第十五章 「救国のアルザード」
 
 
「では、ブリーフィングといこうか」
 正式に護剣騎士団の移動指揮所として整備された専用魔動車両の一室で、エクターは椅子に座る面々を見渡してそう告げた。
 セギマが《魔動要塞》によって陥落し、ノルキモ領となったのは《イクスキャリヴル》での応戦が決議されてから間もなくのことだった。
 侵攻されたセギマ首都は蹂躙され壊滅状態となり、その場に残っていた首脳陣もほとんどが命を落とした。《魔動要塞》の移動速度が遅かったため、民間人の多くは避難できたようだが、それでもなお《魔動要塞》の進路上の被害は甚大であった。
 首都陥落の後、《魔動要塞》は西、つまりアルフレイン王国へ向けて移動を開始した。
 それと時を同じくしてノルキモから宣戦布告が出された。
 《魔動要塞ハヴナル》によるアルフレイン王国への侵攻と《イクスキャリヴル》の打倒が宣言されたのである。
 となれば、敵対が明確でない限りは動かないという方針だったアルフレイン王国も静観はしていられない。
 アルフレイン王国からも《イクスキャリヴル》を擁する護剣騎士団による応戦が宣告され、アルザードとエクターはその準備に追われることになった。
 《魔動要塞》はその巨体と規模故に歩みが遅い。
 宣戦布告から、《魔動要塞》がアルフレイン王国領に到達するまでには相応の時間がかかる。アルフレイン王国が護剣騎士団を元セギマとの国境付近へ移動させるのには十分な猶予があった。
 だが、ノルキモによる宣戦布告と、それに応じるような宣言をしたことで、一時的にとはいえ《イクスキャリヴル》が王都を離れることが各国に知れ渡ってし まうことになった。《イクスキャリヴル》の不在は今のアルフレイン王国にとっては大きな隙を晒すこととも同義であり、故に王都は現在、近衛騎士団総出での 厳戒態勢となっている。
「規格外には規格外を、ってか」
 最前列に座るグリフレットが義手を交換しながら呟いた。
「あれだけのものを半年程度で一から開発できたとは考え難い。前々から設計や準備はしていたんだろう」
 魔動機兵と接続するためのグリフレット専用義手の最終チェックをしながら、エクターが答える。
 先を見据えて研究開発をしている技術者ならば、魔動機兵の発展型や、あるいは魔動機兵とは全く違う新しい概念を作り出そうとするのは何も不思議なことで はない。エクターが《イクスキャリヴル》という一つの形を考え付いたように、《魔動要塞》という形を考えついた者がいて、設計開発を進めていたというだけ の話だ。
「それをノルキモが運用しているというのが気になるところね」
 グリフレットと同様、最前列でエクターに義足のチェックをしてもらいながらサフィールが言った。
 土地柄や経済状況など、ノルキモの事情を鑑みると、《魔動要塞》の開発が不自然なのは事実だった。国の気質からすれば、《魔動要塞》のような存在はむしろアンジアの方が適している。もっとも、それを侵略に使うという発想はノルキモらしいと言えばらしい。
「ベクティア、というよりはモーガンの意向なんじゃないかな」
「と言うと?」
「僕が何かを作ろうとすることまでは読んでいた。だから、もしそれが何かしらの成果物を生み出した場合に、それを上回るものをぶつけられるように画策していたんだと思うよ」
 グリフレットの問いに、二人の義手義足のチェックを終えたエクターはスクリーンの前に戻りながら答える。
 魔動機兵の生みの親として一躍有名となり、地位も名声も手に入れたはずのモーガンがエクターに執着している。《イクスキャリヴル》の完成と公表がされ て、その生存を知ったのならまだしも、モーガンはエクターが研究開発を続けている段階でスパイであるヴィヴィアンを送り込んでいた。
 エクターならば何か画期的なものを開発するであろう、自分を脅かす何かを生み出すだろう、とでも確信していたかのようだ。
「あいつは神経質で粘着質でもあったから、蹴落としたはずの僕が何かしでかすのを恐れていたんだろう」
 モーガンにとって、共同研究を行っていたエクターは自身と同等以上の存在として映っていた。自分より上にいる者、並ぶ者がいることが許せないというエクターの分析が正しければ、そこがモーガンの執着に繋がっているのだろう。
 間近で共に研究開発をしていたからこそ、エクターならば更に上の何かを生み出せるだろうという確信もあったのかもしれない。
 実際、蹴落としたはずのエクターが、魔動機兵では相手にならない《イクスキャリヴル》という存在を開発して見せた。
「ま、それはそれとして、これから戦うのはモーガンではなく《魔動要塞》だ」
