第四章
 第十三話「試合終了で因縁終了」



  ロングボールの跳ね返りである。守備ラインを後退させて待ち構えた所を、密集地で拾った春輝が、ピッチの中央を余裕を持ちながら運んでいく。ハーフライン で敵が詰めてきそうだと判断したら、守備の手薄な右サイドに簡単に渡すと、峻が少しだけ加速してドリブルを開始。正面が距離を取りながら警戒するので、右 足を持ち上げて、ボールの外側から内側に切り返すフェイントを入れた。続けて反対側もフェイント、また右に戻って、左、右、左。軽快なステップ・オーバー でオコチャ・ダンスを披露する。
 その、翻弄する妙技にディフェンダーの視線が躊躇したのを見極めて、タッチライン際にボールを蹴りだし、抜きにかかる。虚を突かれたサイドバックの横に 並ぶも、彼はこれ以上の突破を許すかと、意地を見せて喰らい付いてきた。腕で互いをブロックし合いながら深くに侵入すると、峻は抜き切らないままクロスを 上げる。
 低い放物線を描いて巻いてくるセンタリングを、コースに入ったセンターバックが飛び付いて大きくクリア。高く上がって中央付近にまで達したボールを見届 けた審判が、選手の疲弊しきった表情に素早く目を通し、ロス・タイムの省略を決断する。まだ時計は若干の余裕を残してはいるが、審判の一年生は笛を口に咥 えると、大きく三回、尾を引く程度に息を吐き出して、試合の終了を告げたのだ。
 ピッ、ピッ、ピーッ。と鳴り響くホイッスルを聞いた瞬間、激烈な太陽光に打たれ続けた男たちは大粒の汗を振りまきながら、ほぼ全員がグラウンドに膝をつく。中にはグデーッ、と四肢を投げ出し倒れ伏す者も表れたが、勝者と敗者の表情はまるで正反対であった。
 そして、観客席の歓声は、たった4人の少女たちの黄色い声だけであり、暑い中を無理くり駆り出されたサッカー部リザーブの面々は、呆れたような気落ちしたような、そんな表情でレギュラー陣を見詰めるだけなのである。



 うひーっ、て感じで地に背を着けて。流れ行く低い雲を視界に捉えつつ、青い空と憎々しい太陽に目を細めて、聖哉はゼヒゼヒ言う肺を落ち着けようと必死であった。
「し、死ねる……」
 なんて言いながら、痙攣を起こしそうな足の強張りに意識を向けていると、隣にどっかと腰を下ろした真二が一言。
「お前、後半からだろうが。こっちの方が死にそうだわい」
 ちょっと青白い顔を引き攣らせながら、半眼で睨んできた。
 いやでもよぉ、と聖哉は口を尖らせる。後半だけでも走り回り、両脚の筋肉が痛くなってる現状に、本人が音を上げているのである。情けないですね。
 ちなみに更に隣では、顔面からピッチに倒れ伏した啓一が、顔だけこちらに向けて、「もうゲロ吐きそう……」と力なく悶えているのであった。
 それはともかく。
「ま、何はともあれ、お疲れさん」
 一息ついた海杜が寄ってきて、固まる彼らに手を差し出してくる。それに、うー、あー、と訳不明な呻き声を交えながら握手を返すが、疲労度を鑑みてくれたのか、海杜は無理に起き上がらせようとはしなかった。それは有難い。
 とりあえず、これで守備に奔走していた四人が固まったんだなぁ、と変に冷静な思考が頭を過ぎった。ちなみにサイドバックの筈の二人は、中盤以上に上がりまくっていたので、今は攻撃陣の固まる区画でグッタリしている。
「ひー、疲れたぁ」
 もう一度、心底からそう漏らした聖哉に、うはは、と同意の声が二つ。
「でもにしちゃあ、顔がやたら嬉しそうだぞ?」
 海杜が立ったまま、腰に手を当てて水を煽りながら、そんな風に言ってきた。どうでも良いけど、ショッキング・ピンクなビブスすらクールに着こなす彼の器量が羨ましい。
