第三章 第九話「変態たちの戦い方」 あの後、何回かの詰めの協議を経て、サバゲ計画は進んでいった。「決着をつける!」と意気込んでいた老貴兄弟ではあるものの、まだ転入早々なのでサバゲを共に戦うような友人が居ない、と中々にショッキングがカミングアウトをして聖哉たちを腰砕けにしたらしい。そんな訳で聖哉、春輝、秋寛、真二、祐人、輝、峻、啓一、伊佐樹、利一の十人から、5対5のインドア戦をやろう、と言うことになったのだった。結構日は早いほうが良いと今週の土曜日。皆それぞれに、久々のサバゲに浮かれたり、からかわれた憤りに頭に血を上らせたり、因縁の決着に闘志を漲らせたりしながら、今か今かと当日を楽しみにしていたのであった。 と、言うわけでそんなサバゲ当日。天気は快晴、6月中旬のため昨日までの雨のせいで蒸し蒸しした空気に多少ゲンナリしてはいるものの、全員がサバゲフィールド前に集まっているのであった。 この輝ける深い夜空、クォーターな上弦の月に照らされて、校門前は活気に満ちていた。 そう。 ここは公立小川南高等学校前であり、時刻はトップリ午後11時。 そしてサバゲのインドア・フィールドとは、非常識にも休み中の学校内なのであった。 「良いのかな……?」 という真二の常識的な疑問だが、そんな呟きは誰も聞いてはいないのである。 「みんなー、用意は良いかー?」 と祐人が声を張り上げると、全員が元気良く、おー! と答えてくれた。 「それじゃ皆。今から校内に不法侵入するぞ。事前に、この校門を始め、学校には大した防犯設備(監視カメラや赤外線探知機)が無いことは確認済みだ。よって、この肩くらいまでしかない正門を乗り越える」 やけに無防備な学校ですね。 するとそこに、春輝が手を挙げて質問の意を示した。 なんだ? と指されて口を開けるには、 「ここに『防犯カメラ設置!』と書いてある看板があります」 「それ、ハッタリ」 と答えたのは隣の啓一だった。 「気にしなくていいよ。先生もそれ嘘だって言ってたから」 ……………………。 どういう学校だよ、と誰もが心の中で思ったのだが、あえて誰もそれを口には出さない。 コホンと輝が咳払いして、 「なお侵入経路は南校舎一階の、西から四番目、空き教室の西から五番目の窓だ。鍵が壊れているのを授業中に確認してある」 (ほんとに無用心な学校だな) 聖哉を初め、この場の全員がそう思った。 「あと、これは立派なサバゲだからな。ゴーグル着用は義務付け、当たったらちゃんと意思表示をする、ヒットした人間を虐めないなど、基本的なルールはしっかり守るようにな」 最後に真二が全員に釘を刺すと、皆が真剣な表情で頷き、事前説明が終了した。 「よっしゃ皆、突入だー!」 祐人の号令一過、深夜の高校に生徒たちが不法侵入を開始したのであった。 * こうして見事、自分の学校への迷惑極まりない不法侵入を果たした十人。途中、峻が窓枠に引っかかって上着の裾を破いてテンションが下がると言うちょっとしたアクシデントに見舞われつつも、彼らは校舎内への潜入に成功した。そしてゲーム開始に先立ち、全員での武装と弾薬、ゲームルールの今一度の点検を経て、事前に決定していたチーム編成でそれぞれ南校舎と北校舎の反対側へと歩を進めたのである。 ちなみにそれぞれに武装及びチーム編成は次の通り。 ・老貴チーム(南校舎) 老貴 春輝:東京マルイH&KG36C(電動)、同シグ・ザウエルP226rail(ガス) 老貴 秋寛:同上 岩崎 真二:東京マルイP90TR(電動)、同ハードキック・デザートイーグル.50AE(ガス) 江藤 伊佐樹:東京マルイVSR−10PSV(エアー)、同グロック26A(ガス) 多比都 輝:東京マルイAK−47βースペツナズ(電動) ・上井チーム(北校舎) 上井 聖哉:マルゼンNEWイングラムM11CQBU(ガス)、東京マルイS&W・PC356(エアー) 瀬良 祐人:東京マルイM4s‐システム(電動)、同S&WM19・6in(ガス) 硝子 峻:東京マルイH&K・G3SG−1(電動) 丸田 啓一:東京マルイMP5A4(電動)、同M1911A1ガバメント(エアー) 里辺 利一:東京マルイUZIsmg(電動) * いかな公立高校といえど、深夜の誰も居ない校舎が大っぴらに蛍光灯を点けていたら怪しまれるのは当然である。 