいたい、人が10〜20年、竜が30〜60年ぐらいかなーと考えていました。
 競技種目は多岐に渡り、集団から個人まで様々です。
 が、実際には全部の設定を考えたわけではなく、この作品を書くに至るまでの構想でぼんやり考えていたのは演舞とレースぐらい。
 演舞は言わば二人一組でのダンス競技で、竜の種別に合わせて部門分けがされています。地竜部門は地面から低空が舞台となり、水竜部門は水中から水上が舞 台に、翼竜部門は空中が舞台となります。部門を越えて参加することは不可能ではありませんが、相当なハンデを背負うことになるため、やろうと考えるペア自 体がいません。
 ゼリアハルトは作中世界における最大の競技祭典で、オリンピックのようなものです。ただし、作中世界ではこのゼリアハルトの存在感は極めて大きく、開催 中は世界中がお祭り騒ぎとなり、出場できるだけでプレーヤーとしては最高峰の栄誉と報酬が約束され、優勝しようものなら世界中から英雄扱いという凄まじい 規模のものになっています。
 開催は5年毎。他にも毎年開催される大きな競技会はありますが、プレーヤーたちからするとゼリアハルトへの足掛かり的な印象が強かったりします。
 今回の話で演舞を選択したのは、「直接的に対戦相手とぶつかり合う競技を避けた」ため。アイデアとして浮かんだのは、ダンス、レースの他にはボクシング やレスリングのような格闘技だったんですが、格闘技だとポケモンやデジモンみたいな、人が指示を出して竜が戦うみたいな構図になりかねないなと。魔法もあ る世界観だし、かつては人と竜が争っていたという背景もあるのでルール整備をすれば割と良い感じにできなくもないのかなーとは思うものの、流血沙汰になっ てしまうのはスポーツ的にどうかなと思い不採用。
 レースの方はスターウォーズのポッドレースのようなイメージが浮かんだりしましたね。長距離の障害物レースのようなイメージで、トライアスロンとかラ リーのような、人と竜が協力し合って進んでいくような感じです。が、詳細な設定を詰める以前に演舞を採用したので実のところ細かいルールは決めていませ ん。
 演舞についてはイメージとして近いのはフィギュアスケートでしょうか。私自身、細かいルールとか知りませんし、さして凄さが分からないので実のところあんまり参考にはしていません。
 経緯からして見切り発車で書き進めたこともあり、あまり細かくルールを決めず、演舞中の描写も一挙手一投足書いてないのはそのためです。文中には技とか色々書いてますが、割とフィーリングだったりします。
 とにかく雰囲気を重視して、勢いで書けそうだったというのもあったのですが、競技の候補が浮かぶ以前からダンスを題材にしようというのは考えていたんで すよね。レースもそうなんですが、同じ場に競う相手がいるとどうしても直接的にぶつかり合う描写が書けてしまうので、今回の話の構想的に、それは合わない な、と。
 というか、雰囲気を重視した透明感のある話、直接的な争いのない平穏な話を書いてみたい、という思いがあったので、場に対戦相手がおらず、ペアだけの空間になる演舞で行こう、とは決めていました。

 #4

 内容について。

 大筋は、「主人公ペアが出会い、プレーヤーとなってゼリアハルトに出場する」といった感じの方針としました。
 主人公ペアの設定については、トライアリウスを三枚羽の竜にするというアイデアが浮かんだことで、プレーヤーに憧れる孤児となりました。
 タイトルの「トライ」は「3」にもかけられるし、作中での「トライスター」という愛称にもかけられるということで「トライアリウス」という名前も含めてここはすんなり決まりました。
 対するユウリは背景設定からして後ろ向きがちなトライアリウスを引っ張るキャラとして対照的にアクティブな性格になりました。
 肉付けとしては、世界観の掘り下げ、キャラクターの掘り下げを中心に、ユウリとトライアリウスの関係性の変化が主軸。コンプレックスにより後ろ向きなトライアリウスが少しずつ前向きになっていく形としました。
 連載開始当初の時点では、ゼリアハルト出場権を手にした段階で終了する、ゼリアハルトで優勝したシーンを最後に挿入して終了する、という2パターンのエンディングが浮かんでいました。
 演舞対決のような描写は細かいルールを定めていなかったこともあって、詳しく書くことができず、あまり長引かせても仕方ないと思い割とすっ飛ばし気味にゼリアハルト出場という流れになりました。
 この時、このまま二人だけの世界で話が終わってしまうのも味気ないのではないかと思い直し、ゼリアハルトでの描写を入れて〆ることにしようと思い立ちました。
 で、それをやるなら演舞対決っぽいことをさせてみようということでアイリス、ジルゼロアというトッププレーヤーペアを設定。
 アイリスとジルゼロアについては、ユウリとトライアリウスの前に草案は出来ており、名前は未設定なものの、ユウリとトライアリウスが憧れるトッププレーヤーペアとして設定がされていました。
 本文冒頭で演舞をしているのはアイリスとジルゼロアのペアで、2回目のゼリアハルト出場時を想定しています。ユウリとトライアリウスが出会う前、それぞ れが映像として見ていたもの、という想定。実際に登場させるにあたって名前を考えたわけですが、時間をかけたくなかったので○ックマンから拝借。アイリス はそのまんまですが、ジルゼロアはジルウェとゼロの合わせ技です。
 ちなみに余談ですが、作中世界では男の竜は「u」の子音で終わり、女の竜は「a」の子音で終わるのが一般的、かつ5文字以上の名前、という裏設定もあります。つまりアイリスのパートナーであるジルゼロアは雌だったりするわけですが。
 で、そうなると今度はアイリスとジルゼロアのペアに勝つかどうか、優勝できるかどうかというのをどうするかでエンディングが変わって来るわけで、ここに ついては結構悩みました。連覇しているペアにあっさり、とまでは言いませんすが順当に勝ててしまっていいものか、と。かといって、ゼリアハルト出場自体が 快挙ではあるものの、優勝できずに終わるのも歯切れが悪いかなと思ったりして。
 そんなわけで最終的には本文中のように引き分け、同率優勝という形にしてみました。ちょっと中途半端だったかなーと思いつつも、アイリスたちにも意識させて絡ませられたし、この先張り合っていきそうな感じにもできたのでこれはこれでありかな、と。
 
