ラストシーン 「その後」 ガルフと共にクライスに説教をしてから数日後、マイルを見かけた私はクライスの様子を聞いてみた。 「クライス? ああ、あいつならチームを抜けたよ」 マイルは何でもないことのようにそう答えた。 「抜ける理由がさ、ガルフがむかつくから、だって」 「うわぁ……」 肩を竦めるマイルに、私は唖然としつつも、やっぱり、と思ってしまっていた。 「……恩を仇で返したわね」 「まったくだ」 溜め息と共にどうしようもなさを吐き出す私に、マイルも大きく息を吐いた。 今まで色々教わってきたというのに、酷い仕打ちだ。 「結局、変わる気はないってことね……」 小さく呟く。 ガルフの言葉は一切届いていなかった。凄い、師匠、と呼んでいたのは一体何だったのだろう。戦い方は少し変わったが、それもガルフに言わせれば最低限まともになった程度だ。 ガルフに教わったことはもう自分の知識や技術や経験だとでも思っているのだろうか。 どれだけ性格的に合わなかったとしても、ガルフは本来なら感謝しなければならない相手のはずだ。 「それで、あいつは?」 マイルにクライスの行方を聞いてみる。少なくとも、最近は首都バルアでは見かけていない。セイアもクライスとはあれから会っていないようだった。 別段会いたいわけではなかったが、全く興味がないわけでもない。 「さぁ、詳しくは聞いてないよ。ただ、ガルミュールからは暫く離れるって言ってたかな」 マイルは私よりも興味がなさそうだった。 ガルミュール王国を離れるとすれば、隣国のバシルアルシュ共和国か、さらにその向こうのベアナルーア皇国か。 ギルドは各国共通の組織として存在しているから、シーカーなら他国に滞在することも珍しくはない。 私のいるティシィたちのチームや、ガルフのチームはガルミュール王国を拠点として活動しているから大抵はガルミュール王国領内にいるが、受けた仕事の内容や気分転換、観光など様々な理由で他国に足を運ぶことはある。 「私たちと顔を合わせたくないってことでしょうね」 見え透いた考えに、苦笑する。 チームを抜けてもバルアにいればガルフと会う可能性は高い。ほとぼりが冷めるまでか、それとも向こうでやっていくのか、そこまでは分からない。ただ、少なくとも暫く戻ってくる気はないのだろう。 「自業自得だとは思うけど、どうする気なんだか」 マイルが小さく呟く。 クライスのあの性格が直らない限り、まともな仲間はできないだろう。ふと、以前ガルフがそんなことを言っていたのを思い出した。 考えてみれば、クライスに友人や仲間のような人を紹介された記憶はない。せいぜい交際していたセイアぐらいしかクライスの知人を知らない。 あの性格に付き合える人間が果たしてどれだけいるのだろう。ガルフが引き入れたチームでクライスが少しでも変わっていれば、もしかしたら違う結果になっていたかもしれない。そのガルフもさじを投げてしまったが。 マイルの言葉は、そんなことを指しているような気がした。 「そうね……」 思い返してみれば、クライスに対する印象や思いというものは一言で言い表せるようで、それでは足りない気もする。 不愉快な部分は多々あったし、迷惑をかけられたことも少なくはない。むしろマイナスな面の方が目立つ。 ただ、私がガルフと出会うきっかけになったのは確かだ。ガルフと出会い、マイルたち彼のチームメンバーとも知り合うことができた。そういう点では、クライスに感謝してもいいかもしれないと思う自分がいる。 とはいえ、クライスに同情はできない。 自分が心地良くあるためには、自分を取り巻く環境を心地良いものに保つことが必要だ。自分だけが心地良くとも、その振る舞いで周りにいる人が不快になるのなら、いずれ環境が崩れていってしまうのは当然のことだ。 他者も自分も心地良くあれるような、少なくとも不快にならずに付き合える振る舞い方、というものを理解できていない、理解しない、理解しようとしない人物が周りに受け入れてもらえるはずがない。 「ほんと、どこまで馬鹿なんだか……」 小さく呟いた言葉は街の雑踏に消えていく。 二度と会うことはないかもしれない。ただ、再会した時にクライスが変わっていることはもう期待できない。いや、期待するだけ無駄なのだろう。クライスという人物を見ていて、そう思ってしまった。 次に会うことがあったらどう声をかけるべきか。いや、そもそも声をかけるべきなのだろうか。 ああいう人間は気にするだけ損なのかもしれない。 「ねぇ、マイル。今日の仕事、一緒にどう?」 気持ちを切り替えて、マイルを仕事に誘うことにした。 「そうだね、折角だし行こうか。どんな依頼にする?」 マイルも特に予定はなかったらしく、快く引き受けてくれた。 ギルドの方へ向かって歩き出しながら、マイルと受ける仕事について言葉を交わす。 去った人間のことをあれこれ考えても仕方がない。気分的にすっきりはしないが、私にできることはもうない。違う方法で彼を変えることはできたのかもしれ ないが、私には思い付かなかった。思いついたとしても、それをやってまでクライスを変えたいと思えるほど親しかったわけでもない。そこまでするほど関係が 深かったわけでもない。 世の中には色々な人がいる。その中でもクセの強い一人としてクライスに会っただけだ。そう思っておくべきなのだろう。 少なくとも、こういう人物もいる、という経験にはなった。今後それが役に立つかどうかは分からないが。 これが私の体験したクライスという人物に関する一連の出来事だ。 細かい部分を述べるならまだ色々あるが、似たような話や展開が多いため割愛した。 あれから半年以上が経ったが、クライスは見かけていない。 今頃クライスはどうしているのか、とたまに思うことはある。 ただ、だからどうというわけでもなく、私は日々を過ごしている。笑い話にするにはすっきりしない微妙な内容だ。また会ったとして、関わるにしても面倒事や厄介事、フラストレーションが増えるだけで、良いことなどないのだろう。 私としては、愚かなシーカー(クライス)との話に続きが生まれないことを願うばかりである。 |
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