「……まぁ、勝ったし」
「オモシロかったもんな、なんだかんだで」
「ぬへへ」
 啓一の奇声は肯定なんだか何なんだか。
 ただ海杜も、そうか、と笑っただけで、それで済ませてくれたのである。そんな彼に、聖哉は感謝しきりであった。
 それから少しして。
 ゼーゼーと雑音が混じっていた肺呼吸音が落ち着きを見せ始めると、頭の上からドヤドヤと騒がしい喧騒が近づいてくる。あいつら回復したんかー、と首を巡らせて見ると、天地が反対な状態で、前線にいた峻らが笑いかけてきたではないか。
「よー、死んでんの?」
 なんて問いには、海杜が肩を竦めるだけである。
「いやはや、なんとも、運動不足が祟ったもんだね。30分でこれだわ」
 お前ら早いなぁ、と言外に滲ませると、面々は苦笑した。
「ま、何はともあれ、お疲れさん」
「勝利の美酒に酔っちまおうぜ」
「何とかかんとか、でしたね。もうクタクタです」
「啓一、何うつ伏せてんだ。踏みそうになるだろが」
 口々に喋りだす彼らのテンションは高い。祐人なんて、むしろ啓一を踏んづけてるのに上記の言葉である。
 ぐりぐり。
『………………』
 ただ、踏んでんじゃねぇか、というツッコミは啓一本人が力なく零したので、他の者はあえて言葉に出さない優しさを見せてあげた。余計なところで。
「ま、そのー……。とりあえず、今回は皆さん、ありがとうございました」
「変な事に巻き込んで悪かったよ。でも、良くやってくれた、て感謝してる」
 老貴兄弟の改まったお礼は、ちょっとくすぐったい気分にさせられてしまう。真二が苦笑一つで立ち上がると、
「なーに、こっちも楽しませてもらったし。今回は勘弁してやることにするよ」
 なんて言ってくれるものだから、全員の気持ちの代弁ということで、笑みを交わすだけだった。
 そんな、安心顔の老貴兄弟を含めて、まだまだお喋りに興じていたい聖哉たちだが、その前に主審役の一年生がやって来て、注意を促してくるのである。
「はいはい、休憩してるとこ悪いけど、挨拶が終わるまでが試合だよ。こっちに整列してもらって、早く解散にしちゃおうね」
 そんなフテブテしい言葉に、疲労困憊な先輩たちも、素直に従ってしまうから不思議だ。あの一年坊、1時間走り通しで平然とした体力と言い、冷静で公正な ジャッジと言い、年上相手に動じない度胸と言い、もしかしてサッカー部で最もスゴイ逸材なんじゃないか、と聖哉は思ってしまうものなのだ。
 というか、そうなんじゃないか、と立ち上がりながら峻に言ってみたら、彼も呆れ顔で、
「うんまぁ、そうかも、ね」
 などと返すのであるが、ちょっとその様子は、心ここにあらず、だったのである。
 だから聖哉は、彼の視線を追って、なんだか美玖に抱きついてる樹理の姿を認めることになるのであった。
 ……羨ましい。
 じゃなくて。
「よかったね、峻くん。カッコいいとこ、見せられたんじゃない?」
 思わずそう、からかってしまう。
「そう、……かな。――うん、そうかも知れない、ね。きっと」
 峻が笑みを深くした。そんな真面目な彼を見ていると、なんだかこっちが照れ臭くなって来るので、聖哉は思い切り峻の背中を叩くのだ。
「さ、整列して、終わりにしよう。んでその後に、ようやく彼女に報告だで!」
 オ・ブラ・ディ、オ・ブラ・ダ、ライフ・ゴーズ・オン・ブラだ、と笑うと、峻も笑って、そうだねと頷いてみせるのだった。

 整列の後に、ありがとうございましたー、ときっちり頭を下げ合う両イレブン。その、疲れ果てて青白い顔は皆が同じであったが、やはり勝敗によって、表情の明るさは異なっているものである。
「はい、これで試合を終わりまーす、お疲れ様ー」