 モーガンが《魔動要塞》の操縦に参加している、という情報はない。そもそも、モーガンはベクティアに所属しているはずだ。いくら《魔動要塞》の設計開発に協力したからといって、本人が出張っているとは考え難い。
「兵器としての脅威度は《イクスキャリヴル》に匹敵する」
 これまでに諜報部隊が集めてきた情報を部屋にあるスクリーンに表示しつつ、エクターは言った。
 首都の制圧という為し得た事象はほぼ同等のもの、戦闘能力を見ても魔動機兵部隊では歯が立たない。マナストリーム砲も搭載しており、事実だけを並べれば確かに《イクスキャリヴル》と同等だと言える。
「加えて、要塞としての機能も持っていて、魔動機兵部隊との連携戦闘も可能」
 《イクスキャリヴル》と大きく違うのは、その巨体もそうだが、要塞として作られているところだった。
 内部に魔動機兵部隊が配備されており、移動拠点としての機能が充実している。即ち、魔動機兵部隊を内部から出撃させ、連携して戦闘を行い、回収後は整備も可能ということだ。
「搭載されている魔動機兵の数は推定でおよそ二十から三十。セギマとの戦闘時に確認されているのは《ノルス》や《ノルムキス》ばかりだ。これらの整備に用いる資材は、道中で制圧したところから接収している」
 移動拠点である《魔動要塞》がノルキモの外部部隊から補給を受けている様子は今のところ確認されていない。拠点を移動可能にするというだけでも、消費す る資材が莫大なものになりそうだが、それを《魔動要塞》は制圧した拠点や集落から得ているという。進路上にある拠点を襲撃し、そこにある資材を根こそぎ 奪って《魔動要塞》や搭載している魔動機兵の整備や維持に当てているらしい。
 セギマが首都を落とされて降伏したことで、セギマ領はノルキモに接収されたような状況になっている。アルフレイン王国へ向けて歩みを進める《魔動要塞》を邪魔するものはなく、進路上にあった拠点は補給地点のような扱いということだ。
「ノルキモらしい発想ね」
 サフィールが鼻を鳴らした。
「で、我々はこれから国境手前であれを迎撃しなければならない」
 《魔動要塞》がアルフレイン王国領に侵入するのを防ぐのが護剣騎士団に課せられた任務だ。
 単純に考えれば、魔動機兵の数が少ないアルフレイン王国が不利だろう。
「その《魔動要塞》だが、恐らくは目指すところは《イクスキャリヴル》と同じだろうね」
 エクターはこれまでに得られた情報から、《魔動要塞》の構造や設計理念を推測していた。
 彼の予想が正しければ、《魔動要塞》は《イクスキャリヴル》と同様、単機で戦況を覆すだけの力を持った新しい概念として設計されている。
「しかし、大きく異なるのはその動力システムだと言えるだろう。まず間違いなく、《魔動要塞》にオーロラルドライブのようなものは搭載されていない」
「断言できるのは何故です?」
 ギルバートが疑問を投げ掛ける。
「そもそも僕の開発したオーロラルドライブは単機で莫大な出力を得ること、機体を大型化させ過ぎず一人で扱えることを目指して設計しているんだ」
 エクターが開発した《イクスキャリヴル》は、魔動機兵としては一回りほど大型でありながら、《魔動要塞》のような大きさには至っていない。
 それは、エクターが《イクスキャリヴル》を魔動機兵の先にあるものとして、一人の騎手によって扱われる兵器として設計したからでもある。
「そうか、直列と並列の話か」
 エクターの言葉を聞いて、アルザードは転属直後にされた話を思い出した。
「そう、出力を増大させるだけなら、プリズマドライブを直列接続していくという方法が単純かつ分かりやすい」
 頷き、エクターは話を続ける。アルザードがオーロラルドライブの話を聞いた時にも、エクターは言っていた。
 現行の技術の応用で出力を規格外まで増幅させる方法として、プリズマドライブを直列に繋ぐ方法をエクターは挙げていた。一つ目のプリズマドライブで増幅 した魔力を、二つ目のプリズマドライブに入力し、増幅させて、三つ目のプリズマドライブに、と続けて行くのだ。当然、そうやって増幅を重ねていくとなれ ば、通常のプリズマドライブをただ繋げただけでは直ぐに増幅され続ける出力に耐えられなくなる。後に繋げるプリズマドライブを徐々に大型化させ、入力と出 力に耐えられるものにしていかなければならない。
 そして、それは即ち搭載する機体の大型化を招く。
「《魔動要塞》は、その理屈に当てはまるというわけだ。基本構造がプリズマドライブの直列接続であるなら、《イクスキャリヴル》のように規格外の魔力適性を持つ人材を探さなくても済むだろう。《イクスキャリヴル》との決定的な違いだ」
