魔族戦記!

 <批評者(白銀)より>
 宮ちゃん♪の依頼により、現在このサイトで公開している『魔族戦記!』を批評しました。
 私のサイトの作品なので作品紹介は割愛します。

 宮ちゃん♪、批評するのに時間がかかって、申し訳ない!
 <批評本文>

 まずは全体から。
 総評としては深く練り込まれた良い作品だと感じました。様々なところに散りばめられたネタが笑いを誘い、この作品に対する思い入れの強さや愛を感じますね。
 ただ、残念なのは詳細な描写や説明をしようとする余りに説明過多になってしまっているところでしょうか。多過ぎる説明や描写は良いところもありますが、この作品では少々不要な文章も多いような気がします。そしてそれが読み進める上でのテンポを損ねているというのが欠点でしょうか。

 では、少し細かく書いていきましょう。
 全体的に人物描写はとても細かく丁寧で、そのキャラクターの雰囲気を直ぐに掴むことができるほどのものに仕上がっています。登場人物それぞれの個性が微妙な違いまで細かく描かれているところは流石の一言。
 また、この細かさや独特の書き方により、いわゆる「変人」の変態度合いが際立ち、物語を一層おかしな方向へ持っていこうとしています。知っている人にしか解らないようなネタも多々ありますが、ほぼ全てを知っている私にはこのギャグセンスはむしろ羨ましいくらいですね。
 人物描写の点においては細か過ぎるのではと思う程の描写量があり、会話の際の仕草やテンポは中々に絶妙です。聖と結花の会話は微笑ましく、聖と友人たちとの会話は馬鹿っぽく、結花と友人たちとの日常風景はまたほんわかした空気で、はたまた聖の仕事風景などの緊張感と、場面ごとの雰囲気ががらっと変わりながら違和感なくスムーズに移行していくのも好印象です。
 特に、「香美と聖の会話」や「ネタ満載の聖の夢」、「栞、佐緒里、喜代子の三人のでばがめっぷり」などは個人的に面白い部分ですね。ラブレターに無駄に冷静過ぎる聖はちょっとどうかと思いますが、そもそも変人として描写されているので、それを強調するエピソードとなっていたりします。
 また、「ページ数が足りないから、この巻では収録できないと思うわよ?」というのは作者の代弁に尽きるセリフですね。もっと入れたいエピソードがあったのに入れられなかったことを露骨に出してしまうのもどうかと思いますけれど(苦笑)

 文章は総じて高いレベルにある印象を受けますが、その代わりに描写が多過ぎて理解が追い付かない部分も見受けられます。
 例えば、第三章での「魔族と人間について」が解説される説明文は詳しく描かれているようにも見えますが、少々周りくどさが目立ちます。一度文章を読んだだけでは理解が追い付かないような文章表現になっているところもあり、人によってはそこでつっかえてしまう方がいるかもしれません。
 テンポを損ねる要因の多くは文章表現の回りくどさが挙げられると思います。
 丁寧に描写しよう、雰囲気を伝えようとしているのだろうとは思いますが、もう少し簡単な言い回しや解り易い簡潔な文章を選んだ方が良い場合も多々あるように思いました。
 サクサク読んでいけない部分があるというのはマイナスですね。
 ただ、散々回りくどく語った後での「長ったらしいので省略」には笑いましたけれど。

 設定などに関して。
 一つ気になったのは、第一章にて、『青葉女子は男子禁制、教諭は全員が女性であった』と書かれていましたが、その少し前には『半分禿げ上がった頭がスースーするのか、英語の担当教師はさっさと退室してしまった』とあり、ちょっと首を傾げました。これはちょっとしたミスでしょうか。
 また、聖は光になるという特殊能力を持っているわけですが、これに関して一つ気になることがありました。
 第六章にて、聖が重傷を負う場面があります。そこで思ったのは、負傷した部位を光に分解して自分の身体を元通りに再構築することもできるのではないか、ということでした。
 自分の身体のごく一部分を切り離して射撃攻撃に使用したり、レーダー代わりに光の粒子を周囲に解き放ったりしているのを見ていて、ならば自分の身体に戻す際に負傷した部分を元通りにするようにもできるのではないかと思ったわけです。
 ただ、ここで自己再生ができてしまうとその後の展開には繋がらなくなる可能性もあるわけですけれど。

 世界観的には、現代をベースに悪魔や天使といったポピュラーなファンタジー要素を織り交ぜたものになっていますが、物語は主人公とヒロインのラブストーリーに近く、ファンタジー要素はどちらかというとあまり前面には押し出されていません。
 日常生活やラブコメちっくな部分が前面に押し出されている印象ですね。ただ、そのせいで世界設定の説明部分が直接物語と関係しているところが少なかったり、その場面で説明を入れる必要はないんじゃないか、と思う部分もありました。
 日常生活に力を入れているような気もするので、もっと設定説明部分などはスマートにして、直ぐに本編に戻れるようにしたらテンポ良く読み進められたかもしれません。
 日常描写の中にも、ウケ狙いなのか余計な部分が目立つような気もしました。ただ、その余計なシーンが笑いを誘う部分であったり、サブキャラクターなどの特徴を描いている場面であったりもするため、削ってしまったら面白さが半減してしまうような気もします。
 特に、序盤の第一章、第二章はそれぞれヒロインと主人公の日常が描かれているわけですが、その中で登場してくるサブキャラクターがもう一方の側に登場したりということもあり、無碍にもできません。
 逆に、こういった周囲の人間関係が繋がっていく面白さがあったりと、物語の構成としては決して悪い部分ばかりでもないのが事実です。

 戦闘シーンでは、緊迫感や詳細な動作などで情景を思い浮かべることが容易です。
 ただ、やはりここでも説明文の回りくどさがテンポを損ねているのが残念なところです。動作描写や緊迫感などで描かれる躍動感が、直ぐ次に入る説明文章で途切れてしまっている印象が少々強いですね。
 その動作や次の行動、結果に至るまでに関わる設定説明は必要ですが、その設定説明で描写を切ってしまいがちなのが悔やまれます。動作の単語やその精密さなどはかなりのものだと思えるので、余計に。

 凝った文章にはなっていますが、凝っているというよりはただ回りくどいだけ、になってしまっている文章さえ読み易いものに変えることができればもっと洗練されてくるのではないか、と思います。
 物語自体は多少ベタなところもありますが、至る所に散りばめられたギャグや物語の展開、人間性などがそれをあまり感じさせないような出来にしていると思えます。
 また、起承転結を考えた時、展開や設定的には「転」と「結」で若干盛り上がりに欠けるような気もしますが、聖の内面や結花への感情などの人物描写がそれを補っており、終盤を盛り上げる重要なウェイトを占めています。
 逆を言えば、それが無ければ物語としてのカタルシスは少々物足りないものになっていた危険性があるのではないかと思います。
 描写関連は良質なものであると感じられますので、言い回しや展開の面が今後の課題と言ったところでしょうか。

 私個人としては、とても面白い作品でした。
 今後の作品に期待しています。
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