ゲリラリラ長野支部・春の大感謝☆雪中サバイバル訓練!
「三月下旬のBurnin'Xmas! ――打算計算しつつ距離を詰めるインドの国技―― の巻」


1、プロローグ――あるいはカフェイン様の目覚め――

『カフェイン様(コーヒー温)とスルメを買ってきてください』

 ヤマゲリラは走った。
 2006、ワールドカップ・イヤーの三月。親善試合の日本VSエクアドル戦から遡ること一日くらい。移動性高気圧が通り過ぎ、つい二日前は雲ひとつない快晴だった筈の長野県北部。しかし前日、謎の陰謀によって雲を引き連れた低気圧が日本列島を覆い、時々に雨粒が降ってくるような蒸し暑い、雲行きの怪しい気配がやってきた。
 ――と思ったら、あら不思議。
 本日の天気は最悪だった。西高東低の冬型に逆戻りし、あの化け物寒気が再び日本の上空に襲い掛かったその日、長野県北部は突如として前日比10℃以上の急降下を辿り、朝っぱらからチラホラ雪が舞い始め、冷たい北風がビュウビュウと吹きすさび始めたのだ。納得できませんね。
 しかしゲリ長一同は諦めなかった。日中の最高気温が2℃などと言うどう考えても有り得ない気象条件であろうと、13日に同じ状況でサバゲを中止せねばならなかったゲリ長には、この日が春のラスト・チャンスであったのだ。
 そういう理由で、普通ならば考えられないようなこのコンディションでのサバゲの強行突破を決行したゲリラリラ長野支部。所用で合流に遅れていたヤマゲリラは、装備点検に手間取ったお陰で、予定よりも更に遅くなってしまった。愛車の運転席で多少の焦りを浮かべつつ、ヤマゲリラは助手席に置いた某コンビニ「711」の袋にチラリと目をやると、すぐ行くぞ、と呟く。
 ビニール袋の中には南澤@や宮ちゃん♪から頼まれた物が入っている。これを届けねば南澤@が大変なことになってしまうのだ。必ず赴く、その心はヤマゲリラの中で非常に強い。
 掌中のハンドルを強く握り締め。ヤマゲリラは一路、ヤマゲリ山近くのお寺様の駐車場へと急いだ。

 徒歩三分も掛からない距離なんだけどね。



「咲かせた赤い吐息を盃に!」
「注ぎ飲み乾すその先の華に酔う!」
「誰もに灼き付く夢の屍は!」
「二度と下がるつもりのない熱のよう!」
 ヒモとハルマの大合唱がヤマゲリ山麓入り口の階段前に響き渡る、そんな頃。
 正午過ぎの猛吹雪の中、ゲリ長一行は今まさに、サバゲ・フィールド、ヤマゲリ山に入らんとしていた。
「駆り立てて焦れ合えば痛みもない!」
「明日だけがこの胸を騒がせる!」
 強行行進中のゲリ長一行。ほとんど叫ぶような二人の歌声は、特に誰の心に響くことなく、強い北風に掻き消されてしまう。そこはかとなく諸行無常の雰囲気を湛えつつ、彼らは宮ちゃんの先導に従って、何とかかんとか階段を上り始めた。
「金属は大変滑りやすくなっております。あ、お気を付けください」
 ガイド役の宮ちゃんも、落ち葉の詰まった階段にやや恐怖しつつ、ノブサンの荷物を抱えたまま着実に歩を進めた。二十円で荷物持ちに雇われたんでゲスよ。
「まだ積もってないから良かったよね」
 ノブサンがそう言って後ろの南澤@に振り向いた。
「積もってたら大変だよ」
 足元に気をつけつつ、南澤@。
 難なく階段を上り終えた彼らに、宮ちゃんは例の看板を指差して、
「はい、『落石注意』! 皆さん気をつけてね!」
 などと言って歩みを再開。同時に皆は上を振り仰ぎ、まぁまだ大丈夫だろう、と下を向いて、何だか非常に急斜面にちょこっと怖気付く。
 しかしそんな中でも、ハルマたちの歌声は衰えを知らなかった。
「想が瞬を駆け抜けて!」
「紅蓮の碑を描く!」
「研ぎ澄まされた生命だけ!」
「その眸に潜ませて!」
 南澤@はノブサンの耳元に口を寄せた。
「なんの曲?」
「さぁ?」
 彼らはその歌を知らなかった。
 …………。
 なので宮ちゃんに聞くことにした。
「なぁなぁ宮ちゃん――」
「と〜き〜の〜……」
 ノブサンたちの声と歌声が被った。
 その瞬間に!