 莫大な増幅率を持ち、規格外の出力を得ることができるオーロラルドライブは確かに画期的ではあったが、唯一の欠点は使い手を選ぶということだった。
「僕の計算が正しければ、あれは一人では動かせない」
 これまでの情報からエクターが試算したところによると、《魔動要塞》を動かすだけの出力と魔力制御能力を得るためには、複数人で操縦する必要があると言う。
「機体の大きさや形状にここまでの差があると単純な比較はできないが、性能が同程度だとするなら後はそれを使う者の技量の問題だ」
 エクターの言葉に、皆が頷いた。
 出撃前の確認は一通り終わり、それぞれが己に与えられた魔動機兵へと乗り込むために、後続の貨物車両へと向かって行く。指揮車両の後部は《イクスキャリヴル》専用の格納ブロックが作られており、メンテナンスベッドに機体が寝かせられていた。
 その格納ブロックの天井が開き、アルザードの前でメンテナンスベッドがゆっくりと立ち上がって行く。
「とは言え、我々もこの半年近くをただ過ごしてきたわけではない」
 アルザードの隣に立ち、エクターも《イクスキャリヴル》を見上げた。
 アンジアの降伏からおよそ半年の間、アルザードはエクターと共に《イクスキャリヴル》の調整を続けてきた。結果的に、これまで護剣騎士団に出撃要請はかからず、近衛騎士団などを相手に《イクスキャリヴル》抜きで何度か模擬戦をした程度だ。
 逆に言えば、《イクスキャリヴル》を完成と言える状態にするためのテストと調整に時間を費やすことが出来たということでもある。
「故に、《イクスキャリヴル・アルヴァロン》」
 エクターが、目の前に立つ白銀の騎士の名を呼んだ。
 アルフレイン王国の古い言葉で、アルヴァとは始まりや終わり、頂点、到達点を、ヴァロンとは上に立つ者、辿り着いた者を意味する。
 即ち、《イクスキャリヴル》は完成に至った。
 銀と白を中心とした甲冑のような装甲には、金と青の縁取り装飾が施されている。胸部、肩、下腕、膝から下の装甲はやや厚くなり、背面には予備の高濃度エーテルパックの搭載数を増加させた改良型バックパックが装備された。
 そのバックパックには、根本から再設計された大口径ライフル型射撃武装ストリームランチャー、マナストリーム発生器を内臓した新型の中盾イクスシール ド、刃に高純度ミスリルを惜し気もなく使用した大剣イクスバスターソードが懸架されていた。その他、腰裏には小規模なマナストリーム爆発を起こすストリー ムグレネードを四つ、ミスリル製のダガーナイフも二つ追加で搭載している。
 傍らには、シュライフナールを改良発展させた新型の連携兵装ギュラナイが置かれている。プリズマドライブと直結した推進機構を後部に持ち、先端部分にはマナストリーム放射機構を備えたシュライフナールに近い形状ながら、柄に当たる部分は手で握れないほど太くなっている。
 シンプルながらより英雄らしく洗練された形状になった《イクスキャリヴル》をアルザードは一度見上げてから、操縦席へと乗り込んだ。
 ヘルムを被り、シートの裏から伸びている接続ケーブルを繋ぐ。アームレストの先のヒルトに手を伸ばし、触れてやれば《イクスキャリヴル》の目に光が灯った。
 鈴の音のような、高く済んだ透明感のあるオーロラルドライブ特有の駆動音が操縦席に響き始める。アルザードの全身に重圧の錯覚が発生し、機体と肉体の感覚が同調していく。
 機体の中で操縦している感覚と認識を持ちながら、《イクスキャリヴル》はアルザード本来の肉体以上の速度と精度をもって意思に応える。不可思議な感覚でありながら、万能感、全能感のようなものが湧き上がってきて、昂揚しそうになる。
「護剣騎士団、全機の起動を確認」
 通信回線から聞こえたマリアの声に、息を大きく吐き出して意識を落ち着ける。
 輸送車両の荷台からギュラナイと共に《イクスキャリヴル》を下ろせば、その目の前に仲間たちの機体が並ぶように立っていた。
 指揮を担うギルバートの《イクサ・エウェ》はベースとなった近衛騎士団機である《アルフ・カイン》に最も近い外見をしている。異なるのは、近衛専用機の ような装甲表面の縁取り装飾等がないことと、頭部にセンサーアンテナ、背面にレーダーパックを装備しているところだろう。レーダーパックには《イクスキャ リヴル》の察知した情報を受信する機能の他にも、魔術ソナーを発して周辺地形や魔動機兵反応などを把握するためのセンサーグレネードや予備弾薬が複数搭載 されている。また、中盾と一体化したような突撃銃を両手に装備し、腰の左右にショートソードタイプのアサルトソードを一つずつ携行している。総じて、バラ ンスと継戦能力、支援性能に長けた機体だ。
