プロローグ


 晴れ渡った空の下、草原を三つの影が進んでいく。小さな島を橋で繋ぎ合わせたようなフィールドだ。
 男が二人と、女が一人の組み合わせだった。
 女は大きな紫色の帽子を被っている。腹と背中が広範囲に露出している、一部だけを見れば水着のような衣装を身に纏っていた。男の一人は、黒と白を貴重にした服を身に着けた男だ。前髪で目が隠れているため、表情がやや判り難い。最後の一人は、薄赤い服を着込んだ少年だ。三人の先頭に立ち、前方に見える大きな神殿へと向かっている。
 神殿の中へ少年が入って行くのを見て、連れの二人は一度互いに視線を交わした。口元に笑みを浮かべ、少年の後に続いて神殿へと足を踏み入れる。
 厳かな雰囲気の中、部屋の最深部には宝箱が置かれている。少年が宝箱を開け、中身を手にする。
「ありがとう!」
 笑顔で振り向いた少年の目の前に、刃が突き付けられた。
「おめでとう」
 刃を突き付けたのは、連れの男だった。彼は笑顔のまま、刀の切っ先を少年の眉間の辺りへ持っていく。
「え……?」
「お礼は、お前の命ってことで」
 目を見開く少年を、男が嘲笑う。
「ひっ……!」
 後退る少年の背後の床に大剣が叩き付けられた。チェーンソーのように細かい刃の飛び出した大剣だ。刃が刀身に沿って動き、まさしくチェーンソーのような音を立てる。
「おっと、逃がしはしないでござるよ」
 女が口元に笑みを浮かべる。
 少年は絶句し、ただ呆然と女を見つめていた。
「間に合ったな」
 部屋に新たな声が響いた。
 三人の視線が入り口に集中する。
 青年が一人、女が一人、少女が一人の組み合わせの三人組が立っていた。
 言葉を発したのは青年のようだ。長い黒髪を首の後ろで縛るようにして纏めており、右目が隠れるほどに前髪も長い。袖がなく、背の部分だけ裾の長いコートを身に着けていた。左の腰には金色の紋章らしきもの着けている。紋章は腰のベルトと左腿のベルトの二つで固定されていた。コートの下には軽装の鎧が見える。胸部と肩は漆黒の装甲で守られ、腕には紺色い防具が装着されている。同様に、脚部も紺と黒を基調とした装甲と防具があった。ただ、ベルトのある左腿だけ防具がない。
 隣に立つ女の髪は真紅に染だった。胸部と腰部、脛は翡翠色の軽装甲で覆われ、薄碧色の布をパレオのように腰へ斜めに巻きつけている。首には長い布をマフラーのように巻き付けており、腿の辺りまで届く両端を背の方へ垂らしていた。両手には指抜きの籠手を着けている。腰にまで届きそうな紅の長髪と、翡翠色のマフラーが微かに揺れていた。
「助けに来たよ」
 ライトブルーの髪の少女が笑顔を見せる。言葉を向けられたのは、今にも殺されそうになっていた少年だ。
 胸元が大きく開いたタンクトップのような青い服に、厚手のロングコートを羽織っていた。コートは肩から上腕にかけて紺色の生地が重ねられており、更に厚くなっている。前面と左右の裾は脛の半ばまであるが、背面は腰までしかない。袖の下、腕には首筋までを覆う手袋をつけている。手袋の甲の部分には、水晶球が埋め込まれていた。
「なんだぁ、あんたら?」
 刀剣を手にした男が不愉快そうに青年たちに顔を向ける。
 黒髪の青年は右手を振り上げて背に回した。その手に、白い閃光を撒き散らしながら銃が生成されていく。
 同時に、両隣にいた女二人が駆け出していた。紅い髪の女は手に大鎌を、少女は両手に一対となる短剣を生成している。
 青年が銃口を前方へ突き出し、構える。
「破裏剣舞(はりけんぶ)っ!」
 刀剣を持つ男と、大剣を持つ女の中央に飛び込んだ少女が叫び、双剣を周囲に一閃させた。
 少女の攻撃を二人は刀身で防御し、反撃に転じようとする。
 次の瞬間、少女は飛び退き、紅髪の女性に場所を譲っていた。
「天葬蓮華(てんそうれんげ)……!」
 大鎌が下方から振り上げあれる。防御を解いた二人は空中に打ち上げられた。紅髪の女性は鎌を振り上げると同時に自らも跳躍、打ち上げた二人と同じ高さまで到達したところで鎌を横に薙ぎ払った。
「雷光閃弾(らいこうせんだん)!」
 鎌をまともに食らい、吹き飛ばされた二人に、青年の銃から放たれた閃光が命中する。
 二人の身体が地面に落ちてくる頃には、彼らの身体は色を失っていた。全身の色が抜け落ち、モノトーンとなった二人の身体は粒子に分解されるように消えていく。
「あ、あなたたちは……?」
 ほんの僅かな時間のうちに起こった光景に、少年は呆気に取られているようだった。
 目を丸くしている少年を見て、青年は口元に小さく笑みを浮かべる。
「俺たちは、傭兵だ」
 黒髪の青年は少年に手を差し伸べ、そう告げた。
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