プロローグ


 その酒場には常に大勢の人がいて賑わっている。人の種類はバラバラだが、皆共通して武器を携えていた。
 大きな肉厚の大剣を持つ者や、槍を持つ者、巨大な斧を持つ者。中には、杖を持つ者もいる。
「で、依頼ってのは?」
 酒場の一角で、一人の青年が問いを投げた。
 長めの黒髪の下にあるのは、自信に満ちた瞳だ。鎧を身に纏い、黒い革のベルトを腕に巻きつけた青年だ。その腰には一振りの剣が吊るされている。
「吉田さん(26)を取ってきて欲しい」
 青年の座るテーブルの向かい側にも、青年が一人座っている。
 短く刈られた髪に、落ち着いた雰囲気の顔をした青年だ。法衣を着込んだ彼が携えているのは、杖だ。
「ああ、レアものの杖ね」
 『吉田さん(26)』という名称の杖があるのだ。
「ハニカミの杖、なら手元にストックがあるんだけどな」
「攻撃力が下がる杖はちょっとね……」
 剣士の言葉に、対する青年が苦笑する。
「しゃーない、潜るか。ワードは解ってるんだよな?」
 溜め息をついて、剣士は青年から情報を聞き出し始めた。

「――解った。二時間後にここで、だな?」
 剣士はそう言って立ち上がった。
「うむ、頼んだ」
「報酬も用意しといて貰うぜ?」
「それは約束する」
 青年の言葉に笑みを浮かべ、剣士は酒場から出て行った。
 レンガ造りの街並みの中を剣士は歩いて行く。夕焼けでオレンジ色に染まった街の中央にある大きな架け橋を渡り、大通りを奥へと歩いて行く。
 やがて見えてきたのは、薄い円形のオブジェだ。
 透き通った青いガラスの周囲を豪奢な金縁の枠で固めたものが、その場所で回転している。地面から浮き、水平方向にゆっくりと回転を続けるそのオブジェの前で、剣士は立ち止まった。
 剣士が立ち止まったすぐ後に、オブジェの浮いている真下から金色の陰が周囲に広がった。
「…………」
 その状態で沈黙したのも束の間、剣士の頭上に金色の輪が生じた。
 いくつかのリングが剣士を包むように上空から降りてくる。その輪に包まれた瞬間、剣士の姿がその場から消失した。

 そこは、雪原だった。
 街から消えた時と全く同じように、リングが生じ、降りてくる。最初のリングが地面に触れるのと同時、その場所に剣士が現れる。場所が変わった事に驚いた様子はない。
 それが当然のものだと知っているからだ。あのオブジェは、そういうものなのである。
「……エリアレベルは37か。楽勝だな」
 笑みを浮かべて呟くと、剣士は雪原を駆け出した。
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