 その姉であるサフィールの《イクサ・レェト》も《アルフ・カイン》の面影が残っている。しかし、こちらは射撃戦闘に特化したゴーグル状の高精度センサー を頭部に搭載している。武装は銃身が折り畳み式の射程可変型突撃銃を二丁装備しており、折り畳まれている銃身を展開し伸ばすことで狙撃銃にもなる特注品 だ。近距離での戦闘はあまり想定されていないが、腰の左右には銃身下部にトリガーガードのようにダガーナイフが一体化したリボルバータイプの拳銃が近接用 の予備武装として搭載されていた。また、狙撃時の遮蔽物として利用できるように、裏面に展開式の支えを内臓した大盾も背負っている。
 グリフレットの乗る《イクサ・リィト》は、他の二機とは対照的に原型となった《アルフ・カイン》の面影はほとんど残っていない。機体前面と左右は、装甲 の代わりに小盾をいくつも貼り付けたかのようになっており、関節の隙間も丁寧に装甲で隠れるように設計されている。反面、背面側はフレームが剥き出しに なっているような部分もあるほどにバランスが極端だ。両腕にはアサルトソードを盾としても使えるようにしたシールドブレードが備えられ、携行する銃火器も 銃身を短くした取り回し重視の突撃銃になっている。背中を守るように予備のアサルトソードが左右で合わせて六本懸架され、腰にはハンドグレネードが三つず つ、腰裏に予備弾倉という構成だ。
「予測だとそろそろ国境付近から《魔動要塞》が視認できる距離に入るはずだ」
「今回の任務は単純です。《魔動要塞》とそれに付随する戦力の完全撃破、《イクスキャリヴル》の帰還、以上です」
 エクターの声に続いて、マリアが告げる。
「それと、この戦いは通信会話以外、撮影記録され全世界に中継される。大丈夫だとは思うが、無様な戦い方はしないでくれよ」
「まるで見世物だな」
 エクターの言葉に、グリフレットが軽口を叩く。
「あながち間違っているとも言えないかもね」
 サフィールも小さく笑う。
 事前に、この規格外同士の戦いを全世界に中継することは公表されていた。
 《イクスキャリヴル》が勝つにせよ、《魔動要塞ハヴナル》が勝つにせよ、この戦いが世界に与える影響は決して小さなものではないだろう。力と技術の誇示と言えば聞こえは悪いが、それは抑止力をも生む。
 頑なに敵対していた国家が話し合いのテーブルにつくことだってあるかもしれない。
 だが、何よりも、アルフレイン王国側からすれば、理不尽な力には決して屈さない、諦めないという姿勢を世界中に示し、そのための剣があることを見せつけることができる。
「英雄らしく、完勝してきなさい!」
「仰せのままに」
 気風良く言い放つマリアに苦笑しつつ、アルザードは敵が来るであろう方角へと《イクスキャリヴル》を向けた。
 自信がないわけではない。《イクスキャリヴル》の持つ力はもはや疑いようもなく、それを生み出したエクターのことも信頼している。アルザード自身がこれまでに携わってきた試験稼働も、実戦も、結果を出してきた。
 だが、油断はできない。
 これから戦うのは、《イクスキャリヴル》とは別の方向へ進化を果たした存在だ。
「……来るぞ」
 平野の向こうから、とてつもなく巨大な魔力の気配がゆっくりと近付いて来るのが感じられた。
「ここからの戦闘指揮はギルバートに任せる」
「分かりました」
 アルザードの指示に、ギルバートはやや緊張した声音ながらもはっきりと返事をした。
 これまでに王都で何度か行った、《イクスキャリヴル》抜きでの模擬戦においても、ギルバートは的確な指揮が出来ていた。元々年齢や階級といった上下関係 をあまり気にしないグリフレットは最初からギルバートの指揮に従うことに抵抗感を抱くことはなく、実の姉であるサフィールも初回こそ半信半疑ではあった が、弟の気質を知っていることもあってか、それ以降はギルバートの指揮能力の高さを認めた。
「で、今回はどうすればいい?」
「普通に考えれば、最大戦力でもある《魔動要塞》に《イクスキャリヴル》をぶつけて、僕らは付随する魔動機兵部隊を相手に《イクスキャリヴル》を援護するところですが、それではこちらが不利になります」
 グリフレットの問いに、ギルバートが作戦の説明を始めた。
 恐らく敵はギルバートが挙げた戦法を取ると想定しているだろう。
 実際、戦闘能力を考えれば《魔動要塞》本体は《イクスキャリヴル》で押さえるのが適役ではある。規格外の戦闘能力という意味では《イクスキャリヴル》でなけば《魔動要塞》に致命的なダメージを与えるのは難しいだろう。