『露にー、き〜え〜る〜♪』
 サビだけ大合唱。
 ハルマ、ヒモ、ウィリアムス、更には宮ちゃんまでが大声を張り上げて、下の民家に非常に迷惑を掛けてるんじゃないかと思う訳ですよ。
「火花を散らす鼓動の銀は!」
「変わり続ける目映さに覚めやらず!」
 そのまま四人で歌い始めた宮ちゃん♪たち。ノブサンたちは、ふぅっ、と溜息を吐くのみ。
 結局、西川さんとこのcrosswiseだとは、分からぬままであった。



 ヤマゲリラは止まった。
 駐車場だからだ。
 助手席から「711」の袋を掴む。キーを抜いてからドアを開けた。身を切るような寒さが車内に流れ込んで、その乾燥した空気に思わず、自らの瞳を細めてしまう。空を見ると、雲もそれなりに薄くはなっていた。デジタル時計は四時過ぎであることを示している。遅れたな、と口の中で呟いた。
 座席を降りて後部ドアを開いた。緑のバッグがそこにはある。突き出たビニールは、入りきらなかったナイツのマズル部分だ。
 引っ張り出して肩に担いだ。
 ドアを閉める。ふうっ、と一息ついて、いま行くぞ、と声を出す。見上げる視線の先には、ヤマゲリ山の雄大な姿が存在した。
 ザッ、と足を踏み出すと、足下の砂利が靴底にかすかな感触を伝えてくれる。数歩ていど車から離れて、ヤマゲリラはキーを取り出した。
 ボタンを押し込む。すると藍色のスバル車が、光、と言う形で合図を返した。
 遠隔ロック完了!
 最近の科学は凄いですね。



 サバゲ・フィールドは猛吹雪☆
 午後一時ころである。
 ゲリ長一行は、昔は小屋のあったその場所に、自らの荷物を置くことにしたのだ。ちなみに小屋は台風のときに倒れていたので危ないからと、ヤマゲリラのおじい様が片付けてくれたそうです。ありがとうございました。
 そして彼らは、遅まきながらお昼をフィールドで済ませ、早速とばかりに装備の点検に入っているのである。
 ――が。
「寒い〜!」
 と言いつつ、カスコッ、と言う情けない音と共にボルトが閉じてしまう、そんなイングラムを見て宮ちゃんが悲嘆に暮れているのだ。当然だよね、日中2℃だもん。
 あああああ〜……というとても可愛そうな呻き声がヤマゲリ山塹壕付近には木霊していた。イングラム、ハイキャパ、クロステ92F、タクティ、パイソン、更にはハルマのメイン武器であるデリンジャーまで使用不能になってしまったからである。
「吹雪いてるもんなぁ……」
 視界に流れる白銀の結晶。それを眺めながらも、ノブサンがまるで他人事のように呟いた。彼はP90だからやっぱり他人事なのだ。
「淡々と言うなよぉ」
 宮ちゃんは相変わらずの情けない声でノブサンを睨んだ。今回の参加者が8名、そのうちヤマゲリラがまだ来ていないから7名だが、メインの武装となるべき装備がどう考えても足りないのである。
「ガスが使えればなぁ……」
「まぁ使えないものはしょうがない。なんとかやり繰りするしかないだろう」
「でも@さんがエアコキ1911で戦うことに……」
 すると名前が出てきた南澤@は、
「あ、私なら大丈夫よ。強いものは寧ろ怖いもの……」
「怖い?」
「高いから。(←値段が)」
 貧乏性なんですね。
「ああ、高いから。(←標高が)」
 宮ちゃんは別のところで納得した。
 まぁそれはしょうがないとして。
 ふふふっ、と怪しげな笑みを漏らしつつも、宮ちゃんが鞄の中からゴツイのを取り出す。
「そ、それは……!」
 ウィリアムスの驚愕!
