終章 「トリガー」


 立ち上った蒼い輝きは、自分が纏う光と同じだった。
 力を使っていなくても分かる。
 あの力が放つ存在感は、父のものだと。
「父さん……?」
 携帯端末から聞こえてきたのは、カソウ・ヒカルの声だった。
 震える声で、父を呼ぶ。
 聞こえてはいないだろう。それでも、呼ばずにはいられなかった。
「お父さん、生きてたんだ……」
 嬉しそうな声で、シーナが呟く。
 純粋に、父の生存が嬉しいのだ。
 だが、ユウキは喜べなかった。
「君は本当にカソウ・ヒカルだと言うのか!」
 ノイズ混じりに、何者かの声が回線に割り込んだ。
 恐らくは、国際連合の重役か何かだろう。
「ああ、お前らが殺そうとした、英雄だよ」
 父の声は据わっていた。
「世界を滅ぼすとはどういうことだ!」
 別の男の声が問いを投げる。
「言葉通りの意味さ」
 映像が拡大され、クレーターの中央に立っているカソウ・ヒカルが見えた。
「俺は、十分譲歩してきた」
 その姿は、間違いなく父だった。
「それを無碍にしたのはお前らだ」
 蒼い光を纏ったヒカルは、ゆっくりとカメラの方へと向かってくる。
「同じ人間であるアウェイカーを受け入れることのできない文明など、滅んでしまえばいい」
 恐らく、ヒカルに協力するアウェイカーが近くにいるのだろう。
 回線に割り込んで会話ができているのも、そういったアウェイカーの力が働いているに違いない。
「何を言ってるのか分かっているのか!」
「分かっているさ」
 蒼く染まった瞳は、暗く冷たい光を湛えていた。
「賛同する者がいるなら、俺の下へ集え!」
 声を張り上げて、ヒカルは叫んだ。
「リユニオンの名の下に、俺は、世界に宣戦を布告する!」
 映像はそれを最後に途絶え、音声もノイズだけとなった。
 ユウキは、呆然とリゼの持ってきた端末を見ていた。
「ヒカル……本気なのか……?」
 震える声で、ダスクが呟く。
「本気です……」
 それに答えたのは、ユウキだった。
 部屋にいた全員がユウキを見る。
「父さん……自分のこと、俺、って、言ってたから……」
 カソウ・ヒカルは公の場では私という一人称を用いていた。家族の前や、友人知人と会話する時だけ、素の自分でいる時だけ、俺という一人称を使っていた。
 つまり、ヒカルの本音だということだ。
 誰もが言葉を失っていた。
 カソウ・ヒカルという世界最強のアウェイカーが世界を敵に回して戦いを始めようとしている。
 いや、もう引き金は引かれた。
 既にアメリカの首都は消滅している。
「リユニオン、と言っていたな」
 ライズが小さく呟く。
「……父さん、何で……!」
 悲痛なユウキの声が、静かに響いて、消えた。

 ――第三部『リユニオン』へ続く――

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