 との一言でとっととベンチの方に歩いていく主審な一年坊の器の大きさは何なのか。先輩相手にぞんざいな態度の強心臓に、むしろ副審役の二人がオロオロしている始末である。
 まぁそれは良いとして。
 両者の、健闘を称えあう握手を終えて、おっしゃー、と晴れやかに聖哉たちがベンチの方へ戻っていく。すると、美玖たち応援に来てくれた少女4人が、ハー フタイムと同様にタオルと飲み物を用意して出迎えてくれるではないか。そんな彼女たちの気遣いに、野郎どもは感涙に咽びながらも嬉々として走り出すのであ る。疲れも忘れてしまうのである。
 先頭の真二が類から受け取る様子を見て、次に杏里から輝と秋寛が恩恵を手渡され、それぞれが幸せそうな表情で身体の熱を冷ましていく。聖哉もウキウキ気分でそっちへ向かうと、伊佐樹にタオルと飲み物を渡していた美玖が、彼の方へと向いてニコリと微笑んでくれたのだ。
 あっはは〜、と笑いながら美玖の方へと走る聖哉。そして彼女も、うふふ〜、とノリ良く笑いながら彼の方へと向かって進んで来てくれた。両手の塞がった少女までの距離を一気に詰め、今まさに愛の言葉を囁きながら抱き締められる近さまで来たところで――
 聖哉はとりあえず、横に居たヒモ野郎にグーでパンチをお見舞いするのである。
 ボグッ
「オウッ!?」
 もんどりうって倒れる伊佐樹。それを、目を真ん丸にして見詰める美玖。そして微笑を湛えながら怒りを表現する器用な聖哉。
 奇妙な光景である。
「な、いきなり何しやがんだ!?」
 キレ気味な伊佐樹さん。その怒りも当然である。
「うるせぇこの野郎、こんバカスケ! 俺より先に美玖ちゃんから受け取るなんて何様のつもりだゴラ!」
「へへへへへん、嫌がらせに決まってんだろが! 彼女の前だからって良いカッコさせてたまるか、調子こいてんじゃねっつのラブコメ野郎!」
「ここ、こんのファッ(ピー)ンワイヤーが、嘗めたこと言いくさってからにぃ……!」
「ぬははははっ、言っとくがオレは辺莉さんと同じ教室で同じ授業を受けたりしてんだぜ、羨ましいだろカミーユもどきめ!」
「てめ、それダブりだからだろ! この留年エトーめ、ヒモピッポはヒモらしく軽薄なカサノヴァ人生を歩みやがれ!」
 と、何がそんなに悔しいのか、大の男がマジ喧嘩を始める始末である。からかわれただけでこの反応、聖哉はホントに大人気ないですね。
 そんな器量の小さい彼氏の様子に驚きつつも、
「まぁまぁ聖哉さん、落ち着いてください、ね?」
 とゆったり宥める美玖ちゃんの器の大きさと来たらもう。この子はもしや天使ですか?←疑問系
 まぁ、そんなこんなでラブコメしてる聖哉たちは良いとして。
 視線を移すと、本日の主役である峻が樹理からタオルとスポーツドリンクを受け取り、二人して赤くなりながらモジモジと会話を交わしているのであるが。
 そんな仲睦まじい特別な時間を邪魔してしまうほど野暮ではない連中は、所在なげに一つところに固まっているのであった。
「なんか、甘ったるいな、この空気」
「ああ。……俺ら、何やってんだろうな」
 と思わずボヤいてしまうのは、ハーフタイムと同じ輝と海杜である。そしてそれに頷いてしまうのは、同じく独り身が寂しい他の面々、つまり祐人と真二、利一、啓一、そして秋寛なのである。ついでに置いてかれてる杏里と類も。
 あ、伊佐樹も聖哉に追い返されるようにしてこっちへ向かってきましたよ。
「ダーメだ、アイツ。完全な色狂いだ、冗談も通じやしない」
 苦笑と共に漏れてきた言葉に、全員もただ苦笑を返すしかない、そんなカップルたちの昼下がりである。昼下がりじゃないけど。
「ま、良いじゃねぇか。これも勝利の美酒のうちだ、あいつらの努力に対する得点だとでも思って、許してやろうぜ」