「ま、まさか……!」
 ヒモの絶句!
「あ、カラス……!」
 ハルマの発見!
 それらの反応を全て自らへの賞賛と解釈した理解力の悪い宮ちゃんが、ぬははははっ、と謎の笑い声を上げて鞄から腕を引き抜いた! こう、グバーッ、て感じに!
「これぞ私の新兵器・G3『スリー・ライオンズ・スペシャル』バージョンだぁ――――!」
 宮ちゃんの手にはマルイさんのH&KG3SASが!
「おお、ついにお前も電動ガンを買ったか!」
 とノブサンが嬉しそうに叫んだ。
「おおよ! そこでこいつの威力をとくと見よ!」
 宮ちゃんは銃口を上げてセレクターをフルオートに合わせる。ニヤリと笑ってレッツ・ファイヤー!
 ガガガガガガガガガガガッ!
 ……………。
(ガガガッ……?)
 誰もがその効果音に疑問符を浮かべた。
「……弾が出ない?」
 宮ちゃんが首を傾げた。と、ノブサンがSASの銃口を見て驚愕する!
「うわぁー、何やってんだバカァーッ!」
 大慌てで宮ちゃんをぶん殴る!
 ゴッツン!
 殴られた宮ちゃんが、何なんだよぉと情けない声を上げると、ノブサンは激昂して、
「マズルを見てみろこの野郎!」
「銃口?」
 見てみてビックリ。
「キャップついてる!?」
 暴発を防ぐためのゴムキャップね。
 それを取らずにフルオートしてしまったのだ。マヌケですね。
 大急ぎでキャップを取ると、バラバラになった白色弾がボロボロと零れ落ちていく。
「あわわわわ……」
 銃口を下げると白い破片がポロポロと。
「あばばばば……」
 宮ちゃんは呆然として思わず銃口を覗いてしまった。危ないですね、真似しちゃいけませんよ。
 しかしノブサンたちは宮ちゃんが余りにも哀れで注意も出来ない。
 ハイダー部分に指を沿わせる。指先には白い粉が残っていた。
「ああああぁ……」
 ガックリ、と肩を落とした宮ちゃん♪。そんな姿を見るに耐えかねて南澤@が彼の肩に手を置いた。
「み、宮ちゃん……」
 その瞬間!
 宮ちゃんが唐突に顔を上げて、即座に誰もいない場所に向けて引き金を絞った!
 シュパパパパパッ。
「…………っ!」
 白色弾が連続で流れていく!
 パァッと宮ちゃんの表情が明るく輝いた。
 ホッ、とその場の空気も和んでくれる。一瞬の緊張感が嘘のようだった。
「撃てたー!」
 と宮ちゃんが両手を挙げると、
「いやはや全く、ずいぶんビックリしたぞ私は」
「買ったばっかで壊れたら洒落にならないもんな」
「朕も肝を冷やしたのぉ」
「でもなんか面白くなかった?」
「あー。もっかい見てみたいかも」
「宮ちゃーん、もっかいやってよ〜」
 などと好き勝手ほざき始めるではないか。
「うるせぇこの野郎! ぶっ壊れるわ!」
 宮ちゃんはハルマの茶化しに大焦りで怒鳴りつける。
 その後もやんややんやと続いたわけだが。
 マシン・チェックはマメにしましょうね。



 ヤマゲリラは歩いた。
 山道だからだ。
 雪は止んでいるし、別段、積もっているわけではない。ヤマゲリ山道は四つの入り口があるが、ここはそんなに険しいタイプの道ではない。しかしヤマゲリラは山の危険を熟知している。自家の土地である、そこがどの様な場所かも当然、承知しているのである。細くぬかるんだ土の道、それに前回紹介した通りの険しい上下の急勾配がある。下手に急いで足を滑らせる危険性は無視できない。ヤマゲリラは、焦りよりも落ち着きを重視しなければ本末転倒だ、という「急がば回れ」精神が根付いているのだ。
 なのでヤマゲリラは、ゆっくりと着実に、サバゲ・フィールドへと向かっていった。
 きっと着いたら宮ちゃんの連れてきた新人たちがサバゲに参加しているのだろう。前回のゲームにはヤマゲリラは出れなかったが、そのレポートには目を通しておいたのだ。中々に素晴らしいメンツが揃ったようで、彼としては会うのが楽しみなのだ。8人の参加者と言うのもゲリ長としては大所帯である。二・三時間しかサバゲは出来ないかもしれないが、それでも充分、楽しめるのではないかと思うのである。一年ほどのブランクだが、それでもヤマゲリラのサバゲ屋の血が騒ぐ。
「どんな事になってるのか……」
 ふふっ、と思わず笑顔を零しつつ、ヤマゲリラは着実に一歩一歩を踏みしめていった。
