プロローグ 「ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード」 The long and winding road That leads to your door Will never disappear I`ve seen that before It always leads me here Leads me to your door * ふうっ。 暑い。 季節はまだ梅雨だというのに。 硝子 峻は、家から出てすぐにそんな風にゲンナリとしてしまった。 6月中なのに、朝っぱらから太陽はギラギラである。これから学校までの道のりを思い浮かべて、思わず漏れる溜息に辟易としていた。 「いってきーす」 やる気のなさが窺える声で、開けた扉を閉める。ガチャリと玄関が閉まって、なんだか隔絶されたような気分を味わいながらも、峻は灼熱地獄へと歩き出さなければならないのであった。 トントントン。 数段を降りてから次の一歩。それで我が家の敷地を越えて、公道へと一歩を踏み出す。 『あっ』 異口同音。隣の木橋さん家から、小川南の制服を着た小っちゃい女の子が出てきていた。 「樹理ちゃん」 峻は顔を綻ばせた。一つ年下の、小さい頃からの幼なじみ。140cm台の小柄な体と、ともすればボーイッシュとも言えそうな短い髪の毛。スレンダー(に過ぎる)ボディは夏服の薄着で強調され、大きな瞳が目立つ顔は小さい輪郭の中に絶妙なパーツ配置が施されている。 カワイイ。 誰もが抱く第一印象だろう。 「おはよう」 峻はニッコリ笑った。先程まで浮かべていた倦怠感も消えている。だってこんなにラッキーなことはないだろう。 しかし樹理は、そんな爽やか峻くんを、ヘの字に曲げた口で見上げていた。チャームポイントの瞳は睨みつけるように細められているのだ。 「こないだは驚いたよ。樹理ちゃん、聖哉くんと知り合いの女の子と友達だったんだね」 屈託のない笑顔。先週末の深夜の出来事で話題を探った峻に、樹理はフンと呟く。 「だからなに? あんたには関係ないでしょ」 「へ? でも、共通の知り合いができて、俺は嬉しいんだけどな」 「うるさいわね。あたしは、ミクがあの変態と付き合ってること、認めてないのよ」 ギロリ。擬音がまるで言葉になったかのように、そんな音が峻の頭の中に響いたのだ。 なんだか取り付く島もない。 「(汗)……そういや、あの二人、付き合うことにしたんだっけ。昨日メール来たよ」 「…………ギロリ」 「…………、う?」 峻は樹理のガンつけに怖気づいた。 その後でクルリと樹理が背を向けると、彼女は最後に肩越しにこんな台詞を言い置いた。 「あんたなんか、大っっっっ嫌いなんだから!」 そのまま駅に向けて歩を進めてしまう木橋さん。 なんだかますます、取り付く島もないのである。 「…………んぅ?(汗)」 峻は自分が嫌われている理由が分からず、釈然としない気分のまま自転車を引き出した。そして駅とは反対方向に体を向けると、チラリと後ろを振り向いて、樹理の小さな後姿を確認する。 その背中は何故だかイラついているように見えた。 (んぅむ……なんでだろ?) 皆目見当もつかないまま自転車に乗る峻は、首を傾げながら学校へ向かう道へと漕ぎ出した。 考えるのは樹理の事。 昔はこんなじゃなかったのになぁ そういう事である。 「いつからだろ? 俺、樹理ちゃんと仲良かったはずなんだけどな……」 思い出されるのは小学校時代。一緒になって泥んこ遊びとか木登りとか、時々おままごととか、そういうのを一生懸命やっていたころだ。 高学年になっても二人で仲良くしてたはず。お菓子作りに挑戦し始めた樹理と、味見係の自分。あの味は言葉では言い尽くせなかったが、そういえば今は改善されているのだろうか。 「中学の時も、そんなに仲悪くなかったはず……だよな? あれ? でもここら辺から記憶が……」 樹理が中学に入ったころは学校案内とかして、いつも一緒だったくらいなのに。それから段々と離れていって、そして……。 (俺が卒業する頃には、避けられるを通り越して睨まれることが多くなってたような気がする) う〜む。 峻は登校の道すがら、ずっと樹理のことを考えていたのであった。 まぁつまり、これは恋ですね。←ホントか? |
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