機動戦士Ζガンダム 〜宇宙の女帝〜

 <作品紹介>
 姉妹サイト「G−NeXt」にて公開されているオリジナルのガンダム小説です。

 宇宙世紀0087。
 Ζガンダムのリメイクというよりは、「私ならこう描く」というIfの作品として書かれたものです。
 内容としては原作とはかなり違っているため、「Ζ」の二次創作として見るべきではないかもしれませんね。
 <批評本文>

 今回の批評はいわゆる二次創作に当たる作品です。
 しかし、批評を依頼して頂いた著者様と、私の意見の一致により、「オリジナルのガンダム作品」として批評を行い、原作との比較などは行わない方針で批評させて頂きました。

 まずは全体的に読んでみて感じたことを。
 軍の内情描写は緻密に練られており、組織の内情や政治的な面においても説明や描写が充実しています。しかし、その反面、情景描写が少々乏しく、どのような場所で会話がされているのか、その会話の開始時点では判らないことが多いように思います。また、その場面場面での周囲の描写がほとんど無く、どのような場所であるかを述べられた時点でも具体的に思い浮かべることが難しいところも多々ありました。
 文章表現も巧みですが、良い意味ではクセのある、悪い意味では解り難い言い回しが少々あるように思います。
 誤字や送り仮名のミスなどもここからきているのではないかと思ってしまうほどに、普段は使われないような難しい漢字などがあったのは読み易さという点ではマイナスだと思います。
 また、その読み易さにも関わってくる部分ですが、括弧の使い方にも少し触れさせてもらいます。
 そのシーンにおいて主軸になっている登場人物は通常の「」で、通信回線などのように間接的に聞こえてくる声などは“”で括られていますが、これが逆に見難くさせてしまっている部分があります。作中では、モビルスーツの名称や戦艦の名称など、固有名詞が“”で括られているため、通信回線からの声に固有名詞が含まれる場合などは読み難いと感じてしまいました。
 それが悪い、という訳ではないのですが、快適性の面では多少マイナスになっている部分もあると思います。

 内容に関しましては、「淡々としていて、少々盛り上がりに欠ける」というのが私の正直な感想です。
 起承転結などについては問題なく、しっかりと構成されているのですが、どうにも平坦な印象が拭えません。
 前述の、軍組織の内情や政治関係の描写の多さや緻密さが逆に作品の起伏を平坦にしてしまっているような気がしました。組織の動きなど、シナリオの進行が緻密に創られている代わりに、他の部分での描写が少ないように思います。
 登場人物の心情についても、説明が唐突であったり、場面展開からやや遅れた位置にあったりと、シナリオに合わせて登場人物が動いてしまっているような気がしました。

 細かく見ていくと、チャプター1ではでは、エマが業を煮やしてパイロットに拳銃を突きつけるというシーンがありますが、ここの描写が少し引っ掛かりました。文章的だけを見ると、誰の頭に拳銃を突きつけたのかが判然としません。前後の流れから相手だと判断できますが、次の文も「狼狽するパイロットを睨みつける」という情報しかなく、自分に銃口を向けているように思ってしまう人もいるかもしれません。
 ただ、ここで重要なのはその文章ではなく、次の展開です。
 エマが焦っている、ということ自体は解るかもしれませんが、そこからモビルスーツに搭乗されては困る、という発想は少々急ぎ過ぎではないかと感じました。拳銃を取り出すエマを見てカミーユがあまり驚いていない点も、描写が欲しいところです。カミーユの反応を描きつつ、モビルスーツに搭乗されては困る、という発想に辿り着くまでにワンクッションあると良かったように思いました。
 同様にチャプター2での、クワトロとシロッコの掛け合いも、出だしが少々説明不足だと感じました。接触回線からの呼びかけであるはずなのに、モビルアーマーと接触したという出来事が描写されていないために、シロッコからの呼びかけが唐突過ぎるように感じました。どのように接触したのかも、振り解かれる場面まで行かなければ判らないのもマイナス点だと個人的には思います。
 チャプター8では、カミーユが失神した後の、帰還してからの場面が、何となく宙に浮いているような気がしました。私個人としては、カミーユが気づいてからの会話場面の方も見たかったですね。チャプターの区切りの部分でもないので、さらっと流さずに会話シーンを入れてもいいように思いました。

 総じて、作品としては上手くまとまっていると思います。
 ガンダム作品という観点から見ても、いわゆるファーストガンダムから地続きの続編作品として見ることもできます。宇宙世紀作品に基づいた時代考証もしっかりできています。
 モビルスーツというメカの描写も細かく描かれており、テレビ放映版のΖガンダムの原作アニメに登場した機体だけでなく、原作からアレンジを入れた機体もいくつかありますが、イメージし易くなっています。
 ガンダム作品としての組織性も細部まで描かれていますが、その組織性に重点を置くあまりか、部分的に他の描写が薄い印象を受けます。
 シナリオを重視しているという点は伝わってきますが、視点移動の多さと、それに加えての多方向からの会話の入り乱れた場面での描写はやや説明不足気味なところもあり、登場人物の心情描写のタイミングなどから、キャラクター性が少々物足りないように思いました。
 もともとガンダムという作品は登場人物の多い作品でもありますが、全員分きっちり描く必要性は無かったかもしれません。主人公のカミーユのみ、もしくは他に二、三人でも良かったかな、とも個人的には思います。
 今回の作品であれば、カミーユとシロッコ、もしくはサラにのみ焦点を当てて、他のキャラクターたちは視点とする二人の立場からのみ見える部分だけを描いても良かったのではないでしょうか。
 確かに、今回の作品ではカミーユが主人公だと解りますが、それにしてはカミーユの心情描写は途切れ途切れな印象を受けました。特に、クワトロを殴る場面では、そこに行き着く思考に納得するだけの心情描写が少し足りないように私は感じました。
 多くのキャラクターを描くことで組織性としての描写が確立されているところはありますが、敢えてキャラクターをもっと絞り込んで限定して心理面に力を入れても良かったかもしれません。これだけ緻密に組織的なシナリオがしっかりとできているので、登場人物の方にももっと描写が欲しいと思いました。
 ボリュームはありますが、物語としての厚みとしては物足りないと言ったところでしょうか。
 精神面、心理面での描写が少ない、もしくは薄く、感情移入がしにくくなっているように思えました。
 そのせいか、盛り上がって欲しいところで、読んでいる私自身の気分が高揚することがなかったのが残念です。

 高いレベルでまとまってはいますが、私個人の意見としては、もっと物語として起伏が欲しいところでした。
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