A wind errand of autumn shower
―時雨の風使い―

(Aシリーズまで)

 <作品紹介>
 当サイトの相互リンク先『ロンバルディア大公国』にて掲載されている投稿小説の一つです。

 自然界の力を一つだけ選び、戦う力にできる、ソリットビジョンと呼ばれる「ネットワーク上の仮想世界」を舞台に、主人公「風御津=鳩」を中心にした物語。
 リバースソリットビジョンで開かれた「特別競技」と称された戦いのイベントや、そこで出会う鳩の双子の妹に似た葵という炎使いの少女。
 鳩を「鍵」と呼び、自らを「存在しない存在」とする七人の黒いコートに身を包んだ者達の動き。
 それぞれの思惑と、陰謀。巻き込まれていく鳩の運命と、過去の記憶とは……。

 現在、投稿先『ロンバルディア大公国』にて連載中。
 <批評本文>

 まず、全般的に描写が薄い気がします。
 世界観についても、リアルと仮想現実(ソリットビジョン)の設定が薄く思いました。ソリッとビジョンというのが仮想世界で、リアルでは得られない戦闘能力を手に入れる事ができる、という点しか説明がないため、その他の背景が見えません。
 ソリットビジョンがリアルとどう違う世界観、景色、技術力背景を持っているのかが不明瞭で、リアルの時代設定や技術力なども判りません。
 また、ソリットビジョンでの生死がリアルにも還元されるという設定も、リアルが描かれていないために疑問点が浮かびます。もう一つの世界、というのがリアルではどう判断されているのかが判らないため、ゲーム感覚のようにも見えてしまいます。現実が本来の肉体の在り処なのに、ソリットビジョンでの生死やダメージが還元されるシステムというのはどういう設定になっているのかが見えません。ソリットビジョン内でのデータの改変などがリアルにどう影響するのか、危険な部分は多々あります。
 どんな装置を用いてソリットビジョンに来ているのか、主人公達はリアルでの外観や身体能力などをそのまま投影されているのか、説明が欲しいところです。
 また、4歳から命の遣り取りに参加できているというのも疑問です。この年齢では殺人者になりかねませんし(もしかしたらもうなっている?)、それが肯定される世界観であればそれを明記しておく必要もあります。この世界のモラルの問題として、世界背景や倫理観などは入れておくべきだと思いました。

 視点に関して。
 視点の動きが多く、人物が多い事もあって、文章が混乱している場所が見受けられます。主人公、鳩達の側にスポットが当たっている場所で、直接会った事のない人物の名前が出てくる部分が気になりました。
 冒頭付近では、地の文章が鳩の主観に近く描かれているため、三人称であっても名前は伏せて置いた方が良かったのではないでしょうか。完全に神様視点になってしまっているので、いきなり敵が現れたりした時に「こいつは誰だ?」といった驚きが薄れてしまいます。視点は、たとえ三人称視点でもどこかに固定し、スポットが当てられている人物にとって知らない者が出て来た時は「知らない人」として扱う方が良いと思います。
 初登場の人物の名前を直ぐに出してしまう前に、外観描写を入れるなどの「貯め」を挟むのも重要です。名前を出してしまうと、それ以後は名前を人物として扱ってしまいがちですから、サブキャラではない重要な人物に関しても外観描写や性格などをしっかり描いておかないと後々、誰だったか判らなくなってしまう事もあります。

 戦闘に関して。
 ここも描写がもっと欲しい部分です。風の剣、水の槍、などと表現されていますが、具体的にどういう形状をしているのか、形成されていく過程など、作者側のイメージを文章にすべきです。戦闘時の動きに関しても同様で、一挙手一投足とまではいかなくても、出来る限り細かくした方が戦闘にも緊迫感が出て来ます。
 また属性の強弱関係や、霊使いという上級タイプの設定も曖昧な気がします。霊の強さなどがはっきり定義されていないため、具体的にどう強くなるのか、といった部分が不明瞭で、戦闘描写の薄さとあいまって破壊力や戦闘力の差がはっきりしません。動きの強弱や力の強弱、放った攻撃のイメージやその強弱、ぶつけられた相手の吹き飛び方や距離感、防御した場合の相手の状態や目に見える消耗の変化、攻撃した側の動作や消耗具合、目に見える変化など、描ける要素は沢山あります。
 比較的戦闘が重要な位置にもあるように思いますので、注意して欲しい部分です。