 #5
 
 さて、本作品は元々、書くかどうか未定なネタの一つでした。
 というのも、この作品のベースとなっているアイデアは「原案を他の人に提示してもらって作品を書いてみる」という企画に出すネタの一つだったという経緯 があります。前述の通り、ぼんやりとした構想自体はかなり前からあったんですが、この企画のためにそこから少し固めたというべきか。
 大まかなあらすじ、プロットのプロットぐらいの段階までを原案担当者に提示してもらい、執筆担当者はそれを基にもう少し詳しいプロットを考え、肉付けを して書いていく、といった感じの企画を考えていたわけですが、企画を持ちかけた相手も私もあれこれあって頓挫してしまっていました。
 で、「トライ・ウィズ・ユー」のベースになっている「人と竜がペアで行う競技の話」というのはそこに私から提示したネタの一つだったわけです。
 それを自分で書くことにしたのは、ブログの週刊更新で連載をやってみたくなったからというのが一番の理由。
 普段長編を書く際には、賞への応募を念頭に置いて構想やプロットを練るため、サイトでの通常連載やこういった場での連載は躊躇ってしまうのですよね。完成して、応募して、落選してからの方が良いのではないか、と。
 そういった考えをしなくて済むような、応募用にまで至らないネタを使いたかったというのも大きいです。中途半端だし、そこまで起承転結が練られていないし、悪く言えば多少手を抜いても気にならないネタが良かったわけです。
 そういった経緯もありましたが、連載するに当たっては、あえてプロットを用意せずその場その場で思ったままに書き進めてみることにしました。ある種、どんな形が出来上がるのかを実験してみようと思ったわけですね。
 普段はある程度前後を確認して手直ししたり、当初考えたプロットから先の展開を見据えて伏線になるような要素を加えたりとかするわけですが、今回は毎週 その場その場で書き進めてアップしていくというほぼ全編アドリブのような形になっています。そのため、伏線などもあまり意識せずに書いています。毎回の文 章量も割と適当で、目分量であったり、プロットを決めていないが故に先の展開をその場その場で考えながら書いていました。
 行き当たりばったりな書き方をしていたので先の展開をどうするか、じっくり考えて決めることはできませんでしたが、その分即決していく練習にはなった気がします。
 とはいえ、感覚的にはそこまで他の作品群と変わらずに書けていました。
 毎週、ちょっとだけだとしても作品の執筆に関わり続けるという点で、遅筆になっている部分へのリハビリにもなっていればいいなぁと思っています。この連載企画のために意識が割かれてしまっている部分も多少なりともあるとは思いますが……。
 
 実際に書いてみて、見切り発車でプロットも定めず、その場その場で先を考えていくという形式では、やろうと思えば延々と続けることができてしまうな、というのは実感しました。
 特に今回のように、書き始めた段階で明確な着地点を決めておらず、日常的な描写を続けていくことのできるタイプの作品では余計にそれを感じました。少しずつ少しずつ書き進めていたから余計に。
 まぁ、やろうと思えば着地点を決めていたとしてもその先に進んで続けることもできなくはないなと思うわけですが。
 とはいえ、注意しなければと思ったのはやはり、いつまでもだらだらと引き延ばしてしまうことでしょうか。〆の部分が思い付かないからと先延ばしにし続け ることができてしまうため、キャラクターの掘り下げや世界観の掘り下げと称して引き伸ばし続けてしまえるのは気をつけるべきポイントだな、と。
 元々がそういう、いつ終わるか分からない、続けていくこと自体も目的の一つな作品であるならまだしも、長編にならない程度の作品にまとめることを考えているのであれば、ちゃんと終わらせることも意識して書き進める必要があるな、と。
 ずっとその世界に浸っていたい、という気持ちも分かるのですが、私としては終わりのない物語というのはいつかついていけなくなって飽きられてしまうので はないかという思いもあるので、始まった、始めたのであればきっちり終わらせておきたいと思うんですよね。終わってしまう、終わってしまったからこその、 ずっと浸っていたい、という感覚もあるのだと思いますし。
 ―――――
 引用ここまで。
 
 後書き
 
 ブログの定期更新『週刊 Write IDEA』の1コーナー『IDEA Pickup』にて掲載していた「トライ・ウィズ・ユー」についての裏話を繋げ、加筆したものです。
 
短編の目次へ
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