 頼もしいですね。



 ヤマゲリ山は風が強いのである。特に春先、北側からの猛烈な突風には、漕いでたチャリンコも後ずさる程の勢いになるのである。そして本日、ゲリ長メンバーを襲う吹雪はその北風に乗って異常なまでのパワーを発揮していた。
 装備等の保管場所にした荷物置き場は北側に山を降りるための道がある。そこは丁度、崖の部分でブッシュが薄い方向であり、ましてや下方に工場が存在する様なところは、当然のように北に開けて防風に役立ちそうなものは何もない。
 そんな中で彼らは、一際大きな声を出していた。
「こーごーえそうな!」
「季節に君は!」
「愛を!」
「どうこー!」
『云うの〜!』
「そんなん!」
「どーだって良いから!」
「冬の!」
「せいにして!!」
『あーたためー合おう〜!』
 ハルマとヒモと宮ちゃんとウィリアムスで西川さんとこのWHITE BREATHを大熱唱しているのだ。季節はずれの天候にピッタリなその歌に全員が辟易しているといっても良い。
 とにかく寒い。
 雪が防げない。
 っつうか訳分からん。
 前日比15℃近く減のこの状況に誰もが不平を漏らしてるのは当然のことだった。そこら辺はどうなのよ、お天道さん。
 つー訳で。
「さ、寒い……」
 ノブサンが歯をガチガチさせながら掌を擦り合わせる。既に数回の手慣らしサバゲを行っているが、それでも存分に寒いものは存分に寒い。吹き抜けになっているだけに、冷え性のノブサンならずとも、誰もがその恐ろしいほどの雪に鳥肌を立てているのだ。だから歌ってるんだけどね。
「しゃ、洒落にならんよこれは……」
 南澤@が代替カフェイン様の緑茶殿を片手に一言。でも冷たいから悪循環ですよ。
 とにかくこの異常な猛吹雪を、ちょうど四つの道の分岐点となっている小屋跡地で過ごそうとするのは、余りにも無謀なものなのではないかと思う今日この頃なのである。
 だからノブサンは、荷物置き場をこの場所から塹壕の方へ移動させるよう、南澤@と話し合っているのだが――
 ちらり、と二人は宮ちゃんの方へと目を向けた。
「タランティーノくらい、レンタルしとかなきゃなんて!」
「殴られた記憶もろくに無いくせに!」
 絶叫歌と化したWHITE BREATHで聞く耳持たなかった。
 ふうっ、と溜息吐きつつも、二人は顔を見合わせて首を傾げる。どうするよこれ、とアイ・コンタクトで伝えると、まぁ提案するしかないんじゃないの? と(アイ・コンタクトで)返答が返ってきたので、ノブサンは宮ちゃんに近づいてみる。
「おい宮ちゃん」
「今どきの強さ! ………なに?」
「あ、良いんだ」
 意外とあっさりこっちを振り向いた宮ちゃんに、さしものノブサンも多少の肩透かしである。
 気を取り直して。
「本部を移動しないか? 塹壕に」
「そやね」
「あ、良いんだ」
 こちらもあっさり。やっぱり肩透かしを食らったノブサンであった。
「私もここは寒すぎると思っていたところさね」
 と笑い始める宮ちゃん。その後ろで相変わらず熱唱が続いていたが、まぁそれは良いや。
 そんなこんなで皆は、荷物を置いていた山小屋の成れの果ての鉄板を持ち上げることにした。
 うっしょ、と掛け声ひとつで7人がそれぞれの場所を持ち上げる。凸凹の鉄板なので重量が均等に行かずにかなりの差異が出ているけど、そこはまぁご愛嬌で。ちなみに一番軽かったのは、丁度、凸っとしてる端の部分を持ち上げていた宮ちゃん♪でした。セコイですね。
 宮ちゃん以外の6人がヒーコラヒーコラ言いながら、宮ちゃんだけはそこはかとなく重そうな演技をしつつ、なんとか板を塹壕まで辿りつかせた。ゴロゴロ石が転がっているのでそれを隅に寄せてから荷物を置く。ふーい、と全員が息を吐いてから、それぞれの装備の再点検に入った。
「にしてもヤマゲリさんは遅いねぇ」
 宮ちゃんの言葉に、
「そうだな。2時か3時になるって言ってたのに、もう四時過ぎてるぞ」
「どうしたんかいね」
「迷ったんかな?」
「ありえないって」
「チャリンコが壊れた」
「いやいや。車だし」
「そっかー。じゃあ何でだろ」
「おっちゃんも心配たい」
「そやねぇ……」
 …………。
 ――ん?