よってサバゲを敢行するに辺り、彼らは屋内での照明なしという厳しい環境を強いられたのである。 「そこで俺が大活躍〜♪」 聖哉は上機嫌で先頭を歩いていた。 彼のイングラムはマルゼン・スペシャルのCQBU。屋内近接戦闘装備として、フラッシュ・ライトが付いて来るタイプだ。残念ながらドット・サイトが付属していなかったので照準が物凄く難しかったり、サバゲは大抵、明るいうちに近所の山とかで決行されるのでライトが意味なかったりと踏んだり蹴ったりの装備だったのだが、本日ようやく日の目を見ることになったのである。ちなみにドットは今でも買ってない。だって金欠だから! あとは聖哉のほかにM4s-システムの祐人がライトを持っているのみ。なので彼は最後尾。そして後の三人は、聖哉の後ろから順に利一、啓一、峻が続いていた。 彼らは現在、北校舎の東側(保健室前)からスタートして、三階から四階への階段を上っている最中だった。 「ここいらかな?」 四階へと辿り着いた時、聖哉がきょろきょろと辺りを見回して、廊下の方を確認する。その仕草に全員が首をかしげ、 「どうするんだい?」 と聞いてきた。そこで聖哉は少し笑みを浮かべ、 「ジェラード、ギャラス、マルーダはこの階段を守っててくれないかな? 俺とリベリーは屋上に行く」 そう答えたではないか。 「屋上? 立ち入り禁止だろ?」 祐人が聞くと、 「ああ、鍵開いてたよ。こないだそこで昼寝した」 聖哉は笑って、「立ち入り禁止!」と書かれたロープを乗り越える。 「五限目に居なかったのはその為か……」 と三人が呆れる中、聖哉は利一を伴って階段を上がっていく。 「あと頼むよ」 手を挙げると、三人が諦めたように手を振ってくれた。 振り返り、正面を向く。んじゃ行こか、と利一に言って、屋上ドアのノブを捻った。ガチャガチャと壊れたように緩くなったノブは鈍く回転し、錆付いた音を響かせて開ききる。 「ホントに開いた……!」 利一が感嘆の声を上げる中、聖哉は固いコンクリートの上へと歩を進めて、綺麗な濃紺が広がる夜空を視界に入れる。所々で散発的な輝きを放つ星々は、明るい月に宇宙の主役を奪われているかのようだ。 聖哉は首を巡らせた。屋上を囲うフェンスが見える。聖哉の胸くらいまでしかない、立ち入り禁止の原因になった低いフェンスだ。そしてその奥には、住宅街の広がる閑静な町並みと、遠く輝く大都会の人工光が目に入った。 ん、と一つ頷いて、聖哉はスタスタとドアから歩いていった。 「先輩!」 「ん?」 聖哉の後ろから屋上へと入ってきた利一。そんな彼が聖哉を呼んだ。 「なに?」 「どうするんですか? こんなところに来て……」 「ああ。簡単なトラップでも作ろうと思ってな」 「トラップ?」 「そう。確か前に来たときは、あれが何故かここにあったはずなんだよ」 聖哉はそう言って、入り口の上の給水タンクの方へ向かおうとした。梯子を見つけて登ろうとしているのだ。 「そんな所にあるんですか?」 「うん。ちょっと待ってろ、見つけたらそっちに投げるから」 上でゴソゴソしだした聖哉。その様子に利一は一つ、溜息を吐いた。 そしてもう一つ、聖哉へと質問を投げる。 「先輩、まだ聞いてもいいですか?」 「んー? どうぞー」 「なんで俺を連れてきたんです?」 「…………?」 真意を探ろうと後ろを振り向く聖哉。