 だが、それは敵も予測出来ていることだ。
「なので、《魔動要塞》を僕らが引き付け、撹乱している間に《イクスキャリヴル》は敵魔動機兵部隊の殲滅をお願いします」
 《イクスキャリヴル》と《魔動要塞》を除いた戦力を比較した場合、いくら《アルフ・カイン》をベースにした高性能機体とはいえ、護剣騎士団の魔動機兵は たった三機しかおらず、敵は要塞内部に格納した魔動機兵が二十から三十はいると推定される。《イクスキャリヴル》ほどの飛び抜けた性能を持たない魔動機兵 では、これほどまでの数の不利は覆し難い。
 障害物の多い市街地戦闘ならまだしも、平野では余計に分が悪かった。
 《イクスキャリヴル》が《魔動要塞》を破壊できたとしても、その時に援護と連携をするべき魔動機兵が全滅していては格好がつかない。護剣騎士団として部隊を編成した意義もなくなってしまう。
 そこで、ギルバートが考えたのは、戦闘能力の突出した《イクスキャリヴル》で数の不利を先に潰してしまおうというものだった。
「指揮車両は戦闘の余波が届かないように十分な距離を取っていて下さい」
「了解だ。観測を続けつつ、流れ弾には注意しよう」
 ギルバートの指示を受けて、指揮車両を含む部隊輸送をしてきた魔動車両たちが後退していく。マナストリーム等が飛び交えば遮蔽物も意味をなさないが、《魔動要塞》の進路上から外れれば、少なくとも踏み潰される事態は避けられるはずだ。
「では、行きましょう」
 ギルバートの号令に従って、護剣騎士団の四機は歩き出した。
 国境線を超えて、少し進んだところでそれは姿を表した。
 まるで山が歩いているかのような巨体を、巨大な建築物かと思うような足で支え、歩いている。八方に伸びた足は太く、分厚い壁のような装甲で幾重にも覆われていて、関節部分もいくつもの装甲で複雑に包み隠している。
 小さな町一つ分はあろうかという砦を、そっくりそのまま持ち上げているかのようだった。
「こいつは……実物を見ると迫力やべぇな」
 グリフレットも圧倒されていた。
「全長二千五百に、高さ四百だったかしら……」
 観測情報からの報告によれば、およそ二千五百メートル四方の敷地面積を持つ砦に足を付けたようなものだったはずだ。基地部分の高さは二百メートルから三百メートル程だが、それを持ち上げ、歩くために支える足の高さが百メートル近くはあるという。
「これを三機で押さえるってか」
 グリフレットが苦笑混じりに呟いた。
 ただ接近するだけでも難儀しそうだ。
 と、《魔動要塞》の方に光が見えた。
「撃ってくる!」
 アルザードは向けられた魔力を察知し、ギュラナイのマナストリーム放射機構を《魔動要塞》へと向けた。その動きに応じるように、三機の《イクサ》タイプが《イクスキャリヴル》の傍へと駆け寄る。
 柄の部分を挟んで《イクスキャリヴル》とは反対側に三機の魔動機兵が立つと同時に、柄からグリップが飛び出し、その足元に車輪のついた台のようなものが射出された。三機の《イクサ》タイプはそれぞれに足元に落下した台の上へ足を乗せ、ローラーソールを履く。
 アルザードは四機の前面を覆うようにマナストリームをシールド状に拡散展開させ、《魔動要塞》が放った閃光を受け止めた。
 すぐさま光が放たれた方へ視線を向ける。
 センサーカメラがアルザードの魔力と意思を汲み取って、見たい場所を的確に拡大する。
「《ダンシングラビット》……!」
 そこに映し出されたのは、《魔動要塞》の上から大口径狙撃銃らしきものを構える《ダンシングラビット》の姿だった。
 《ダンシングラビット》の手にある大口径狙撃銃は魔動機兵が扱うには異様に太く長い銃身を持ち、何本ものパイプが後方に伸びている。角度のせいで《イク スキャリヴル》からは見えないが、恐らくあの武装は動力が《魔動要塞》に直結しているか、あるいは専用の動力炉が後方に配置されているのだろう。
 《魔動要塞》の甲板上に、遠距離攻撃装備の魔動機兵が次々と姿を現す。同時に、要塞部分を支える足の生えた台座付近からは、展開したスロープを下るよう にして地上へと魔動機兵が出撃し始めた。ノルキモの《ノルス》や《ノルムキス》だけではなく、《ヘイグ》や《ジ・ヘイグ》の姿も混じっている。これまでに 鹵獲したか、制圧した基地から奪った機体だろう。
「距離を詰める! 舌を噛むなよ!」
 アルザードは言い、ヒルトのトリガーを引いてギュラナイを稼動させた。
 後方の推進器表面の溝に光が走り、斥力場が展開される。ローラーソールを履いた三機はグリップにしがみつくようにして、《イクスキャリヴル》はそのまま推力の発生と共に走り出す。