 やや達観したような真二の物言いは冷静である。だが、他はまだまだ、興奮と疲労と灼熱の暑さに思考能力が働いていない状態だ。そんな感じで、出てくる言葉も容赦ないのである。
「分かっちゃいるが、このクソ暑い中で、あんな小っ恥ずかしい熱気に当てられ続けるのにも、やはり限界があるってものだ……」
 イライラしたように眉根を寄せる祐人の様子も、やっぱりちょっと正常ではないのである。
 それを見た隣の啓一は、彼の頭を冷やしてあげようと、手近な飲み物を差し出してくれる優しい少年なのだ。
「まぁまぁ、この5キログラムの水を一気に飲み干して、ちょっと気分を落ち着けなよ」
 もう一度言おう、彼らは思考能力が働いていない状態なのだ。だから、啓一の手の中にあるペットボトルが500ミリリットル入りの物であることに、生温かい目でツッコミすべきか逡巡する周囲も、言い間違えた当の本人にも、決して責任は無いのである。
 しかし、イライラを募らせていた祐人は、その正常ではない思考能力によって、容赦の無い暴力衝動が芽生えてしまったことを、拒否できなかったのである。
「何が5キログラムだー!」
 言うが早いか、深く沈ませた身体から、膝のバネを最大限に活かした渾身のボディブローが二発、啓一の腹に埋まっているのを、誰もが黙って見守ることしかできなかった。不幸である。
 ドスッ、ドスッ。
「……、……っ、……!?」
 取り落とされたペットボトル、沈み込む啓一、細く長く吐き出される祐人の呼気。ゆっくりと啓一は地面に蹲り、腹部を押さえ、額を地面につけた。
 それら一部始終を見守った諸君らが大きく目を見開いた、その先で――
「す、すい臓が―――――――っ!」
 悲痛な叫びが、啓一の魂の慟哭が、この空に木霊してしまう。
『す、すい臓!?』
 その場の全員が驚愕を口にして、どう考えても直接のダメージを受けていないであろう膵臓への衝撃伝達の過程を想像してしまう中で、殴った本人の祐人も呆気に取られた表情をしてしまっている。
 そんな、時間の凍った空間で、啓一がうわ言の様に呟く言葉は、
「クスリっ……クスリが欲しい〜〜〜〜っ」
 という物だった。
 うん、きっと、憑かれてるんですね。←何かに



 そんなこんなで、祐人たちが三流コントを繰り広げるちょっと前。
 試合終了の整列と挨拶が済んで、疲れた身体を引き摺りながら反転した春輝は、再び向きを戻さねばならなかった。
「おい、老貴」
 と背後から呼びかけられたからである。
 ゆっくりと視線を向けると、そこには少し気まずそうにしながらも、どこかサッパリした表情の長山 良樹の姿があったのだ。
「なに?」
「ああ……ちょっと、まぁ、謝ろうと思ってな」
 照れくさそうに言葉を投げる長山に、思わず漏れる春輝の苦笑。
「別に良いよ。なんだかんだで楽しかったし、気にしないで」
「いや、まぁ、そうはいかない、かな。アホな嫌味を言っちまったのも事実だし、……結構、献身的な動きもできるんだな、て思ったし。その、悪かったよ」
「ん〜……」
 なんだか、くすぐったいような、そんな感覚に頬を掻く。ケジメをつけようと言う、如何にも体育会系らしい長山の態度は、むしろ気持ちのいいもので、春輝はひたすら苦笑いしかできないのだ。
「まぁま、とりあえず、これでわだかまりも消えたわけだしね。これからは部活仲間として、仲良くやっていけばいいじゃないの」
 春輝のそんな言葉は、ちょっと目の前の少年の一本気さに感化されて出たのかもしれない。
「あ〜、……うん」
 長山はちょっと照れたように頷くが、そわそわしたように視線を移動させる姿からは、他にも何か言いたいことがあるように映る。春輝は彼の言葉を待つことにした。