利一はそれをジッ、と見返してきた。 「お前が必要だったからだよ」 聖哉はそっけなく答えた。 「お前の力が、俺には必要だったんだ。だから付いてきてもらった。手伝って欲しいんだ」 よっ、と立ち上がって、聖哉は利一を見下ろす。そして次に、ハハッ、と笑って、 「それにあの三人なら、コンビネーションも悪くないはず。防御をあいつらに任せたら恐いもの無しだろ?」 「まぁ、それは確かに……」 利一も笑った。その様子に、少し緊張してたんだな、と聖哉は考える。 「よっしゃ。あいつら待たせてもしょうがない、さっさと作業を済ませちゃおう」 そう言って聖哉は、利一の方へとある物を投げた。どさり、と少し重そうな音がして、それは利一の足元へと落ちてくる。 「こ、これは……!?」 利一は驚愕した。 そりゃもう、何でこれがこんなところに!? という具合の驚き様である。 「これを使ってどうする気ですか!?」 利一が慌てて聖哉に問いかけると、 「よっく聞けよ? これが安くて簡単、便利で愉快な特製トラップの真相だ!」 聖哉はそう、イヒヒとほくそ笑みながら宣言した。 * その頃の南校舎では、真二がリーダーシップを発揮して先頭を歩き、周囲を警戒しながら校舎内を進んでいた。 このメンバーは北校舎組みとは違って、伊佐樹以外は全員がライトを持ってしっかりと戦いに備えているのである。流石ですね。 「聖哉のことだ、戦術とか気にすることなくこっちに向かってるかもしれないから用心するんだぞ」 真二は後ろの面々にそう注意するが、 「祐人とかいるから分からないんじゃないのか?」 そう、輝が聞き返してきた。 「でも峻くんとかが暴走してる可能性は捨てきれないよね。そうなると祐人も用心しなきゃ駄目じゃないかな」 「ん〜。ありえる……」 こんな感じで相手の出方を勘繰ってると、 「先輩方、向こうを見てください」 春輝が唐突に指を指した。それに目を配ってみると、窓越しに北校舎が見える。そしてなんと、屋上からフラッシュライト特有の拡散する光が見えているではないか。 「……………………バカか」 思いっきり光が漏れてますね。 そしてこんな馬鹿をやるのは聖哉か峻か、どちらにしろ迂闊なことに代わりはないのである。 ふむ、と真二は頷いて、 「屋上で何やってるのかは分からんが……とりあえず北校舎の一階に回ろう。そこから二手に分かれて、東と西の階段から挟撃をかける。聖哉のこと、姑息にも屋上に通じる階段――つまり東側の階段あたりに見張りを立てている可能性は低くない。そこを用心しながら攻撃しよう」 素早く後続に指示を出した。 「分かりました。なら僕たちが東側に行きましょう」 「伊佐樹さんは狙撃銃だから、長い射程が条件になるはず。階段で下から上を見上げるより、廊下の距離を使ってスナイピングする方が効率的です」 老貴兄弟が互いに自分たちの意見を補い合った。その見事なコンビネーションに、「双子ってすげえなぁ」と感心しながらも、 「東側は危険だぞ。それに伊佐樹の狙撃能力を活かす為には、東側からの奇襲が大きな条件だ。お前らへの負荷はかなり大きなものになるだろう」 輝が確認するが、2人は不敵な笑みを刻んで頷いた。 「大丈夫、抑えることはできるでしょう。向こうが何かの作業に熱中している今こそ、これは最大のチャンスですよ」 決意は固そうだ。 「よし、作戦は決まりだ。輝、伊佐樹、俺について来い。双子は充分に自分たちの安全を確保した上で攻撃を仕掛けろよ。上手くいけばこれでゲームは決着する」 「はい!」 「任せてくれ!」 2人が優秀な回答をすると、彼らは一気に駆け出し、東西に分かれる渡り廊下へと走り出した。その先にある、手応えのある勝利を掴む為に。 |
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