 前面にマナストリームシールドを展開したまま、四人は《魔動要塞》へと真っ直ぐに突撃する。
 飛来する弾丸や砲撃は全てマナストリームが掻き消してくれる。そうでなくとも、凄まじいまでの移動速度が敵に狙いをつけさせない。
 《魔動要塞》の腹の下に潜り込んだところで、グリフレット、サフィール、ギルバートの機体がグリップから手を離した。三機でまとまりつつ、《イクスキャリヴル》から離れていく。
「センサー連携を開始、射線可視化します!」
 ギルバートの声と共に、《イクサ・エウェ》の頭部センサーと背部レーダーの一部が変形、展開する。アルザードの《イクスキャリヴル》に何ら影響はないが、支援機のスクリーン上では、敵の武装から向けられる魔力線が赤いラインで表示されるようになっているはずだ。
 《イクスキャリヴル》の高い魔力感応性によって得られる周囲の魔力情報を《イクサ・エウェ》のセンサー系で受信し、部分的に可視化処理を施して一定範囲内の味方へ送信する。それが《イクサ・エウェ》最大の特徴であり、役割でもあった。
 《イクサ・エウェ》の処理能力を使用する関係上、機動性や武装に回せる出力など、全体的な性能がやや低下するというデメリットはある。だが、敵の攻撃を 事前に察知できるのは魔動機兵にとっては大きな強みだ。特に、乱戦下で視界の外からの攻撃を把握でき、その射線を辿ることで敵の位置を知ることができるの は大きい。
「《リィト》は回避と防御を中心に、《レェト》は《魔動要塞》の砲台の破壊を!」
「了解!」
 ギルバートの指示が飛び、グリフレットとサフィールの返事が重なる。
 射線の可視化で狙われている場所が分かれば防御もし易い。グリフレットは前に出て可視化かされた射線を利用して回避と防御を中心に《魔動要塞》の砲台や 周囲にいる魔動機兵の攻撃を引き付ける。サフィールは射線を辿って砲台の位置を特定し、バレルを伸ばして狙撃形態にした銃で《魔動要塞》各部に攻撃を加え 始めた。ギルバートはサフィールの盾になるように射線へ割って入り、中盾付き突撃銃で牽制と援護に徹する。
 だが、大きなアドバンテージがあるとしても数の不利は圧倒的で、そのままでは勝機はない。
 故に、ここからは《イクスキャリヴル》とアルザードの働き次第だ。
「ギュラナイ最大出力!」
 トリガーを強く引き絞り、気合を入れるように声を張り上げる。
 推力に回していた魔力を全て先端のマナストリーム放射機構へと送り、シールド状に展開していた閃光を前方へと開放、収束させていく。長さを増していくマナストリームを振り回しながら、アルザードは《イクスキャリヴル》を走らせた。
 地上に展開した魔動機兵を片っ端から柱のようになったマナストリームの光でまとめて薙ぎ払い、それをそのまま《魔動要塞》の脚部にも叩き付ける。
 ミスリル素材も複合された分厚すぎる装甲を削り取るには一瞬だけの接触では足りない。金属を溶断するように、マナストリームを浴びせ続ける必要があった。それでも、巨体を支える塔のような構造物を断ち切るのにかかる時間としては破格だ。
 移動に使う脚と、支える脚、一つずつでも破壊できれば《魔動要塞》の動きを封じられる。
 だが、その前にアルザードが優先すべきは魔動機兵部隊の排除だ。連携する支援機を失わず、活かすためにも数の不利の中戦う彼らを狙う敵を最優先に狙う。
 敵意の乗った魔力の流れが手に取るように分かる。可視化されていなくても、目に見えていなくても、そこに攻撃の意思の流れがあると分かる。
 《魔動要塞》から放たれ、地上を走る《ノルス》を横合いから蹴り飛ばし、その向こうにいる《ヘイグ》へ叩き付けた。そこにギュラナイが放つ光を浴びせ、振り回して周りの数機を消し飛ばす。
 脚を支えるフレームの中ほどにある出撃用ハッチから銃で攻撃している《ジ・ヘイグ》にはストリームグレネードを投げた。閃光が炸裂し、局所的なマナストリーム爆発がそこにあった全てを呑み込む。
 ギュラナイを振り上げてフレームにマナストリームを浴びせ、返す刃で味方へ近付こうとする集団を消し潰す。
 《魔動要塞》の脚部フレーム上にあるいくつかのマナストリーム砲が《イクサ・エウェ》や《イクサ・レェト》の方に向けて光を放つ。その射線上に割って入 り、ギュラナイのマナストリームを広域展開させた。プリズマドライブが唸りを上げて、厚みを増した閃光が砲撃を受け止める。
