シーン01 「出会い」


 国の首都、なんてものはいつだって賑わいがある。田舎から出てきた者からすれば、なおさらだ。
 宿屋から外へ出て、背伸びをする。
 今日は天気が良い。昨日は一日中どんよりした曇り空だったから、爽やかな気分で起きることもできた。
 まずは露店の立ち並ぶ大通りを物色しながら歩く。
「どうだい、安いよ!」
「今なら割引してるよー」
 客引きの声の多さにも、最初こそ驚いたものだが、数日もすれば慣れてくる。
 大陸最大を誇るガルミュール王国の首都だけあって、このバルアという都市は様々な人で溢れかえっている。
 もちろん、私リエナ・フェルムもその一人だ。
 淡い青色の長髪を背の中ほどで結い、弓と矢筒を背負い、腰にはポーチを身に着け、皮製のブーツと指貫とレザージャケットを着込んだ女狩人、というのが今 の私だ。顔はそこまで美人ではないが、不細工ではない、と思う。二重の瞼にややつり気味の目つきに青い瞳、鼻筋はまぁまぁ、唇は薄い方。平均的な身長に、 これまた平均的なスタイル。荒事を生業としているから、それなりに体は引き締まっている。少なくとも、鏡で自己評価する分にはそこそこなんじゃないかな、 と。
 出身は森林に囲まれた山間部の田舎街だが、弓使いの狩人、弓撃士としてそれなりに実力がついたと思ったところで首都にやってきた。
 実際、それなりにやれている、と思う。
「あ、おじさんこれとこれ、五つずつ頂戴」
 矢筒の並ぶ露店で立ち並び、値段を見つつ店主に言った。
「あいよっ」
 体格の良い中年の男は威勢の良い返事と、強面の顔に人懐っこい笑みを浮かべて矢筒をまとめて差し出してくれる。
 代金を支払い、矢筒を背負って更に大通りを歩く。
 周りには装備こそ違えど、私と同じような雰囲気の人が多い。
 鎧を着込んで剣や槍を携えている騎士然とした人や、もっと軽装の戦士もいれば、杖や本を抱えた魔法使いもいる。
 強さ、名声、富、スリル、理由や経緯はそれぞれ違えど、彼らは何かを求めている。
 故に、こういった者たちのことを追い求める者という意味合いから『シーカー』と呼ぶ。
 都市部や街のような人の集落の外では野生動物の他に魔物と呼ばれる存在が徘徊している。魔物も基本的には動物に違いないが、特に有害なもの、人間に対して敵対的な存在を魔物と呼称して区別していた。壁や柵などで人々は集落を囲っているが、それだけでは安心できない。
 私や周りの戦士たちのような者が生活できるのも、そういった魔物を狩ることが仕事になるからだ。
 各集落に必ずあるギルドと呼ばれる施設では、魔物の討伐や密集地帯の制圧の依頼、その死骸や素材の買取などを行っている。当然、ギルドへの登録や規約なども存在するが、非常識な行動を取らなければ問題はない。
 ギルドの前で立ち止まり、表に張り出されている掲示板を一通り眺める。
「んー……」
 何か手頃な依頼や情報はないだろうかと、顎に手を当てながら目を通していく。
 シーカーも実力は様々だ。何で戦うかによって得手不得手もある。一人では難しい依頼も複数で行えば一人当たりの報酬は減るが比較的簡単にこなすこともできる。
 ギルド前の掲示板周辺では、そういった困難な依頼を一緒に遂行してくれるパーティメンバーを探している者も少なくない。
 その場限りの契約という場合もあれば、意気投合してコンビやトリオ、それ以上の大所帯のチームを組む者もいる。
 とはいえ、私の場合は今のところチームとは無縁だ。その場限りのパーティとして見知らぬシーカーと何度か狩りをしたことはあるが、日が浅いこともあってまだここの雰囲気には馴染みきれていないのが実情だ。
 自分にできそうなものを地道にこなしつつ声をかけられたら、というのが現状だった。
 ギルド登録証での私のランクは第四級だ。ランクは一から十まであり、一が最も高く、トップレベルの実力者であるとギルドから証明される。ランク付けは遂 行した依頼の難易度や数などの功績を鑑みてギルドが認定しているもので、それはそのままシーカーのレベルと同義でもある。四級ということはシーカーとして は中級者の中でも上の方、あるいは上級者に片足を踏み入れた程度だ。
 一つ上のランクの依頼を受けることもできる。もちろん、それで失敗して命を落とすようなことになっても自己責任だ。
 現実的には、自分のランクより上の依頼を受けるなら、パーティを組むべきだ。
「どうしようかなぁ……」
 ちらりと、隣にあるパーティ募集の掲示板を見てみる。
 自分のランクと戦闘スタイル、やりたい依頼の方向性などが書かれた紙が何枚か貼られている。特定の依頼に対するメンバー募集だけでなく、そういった人に売り込みを行う人たちもいる。そこからパーティを組んで、何に行くか相談するという手もある。
 やり方は様々だ。
 自分も貼り出してみようかと思った時だった。
 隣にやってきた青年と目が合った。
 赤い髪の、元気のありそうな男だった。動き易そうな皮製の鎧と、腰の左右に携えた短剣から、いわゆる二刀剣士タイプだと踏んだ。
「お、ねぇ、あんたランクいくつ?」
「……四、だけど」
 思ったよりも軽い口調でランクを問われ、やや戸惑いつつも答える。
「俺ランク五なんだけどさ、良かったらこの西洞窟の調査やろうぜ」
 掲示板からはがした依頼書を見せて、彼は言った。
「ランク三……二人で大丈夫かな?」
 西洞窟の調査の貼り紙は私も見た。首都から西方にある洞窟に魔物が住み着いたらしく、その現状を調査するという依頼だ。そこそこ手強い魔物が居ついたようで、やや依頼のランクが高い。
「じゃあ、こいつ誘って三人で行こうぜ」
 私の言葉に、彼は募集掲示板の紙を指差して言った。
「聖療士のシュル、さん?」
 紙に書かれていたのはランク五の聖療士と呼ばれるシーカーの女性だった。聖療士とは、聖なる力を用いて自分や他者の傷を癒し、痛みを和らげ、身体を強化 するなどの保護や支援を得意とするシーカーだ。人によってはその力を攻撃力に転換して敵に放つことができる者もいる。基本的には後衛だが、いるのといない のとでは安心感が違う。
 彼女がパーティを組んでくれるのなら、前衛、後衛、支援とポジションが揃う。構成としては定番な形だ。
「この人が了承してくれたらね」
「おし、聞いてくる」
 そう言うと、彼は早速その貼り紙をちぎって、貼り主に声をかけていた。
「シュルです。よろしく……」
「俺はクライス」
「私はリエナ。今日はよろしくね」
 彼女が了承したため、軽く自己紹介をして三人で組むこととなった。
 シュルは紫色のセミロングの髪に紺色のローブを着込んだやや気の小さそうな女性だった。

 私の一連の体験のすべては、ここから始まった。

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