 おっちゃん?
 ノブサンは宮ちゃんを振り向いた。
 なんだか青い顔をしている。こいつじゃない。
 宮ちゃんはウィリアムスを振り向いた。
 ウィリアムスは薩摩なので「おいどん」だ。
 ウィリアムスはハルマを振り向いた。
 ハルマは「ギロチンギロチン」と呟いていた。
 ハルマはヒモを振り向いた。
 ヒモは紐してるからおっちゃんとか言わないはずだ。
 ヒモはしょぼ助を振り向いた。
 サバゲ初参加の彼は普通に首を横に振った。
 全員の視線が南澤@に集まった。
 南澤@はゲチュンゲチュンしていた。
 宮ちゃんが驚愕の悲鳴を上げる。
「カフェイン切れだー!」
 逃げろぉぉっ! と咆哮のような絶叫が木霊する。一斉に全員が南澤@から一メートル以上の距離を取った。山道が狭いからそれ位しか後退されないんですね。
 ただ不幸なことに、塹壕の崖側にいた宮ちゃんは、運悪く自分の位置を忘れてしまったのだ。そのせいで南側に頭から突っ込んでしまい、急な斜面にヘッド・スライディングをかまして降下していくしか道はなかった。
 ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――っ!? という悲鳴が長く響く。前回のサバゲを連想させるような木霊をBGMに、南澤@がグッテェングッテェンした空気でユラリと立ち上がった。その陰のある表情に全員が圧倒される。
「おっちゃんげなこりゃ疲れるな」
 微妙な訛りが彼の口をついて出た。
「んんぅ、おっちゃんはこりゃ疲れとるわ。カフェイン様が無いからおっちゃん疲れとるわ」
 じりじりと、じりじりと、南澤@のプレッシャーがその場を支配し始める。
「おっちゃんはおっちゃんじゃー!」
 震撼する空気に全員が戦慄した。
「ど、どうなってんの? これ……」
 ヒモがノブサンに尋ねる。するとノブサンはゆっくりと首を振り、
「何故だかは分からない。しかし南澤@は、カフェイン分が足りなくなると、自称『おっちゃん』という特殊な人格が発生するんだ……」(←実話です)
「そ、そんな……。――ところ何で逃げたの?」
「『おっちゃん』は発生と同時に南澤@の自律神経に働きかけ、海馬と前頭葉を実質支配することが判明している。正常な記憶力と理性的な判断力を欠いた南澤@は、自身が何をしているのかも分からなくなるほどの自我の喪失をもたらし、恐ろしいほどの傍若無人振りを発揮するんだ。普段の冷静で変態な南澤@の変貌には、誰もが驚愕するんだよ」(←ここら辺はフィクションが混在しております)
「そんなぁ。どうやったら解決できるのさ」
「方法は一つだけ。コーヒーのカフェイン分を補充すればいい」
「カフェイン分? だったら南澤@は緑茶を持ってたじゃないか」
「緑茶カフェインじゃ駄目なんだ。コーヒィー・カフェイン様でなければ、ね」
「そんなぁ……じゃあどうしようもないじゃあないか!?」
「大丈夫だ。ヤマゲリさんが来ればカフェイン様を持ってきてくれるはず」
「でもヤマゲリラさんは……!」
「くっ……」
 ギリッ、とノブサンの奥歯が鳴る。どうすればいい? そう自問して、しかし回答は浮かび上がらない。その間にも南澤@の症状は悪化していくばっかりだ。
 ぬふふ〜ん、もほほ〜ん、と謎の泣き声を発しつつ、南澤@は徐々に覚醒して行っている。これ以上は危険だ、ノブサンの背が戦慄の冷汗に濡れた。