「うん……まぁ、なんだ。ホントに悪かったと思ってるよ。実はちょっと、私情ってか、悔しさもあったからさ」
 観念したらしい長山は、言い難そうにモゴモゴした後、そんなことを言ってくる。なんだそんな事か、と話を掘り返す実直な彼に、春輝も呆れ顔だ。
「仕方ないさ、僕と君ではポジションが被るし、自分の役割を他人に渡すのはいい気がしないものだよ。君の気持ちも充分に理解できる」
 だからもう気にするな、というつもりで言ったのに、折角のしたり顔も、長山の苦笑に怪訝なものになってしまう。どうやら言いたい意味は違ったらしい。
「ああ、うん、……そっちじゃなくてな。俺の言いたいのは、さ」
 歯切れ悪く、長山。溜息と共に出てきた言葉は。
「……辺莉さんのこと、だよ」
 ………………。
「は?」
 思わず固まる春輝くん。綺麗な顔も台無しだ。
 しかし長山は、そんな様子を一笑に付した。
「惚けるなよ、付き合ってるんだろ? こないだの土曜に、一緒にいたのを見たぞ」
 畳み掛けるように繰り出される言葉。しかし春輝は、件の土曜日の光景を検索するので大忙しだったのである。
「それを見て、下らない嫉妬心が出てきてさ。その、仕返しのつもりで、今回の事を持ち出したんだ。実は部員の多くも、その事を知ってるんだけど……」
 彼の口元に浮かぶ苦笑は、果たして自嘲のそれなのだろうか。情けないよなぁ、なんて呟く長山の目の前で、春輝はようやく、事態を飲み込むことができる状態へと回復した。
「お前に恥かかせてやれっ、て始めたんだけど、結果はこの通りだったし……辺莉さん、わざわざここまで、応援に来てただろ? それだけお前に本気なら、俺も諦めがつくと――」
 それ以上は、春輝が顔の前に手を翳して、止めさせた。
 はぁ〜、と盛大な溜息を漏らして頭を抱え、春輝は合点のいった事実に渋い顔をするのである。
「あ〜……、と。まぁ、待ちなよ。勘違いだから」
「勘違いって、もう隠す必要も無いだろ? あんな時間に、親しそうに見詰め合ってる所を見せられて、誤解しろって方が無理だ」
「ん〜、ああ、まぁ、落ち着いて。んでアレを見て」
 矢継ぎ早に話そうとする長山を止め、ゆっくりと指をさす春輝。果たして彼の示す先には――
「美玖ちゃん、美玖ちゃんの言った通り、ゲームを楽しむ為に、オ・ブラ・ディ、オ・ブラ・ダ、て唱えてたんだよ」
「はい、良かったです。聖哉さんのカッコいい姿を見れて、私、凄く嬉しかった……」
 美玖ちゃん……、聖哉さん……、と囁きあい、手を握り合って二人の世界に没頭する、なんだかホントに近づきたくない恥ずかしいカップルの姿があった。
 ………………。
「辺莉さんと付き合ってるのは、あそこにいる上井先輩だよ。土曜日には、たまたまデートしてる二人に会っただけなんだけど……辺莉さんの隣、見えなかったの?」
 呆れ果てた春輝の声も耳に入らないかのように、驚愕に目を見開いてその光景を見詰める長山くん。彼は自分が、より恥ずかしい勘違いをしていたことに気付くのに、たっぷり3秒ほどの時間を要し。
 そして気付いた直後に、信じられないような叫びを響かせねばならなかったのである。
「な、なんだって――――――――――――――――っ!?」
 長山くんの悲鳴にも似た大声と、啓一の悲痛な膵臓ダメージを訴える叫び声が重なる灼熱のグラウンドにて。
 老貴兄弟とサッカー部員の、非常にマヌケな因縁対決はこうして幕を閉じました。
 とさ。
 ちゃんちゃん。
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