 その間に、射線と防御範囲から離れたサフィールの《イクサ・レェト》がマナストリーム砲を狙撃していく。外部からの攻撃で砲身フレームの一部にでも歪み が出来てしまえば、マナストリーム砲はその出力や狙いを維持できない。相応に装甲は厚くしてあるだろうが、《イクサ・レェト》の可変型突撃銃が放つミスリ ルコーティングされた弾丸はそれを貫いて見せた。延長した銃身内部に施された魔術回路が威力と精度を向上させている。サフィールの狙いも申し分ない。
「足を止める!」
 地上の魔動機兵部隊を倒し尽くしたところで、アルザードはギュラナイを《魔動要塞》の脚部関節へと向ける。限界まで出力を上げて、城壁のような脚を削り切った。
 膝にあたる場所の関節を破壊して、移動力を奪う。八本ある脚のうち、四本目を切断したところでギュラナイのプリズマドライブが限界を迎え、沈黙した。首元背面から濃度の低下したエーテル廃液を吐き出す。
 同時に、《魔動要塞》がその自重を支え切れずに傾き、倒れ込んだ。
「出撃用のハッチから内部に突入します! 《イクスキャリヴル》は上層の敵を!」
「了解だ!」
 すかさずギルバートは次の指示を出し、支援部隊三機が《魔動要塞》内部への進入口へと向かっていく。
 《イクスキャリヴル》はその場に機能停止したギュラナイを置いて、傾いた《魔動要塞》の縁へと向かって跳躍した。背面ラックに懸架されていたイクスシールドとストリームランチャーを手に取り、一息で《魔動要塞》の上面甲板へと飛び上がる。
 傾いた甲板の上で、狙撃銃型のマナストリーム砲を構えた《ノルムキス》たちが出迎える。
 左手に装備したイクスシールドからマナストリームを展開し、狙撃を防ぐ。固定砲台のマナストリーム砲に比べ、単発だが圧縮され高出力となっているようだ。
 断続的に放たれるマナストリームを防ぎ、かわしながら、右手のストリームランチャーの狙いを一機の《ノルムキス》に定めてトリガーを引いた。
 やや重い射撃反動と共に、銃口から光球が放たれる。銃身後部がスライドして、薬室部分からカートリッジが排出された。発射された光弾は《ノルムキス》の 首元に命中し、次の瞬間には爆裂して一回り大きな光となってそこにあるものを削り取って消滅した。後に残ったのは《ノルムキス》の手と腰から下だけだっ た。
「新設計のランチャーはどうだい?」
「相変わらず凶悪だよ」
 笑みを含んだエクターの声に苦笑しつつ、アルザードは甲板から甲板へ、ステップを踏むように飛び回りながらストリームランチャーのトリガーを引いて行 く。《ノルムキス》の持つマナストリーム狙撃銃と真正面からぶつかりあっても、ストリームランチャーの光弾はそれを弾くように掻き消して狙った場所に着弾 した。
 初陣の際、出力が予想を遥かに超えていたために照射兵器となってしまったライフルを鑑みて、エクターは一発に消費する魔素をカートリッジという形で物理的に制限する方法を考えたのだ。
 予め一発分の魔素を圧縮してカートリッジに詰め込んでおき、発射時にマナストリーム化魔術を施して撃ち出す。同時に、狙った座標あるいは物体との接触で 小規模なマナストリーム爆発を起こして消滅するようにも魔術指定している。高価な部品と高い技術、そして《イクスキャリヴル》とアルザードの莫大な魔力出 力があればこその芸当だった。
 予備のカートリッジパックが尽きる頃には、《魔動要塞》上層でマナストリーム狙撃銃を持つ魔動機兵はほぼ壊滅していた。魔動機兵部隊を展開させるための 甲板は穴だらけになり、いくつかは折れて地面へと突き刺さっている。砲台も多くが沈黙し、残っているのは辛うじて攻撃を逃れることができた魔動機兵が数機 程度だった。
 その中でも、《ダンシングラビット》だけは最後までマナストリーム狙撃銃を手放すことなく攻撃を仕掛けてくる。
 ストリームランチャーを背部ラックに戻し、大剣へと持ち替える。エーテル廃液が《イクスキャリヴル》の背に描く虹の煌めきをを翻し、傾いた甲板の上を駆ける。
 大剣イクスバスタードソードの刃が淡く光を帯びる。高純度ミスリル金属を積層したその芯には魔術回路が刻まれており、《イクスキャリヴル》の魔力を受けて剣はアルザードの意思を宿す。
 物陰に身を隠そうとする《ダンシングラビット》を追い、剣を振るう。《イクスキャリヴル》の身長ほどもありそうな《魔動要塞》の構造物を刃は抵抗なくす り抜けるように両断した。その裏にいた《ダンシングラビット》の手にあった狙撃銃が半ばから崩れ落ち、魔動機兵が狼狽えるように後ずさる。
 《イクスキャリヴル》の胴体ほども幅のある剣を片手でナイフのように振り回し、横合いから飛来した弾丸を防ぐ。幅広のミスリル刃はそれだけで盾としても機能するほどの強靭さを発揮する。内部に施された魔術回路に魔力が流されていれば、その硬度は更に高まる。