「おっちゃんは納得いかんぞえ! これな、カフェイン様がギロチンと直結してギロチンがギロチンでギロチンギロチンギロチン……きえーっ!?」
「やばい、南澤@が錯乱し始めた!」
 ノブサンは本気で、「これはヤバイ」と思ってしまったのだ。
「おっちゃんの料理が食えんとでも申すかぬしゃあ? こりゃおっちゃんも本腰入れてギロチンせねばならんばい、おっちゃんもおっちゃんがおっちゃ…きえーっ!?」
 マジで訳の分からないことを叫び始めた南澤@。誰もがそれを固唾を呑んで見守るしかない。
 ガッ! と塹壕から伸びた手が、そこらの石を掴んだ。
「やばい、おっちゃんが南澤@を完全に制圧している……」
 などと呟きながら宮ちゃんが這い登ってくるではないか。ご苦労様ですね。
 血塗れの顔面を引き摺って戻ってきた宮ちゃん。どうやら色々と当たり所が悪かったご様子。
 ぬふぅぅぅ…と南澤@が、長く、そして力強い吐息を吐いた。
「んぬぬぬぅぬ、アリススプリング!?」
「なんでオーストラリアの知名なのさぁ……」
「シドニーは消えているか!?」
「コロニー落ちてないって……」
「月は出ているか!?」
「カテ菌が居る時に言ってくれよぉ……」
 なんだか訳の分からないやり取りが『おっちゃん』南澤@と『そこはかとない死に掛け』宮ちゃん♪の間で繰り広げられていく。
 しかしとても噛み合わないその会話に、ノブサンたちはタジタジである。これ以上の暴走が続くのならば本気で南澤@が『おっちゃん』に乗っ取られる危険性が出てきた。そうなれば非常に危険なのだ。ヤバイ、これは本当にヤバイ。入り込めず呆然としている五人の誰もが冷や汗を流し、この現状をどうにか出来ないかと必死に考えをめぐらしていたが、誰もがその答えには辿りつけない。
 ノブサンは本気で、こう、願った。
 ヤマゲリさん早く来て――!
 その時。
 フッ、とノブサンの視界の隅に影が映った。。
 あれは――?
「ヤマゲリラ!?」
 誰かがそう叫んだ。
 ヤマゲリラはひょっこりと山道から顔を出し、おーい、と左手を振って来る。
 傍らで、南澤@と宮ちゃん♪の、グーテングテーンした空気を感じながらも、その場の全員がヤマゲリラの顔を見ただけで安堵を浮かべている。
「お待たせー」
 ヤマゲリラはにこやかに駆け寄ってきたのであった。

(ヤケに長い)プロローグ終了
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※お知らせ
1、新メンバーにヒモの親類・「しょぼ助」くんが「東京マルイM16A1(190連マグ装備)」を持って参加してくれました。
2、ヒモの携帯電話がau by KD○Iの「タフな男を演出できるケータイ」になったので、今日からハンドルネームが「ブラック・ロープ ――黒紐――」から「ブラック・ワイヤー ――黒鉄線――(通称ヒモ)」に進化しました。
3、ウィリアムスが「映画:スターリン・グラード」のバシリ・ザイゼフ(ジュード・ロウ)やケーニヒ少佐(エド・ハリス)に憧れて「マルゼンAPS−2」に装備変更し、スナイパーに転向しました。
4、宮ちゃん♪がついに電動ガン、「東京マルイH&KG3SAS(通称スリー・ライオンズ・スペシャル)」を手に入れました。
5、ノブサンの武装の中に「東京マルイ:電動グロック18C」が追加されました。
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