 後は細かい点について色々と。

 個人的に気になったのは、風属性が弱い、という部分。実際のところ、風というものにはかなりの力があります。応用性も高く、圧縮して刃にしたり圧力や衝撃波に変えたりという事も可能ですが、それ以上に「大気」を意のままに動かせると考えれば更に幅は広まります。密度を薄くして真空状態にする事も不可能ではないはずです。また、炎も同様に大気密度を薄くすれば酸素を取り込めずに鎮火しますし、雷に関しても電流を最も通さない物質こそ空気なので防ぎ易く、水と混じり合う事もほとんどないのでそれを応用して受け止める事もできるはずです。唯一、圧倒的に密度の高い「地」には弱いかもしれませんが、使い方の幅を考えれば万能と言えなくもない力ではないでしょうか。
 また、実際のところソリットビジョンでは傷の治りは早いのでしょうか。傷を負うシーンの後、結構な短時間で復帰しているように思います。出血などの表現も全くありませんし。だからといって、打撃のダメージも場合によっては後を引く事も十分にありえるのでその辺の描写も欲しいところです。
 それと、記号の使い方ですが『・・・』は『……』と三点リーダを二個ワンセットとして使うの基本です。また、「〜」は多様せず普段は「ー」を使う方がいいですよ。「!」や「?」なども全角なら一つだけ、というのが基本だと思います。「!?」は私も使いたい時がありますが、セリフのニュアンスを吟味してどちらか一方だけにしています。

 物語の構成に関して。
 内容的には、中々面白いものでした。
 生死がリンクしているという事もあって、仮想世界というよりは異世界にいるという設定でも良いのかな、とも(説明が曖昧なので)思いました。今回の物語の舞台だった「リバースソリットビジョン」では「ソリットビジョン内での生死がリアルにも反映される」という設定が活かされておらず、生死の還元の必要性が感じられません。
 リバースソリットと通常ソリットの違いが描写されていないのもマイナスです。景色的に違いがないなら、そう明記すべき部分です。
 また、主人公、鳩と翔の性格で気になったのが、葵に対する態度です。翔以外を敵と認識していながら葵を倒すのを躊躇ったり、簡単に背を見せたりするのは戦う者としては浅はかだと思います。鳩が何かしら葵に思うところがあるならば、彼女の姿が見えた時点で何らかのリアクションを挿入するべきで、それが無いため、唐突な印象を受けます。また、葵が気絶した鳩と一緒にいるのを見て、翔は攻撃などしなかったのでしょうか。仲間である人物が気絶していて、その傍に誰かがいるなら敵と見做してもいいのではないでしょうか。
 加えて、ソリットビジョンがいつからあるのか、といった背景設定が触れられていないため「伝説」や「昔話」といった言葉が悪い意味で浮いて感じられました。
 同時に、現存するマンガなどを引き合いに出すのは避けるべきだったと思います。ソリットビジョンという、インターネット上の仮想世界を構築できるだけの技術力が現代にはありませんから、現実に存在するものを引き合いに出すのは減点対象です。

 全体的には、悪くない話です。今後の展開次第、といったところでしょうか。
 作品として完結していると見る事ができず、続きに依存してしまう設定や描写が多いため、この作品単体の批評としてはマイナス点になります。
 内容はじっくり練られているように思いますが、故に物語を進めるのを急いでいる印象を受けます。もっと落ち着いて、しっかりと情景や人物、心情の描写をし、作品としての土台を固めながら物語を進めないと薄っぺらい印象になりかねませんので気を付けて欲しいですね。
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