 目の前から逃れようとする《ダンシングラビット》にそのまま刃を叩き付け、崩れ落ちる機体が甲板に倒れ伏すよりも早く撃ってきた敵機の前へと移動する。
 勢いのままシールドバッシュをしてやれば、《ノルムキス》は後方へ吹き飛んで壁に減り込むように叩き付けられて動かなくなる。
 巨体と数を物ともせず、《イクスキャリヴル》は荒れ狂うようにその力を振るい、破壊の限りを尽くしていった。
「報告! 管制室を破壊しましたが、最後に動力機関を暴走させたようです!」
 《イクサ・エウェ》からの通信と、《イクスキャリヴル》が異変を感じ取ったのは同時だった。
 これまで《魔動要塞》を動かすために莫大ながら一定の大きさと存在感を放っていた魔力反応が歪み始めていた。
 内部に突入した三機の支援部隊は内側から要塞の施設を破壊しながら管制室を目指した。《魔動要塞》の操縦席とも言えるブロックを探し出し、破壊することで機能を停止させるために。
 だが、どうやら敵の指揮官は敗北を悟って自爆を選んだようだ。
 《イクスキャリヴル》で魔力反応を感じ取ろうとすれば、《魔動要塞》の中心部で行き場を失った魔力が暴走を始めているのが分かる。許容量を超える魔力増 幅の連鎖が起きている。歪に膨らんだ魔力が、直列接続されたプリズマドライブで加速度的に増幅されている。それぞれのプリズマドライブが出力できる限界を 超え、自壊するほどのエネルギーが次へと渡っていく。
「まずいな、この規模のマナストリーム爆発はもしかするとベルナリアまで届くかもしれない」
「おいおい逃げても無駄ってことか?」
 《イクスキャリヴル》らによって測定された数値からエクターが出した答えに、グリフレットが声をあげる。
「戦闘中に解析していたが、構造は予想通りプリズマドライブの直列接続だ。これが、接続方向への指向性を持って暴走させられている。超巨大なマナストリー ム砲みたいな状態だ。まぁ、結局のところ中心地である《魔動要塞》周辺は軽く吹き飛ぶし、指向性が生まれているのは偶然だろうが」
 冷静に分析するエクターの声を聞いていたアルザードもまた、何故か慌ててはいなかった。
「……どうにもならないの?」
 サフィールのどこか落ち込んだような声がした。彼女にしては珍しい。
「規模が桁違いだから、そうだね……」
「それ以上の魔力を叩き付けるってのは、どうだ?」
 考える素振りを見せるエクターに、アルザードは問う。
 あれだけの巨体を支え、動かし、攻撃までしていたのだ。単純な魔力量では《イクスキャリヴル》以上の出力を発揮していたと言って良いだろう。
 マナストリームを浴びれば《イクスキャリヴル》とて無事では済まない。
 だが、絶望するのはまだ早い。
 否、その必要はないと、《イクスキャリヴル》が教えてくれているような気さえする。
「マナストリームのようなものなら、それ以上のもので押し潰せばいい」
 暴走し、純粋なエネルギーと化した破壊力の塊はマナストリームのようなものだ。そこにあるものを、魔素さえも自壊させるほどの出力をぶつければ、相殺できる。
「言ったのなら、やってみせなさい」
 マリアの良く通る声が、アルザードの背を叩く。
「仲間も、国も、私も、守り、救ってみせて」
「ああ……任せろ!」
 《イクスキャリヴル》は《魔動要塞》の上から飛び退くようにして、国境を背にして残骸の前に立つ。
 一瞬遅れて、脱出してきた三機の魔動機兵がすれ違うように通り過ぎて行った。
 腰の左右からマナストリームソードを抜き放ち、頭上に光の剣を重ね合わせるように掲げ、構える。
 目の前で膨れ上がり残骸を呑み込み始めた光の本流を見据え、アルザードは大きく息を吸い込んだ。
 意識を、思いを、これまでよりも深く、機体に重ね合わせるように研ぎ澄ます。
「《イクスキャリヴル》――!」
 その名を叫ぶように呼び、ヒルトを掴む両手を力強く握り締め、思いを込める。
 オーロラルドライブの澄んだ音が操縦席を満たす。
 アルザードの中を流れる熱が体から溢れ出して、機体の隅々へと浸透し、自分が広がっていくかのような錯覚があった。
 重ね合わされた光の剣はその輝きを幾重にも増していく。思いが魔力となって機体の全身を駆け巡り、魔術回路と同じミスリル製の装甲が光を帯びる。
 光り輝く鎧を纏った白銀の騎士はその背に虹を纏い、靡かせて、極彩色に煌めく剣を振り下ろした。
 刹那、辺りは時が止まったかのように静まり返った。音もなく、風もない。温度も、色も、何もかもが無くなかったかのように、全てが静止したかのように。
 そして、次の瞬間には光の柱が《魔動要塞》のあった場所に立ち上っていた。
     目次